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ジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBS記者のジャーナリスト・山口敬之さんから性暴力被害にあったという訴えに対し、12月18日の東京地裁判決は、山口さんが合意のないまま性行為に及んだと認定した。

山口さん側が控訴したが、伊藤さんは控訴審で新たに、ホテルの部屋に入る二人の姿を最後に見たドアマンの証言を提出する予定だという。

一体どうしてこんな重要な証拠が、今になって出てきたのだろうか。これには、捜査機関の「ブラックボックス」問題が関係している。

●不起訴事件の証拠開示「ブラックボックス」

伊藤さんは検察審査会で「不起訴相当」と議決され、2017年9月28日に民事訴訟を提起した。民事訴訟では、請求する側が請求の根拠となる主張と証拠を集めなければならない。

被害者は事件が不起訴となった場合、記録の開示請求ができる。伊藤さんも検察審査会に申し立てする前に開示請求を行い、著書『Black Box』では「不起訴にしては多くの証拠を出してもらえた」と記している。

代理人の西廣陽子弁護士によると、防犯カメラの解析結果、DNA対比結果、当日の衣類などの写真報告書、ホテル客室の宿泊記録や開錠記録などが開示され、民事訴訟で証拠として提出したという。

一方で、防犯カメラ映像や供述調書などは「あるはず」の記録だが、開示されなかった。防犯カメラ映像は、裁判所を介して提出された。

これらに加えて、請求で開示されず、伊藤さん側が存在することも知らなかった記録もある。それが冒頭で触れたドアマンの証言だ。

民事訴訟は2019年10月7日、全ての審理が終了し結審した。その報道を受け、新たに、事件の起こったホテルのドアマンから、伊藤さんの支援団体を通じて連絡があった。そのドアマンは、警察から調書も取られていたという。伊藤さんはいう。

「(調書を取り)ドアマンは捜査員から『これでいける』と言われていたが、それから何も連絡がなかった。裁判になったら、裁判所から呼ばれるんじゃないかと思っていたそうです。自分の調書が隠されてしまったのではないかと思い、支援団体のほうに連絡をくださったんですね。その方が、私たちを見た最後の人だったんです」

代理人の村田智子弁護士も18日の会見で「不起訴になったときに刑事記録の謄写をしたが、その中には(ドアマンの調書が)含まれてなかったので、私たちのほうは(検察審査会でドアマンの調書が使われたかどうか)分からないんです」と話す。

そもそも捜査権限のない一般人が証拠を集めようとしても限界がある。著書『Black Box』によれば、伊藤さんは検察審査会への申し立てにあたり、ホテルに対して陳述書を作成したいとお願いしたが、受け入れられなかった。

不起訴事件で被害者が証拠を開示しても、全てが開示されるわけではなかった。このあたりのさじ加減は「ブラックボックス」だ。

●検察審査会の文書は黒塗り

伊藤さんが感じた「ブラックボックス」はこれだけではない。検察審査会では、そもそもどのような証拠をもとに審査がなされたのか。議決以外の情報がなかった。

伊藤さんが問い合わせたところ、出て来た文書は黒塗りだったという。伊藤さんは「なんのためにやったんだろうと思った」と吐露する。

「どんな証拠や証言が採用されたのか、何を見て判断するのか全くわからない。私も証人として呼ばれなかった。不起訴相当の議決以外の情報がない。不透明な部分があるからこそ、なかなか解決できないのではないか」

検察審査会法では、すでに議決があったときは、同じ事件について更に審査の申立をすることはできない規定があるため、一度「不起訴相当」と議決された伊藤さんは、この民事裁判の結果をもってしても、再び審査の申し立てをすることはできない。

今後は検察官が再び事件に着手しない限り、刑事事件化されることはない。

一度しかチャンスのない検察審査会でどのような審理がなされたのかわからず、民事訴訟を起こそうと不起訴事件記録の開示請求をしても、一部しか出てこない。刑事事件化を諦めた被害者にとって、あまりに酷な対応ばかりだ。被害者が納得できるよう、判断の根拠を説明すべきではないか。伊藤詩織さんの事件は、日本の捜査機関の「ブラックボックス」問題を浮き彫りにした。