思考力が強い人が「箇条書きメモ」を駆使する訳
人生のすべての瞬間で威力を発揮する「箇条書きのリスト」のメソッドを紹介します。(写真:freeangle/PIXTA)
増えることがあっても減らない仕事、せっかく読んだのに内容を思い出せない本、ぼんやりとして不安がつのる将来……これらすべてに効果があるのが「箇条書きのリスト」を書き出す方法。
研究者かつブロガーとして日々多くのアウトプットをし、『仕事と自分を変える 「リスト」の魔法』を上梓した堀正岳氏が、仕事(研究)や生活に活かしている「箇条書きリスト」のメソッドを紹介する。
誰もが使える「万能のメソッド」
仕事のためだけではなく、家庭の用事でも、自分の心の中を探るようなときも、人生のすべての瞬間で、「箇条書きのリスト」は威力を発揮します。
私も、仕事を始めるときには、1枚のやることリストを目の前に置いています。買い物に行く際には、もちろん買い忘れを防ぐためのリストをポケットに入れます。考え事をするときには、小さなカードを取り出してそこに箇条書きで思いをつらつらと書いていきますし、不安に押しつぶされそうなとき、冷静さを失いそうになりつつあるときも、私はリストを作ります。
本を読むときにも、旅行に出かけるときも、登壇してプレゼンをするといった、一見リストと関係なさそうな瞬間でも、リストはなんらかの形で私の手元にあります。私の場合は、リストの形になっていない限り、どこか安心できず、物事を中途半端な状態で放っている気がしてしまい、そわそわするほどです。
いまも、私は1つのリストを元に、この文章を書いています。原稿を書いている私にとっては、文章自体はまだ形をなしてはいませんが、リストの中ではすでに「到達可能な未来」として完成しています。リストは、未来を呼び寄せてくれる道具でもあると言えるのです。
また、リストはやるべき仕事と向き合うこと、買うべきものをあらかじめ選んでおくこと、考えをまとめるために情報を整理すること……といったように、「こうなったらいいな」という意思や願望を形にして、実行しやすくしてくれます。
文章を書くのにひらがなやアルファベットを利用するように、リストは思考のための基本的な道具になるのです。この道具は私たちの記憶力や思考力を高め、才能を引き出す力も持っています。
単純な箇条書きのリストにそこまでの力があるのか、半信半疑の人もいると思いますので、試しに2つのリストを作っていただきたいと思います。
ここでは実際に紙とペンを取り出して、手を動かすことが重要です。ただ目で見て文章で納得したつもりになるのではなく、実際にリストを作ってその心理的な効果を感じることで見えてくるものがあるからです。
最初の例は「頭の中を書き出すリスト」です。まず1枚の紙を取り出して、いま気になっていることを箇条書きで書き出してみましょう。
気になっていることは、どんなものでも構いません。まだ片付いていない仕事、買い忘れていたもの、まだメールの返事を送っていない案件、読もうと思っていたけれども忘れている本、などといった具体的な行動を伴う事柄なら思い出しやすいはずです。
もっとあいまいな事柄、例えば気になっている人間関係、将来についての不安、心の中に隠していることについて書いてもいいでしょう。
このとき「つまらないものだから書かない」などといった区別はつけないように注意します。歯ブラシを買い忘れたといったつまらない雑用と、気が重くなるような将来の不安とを、同様の扱いで並列させて書き足していきます。例えば、次のようになります。
● 仕事で電話をかけるのを忘れている
● 子どもの書いた読書感想文を添削する時間を作ること
● ドラッグストアで目薬を買い忘れている
● 先日ツイッターで見た面白そうな本を注文する
● 将来の蓄えについて計画を立てたい
やってみると、すぐに紙の上に20個程度の項目が書き出せるはずです。そうしたらひと休みして、さらに20個を書き足すことができないか試してみます。周りを見渡し、気になることがないか探してみましょう。カレンダーやメールの受信箱を見て、忘れていたことがないか探していきます。
この作業はブレインダンプ(頭の中のものを、ドサッと落とす)という手法ですが、慣れてくれば一度に100項目ほどを頭の中から引き出すことができるようになります。そして、いま作ったこのリストは、それだけで少し大きめの「やることリスト」として利用価値があるものです。
この作業を通して初めて人生の課題のようなものを文章にして書いた、という人もいるでしょう。
やってみて、心理的にはどんな気持ちになったでしょうか?日常の作業に追われていた忙しい人なら、こうしてリストを書いてみるだけで妙にスッキリとした、胸のつかえが下りたような気持ちがしたかもしれません。
現実にはやるべきことや気になっていることはまだ解決していないのですが、こうして一覧できるようになるだけで、心配事がいったんリストに預けられた状態になります。すると、その対象と自分自身との間に距離が生まれ、感じていたストレスがそれほど気にならなくなるのです。
これがリストの基本的な働きの1つである「気持ちがスッキリとする」という効果です。
読んでも忘れない「リストを活かした読書」
もう1つ、例を見てみましょう。先程と同じように紙を取り出し、今度は過去に読んだことがある本の要約を箇条書きで書いてみます。
内容をよく覚えているなら、項目を章ごとにまとめて、一つひとつの章で何が書いてあったのかを粗筋で書くのでもいいでしょう。小説なら印象に残っている場面やセリフだけを抜き出して書いてもかまいません。
こうして出来上がった粗筋の項目を土台にして、一つひとつの章や場面の、重要性や感想について、自分の言葉で書くリストを並列させて作ってみてください。「内容に対する意見」「自分がそこから敷衍(ふえん)して考えたことを記入する項目」といったような、自分が本から受け取ったものを列挙してみます。
例えば私が読書をしているときに作ったリストの一部分は次のようになっています。
スタニスワフ・レム『ソラリス』
● 1章「やってきた男」
→惑星ソラリスにケルヴィンが到着する。人気のないステーション。酔っ払った学者スナウトと会う。まるで幽霊に会ったような反応。ギバリャンがすでに死んでいることを知る。ここでは何かがあった。彼らは何を恐れている?
→台詞:「もしも別の誰かを見かけたら〜」他に何かがいるという警告。
→印象:通読後にみなおすと、最初の数ページですべてが予告されていることがわかる。知性で理解できないものと出会った科学者たちが陥った狂気。それが情景描写から何も知らない読者にすでに伝わるように仕掛けてある。
こうして出来上がったものを見てみると、それは本について書かれたメモというよりも、自分自身がその本を読んだ体験が取り出され、箇条書きになっているものであることに気づくと思います。
リストの効果を通し、これまで届かなかった世界へ
粗筋を知りたいなら、ウェブを検索することで、たいていの本について見つけることができます。しかしこのリストに書き留められているのは、「粗筋」にとどまりません。本の内容と、触発されて自分が考えたことがすべてまとまっていると同時に、どこまでが本の中身で、どこからが自分の感想なのかが明確に分離されています。
いわば、読書経験そのものがリストという形で見やすくなって保存されているのです。
今度はなにが起こったのかというと、頭の中で考えるだけでは作ることができなかった「情報の構造」と「感想」との関係が、箇条書きにすることを通して立体的に取り出されたのです。
例えばこの本を数年たって誰かに紹介する場合、記憶に頼っているだけならあらすじや場面、セリフの詳細といったものはあやふやになっているでしょうし、本を読んだときに生まれた感興と、自分の感想とが分離できずに混ざり合っている可能性が高いでしょう。
そのとき、このリストを使えば項目を上から追ってゆくだけで、本の内容と感想とを流れを追って追体験し、説明することができます。これがリストのもっているもう一つの基本的な働きである「考え事をハッキリとさせる」という効果です。
記憶に頼るのでは忘れがちで、頭の中で考えるには複雑すぎる思考を、リストという形で取り出すことで、簡単に扱えるようになるのです。
「スッキリさせる」と「ハッキリさせる」に大きく分類できるリストの効果ですが、この2つの力を通して、リストはこれまで届かなかった世界へ手を伸ばす、踏み台のような役割を担ってくれるのです。