「恋人の聖地」的な場所で見られる無数の南京錠は、カップルたちの「愛の証」として残されたものですが、安全上の問題が噴出しています。ある高速道路SAでは、自ら設置した南京錠だらけの柵を撤去することになりました。

無数の南京錠が掛けられた橋が損壊することも

 NEXCO西日本が、松山道の伊予灘SA(愛媛県伊予市)にある「ハートロックフェンス」を2019年6月27日(木)、28日(金)に撤去します。SA内の展望スペースに立つ、いくつもの南京錠が掛けられたフェンスで、これらはカップルたちが愛の証として残していったものです。


橋のフェンスに掛けられたおびただしい数の南京錠。同様の光景は世界中で見られる(2015年9月、乗りものニュース編集部撮影)。

 伊予灘の夕日や夜景を一望できる伊予灘SAは、観光庁が後援するNPO法人 地域活性化支援センター(静岡市)が全国で認定している「恋人の聖地」のひとつです。展望スペースにはハートロックフェンスのほか、恋人の聖地と書かれたモニュメントも設置されています。フェンスはおよそ10年前に「聖地」の認定を受けたSA側が設置、売店でも南京錠を販売していました。

「南京錠の重みによる倒壊など、将来的な安全面を考慮してハートロックフェンスを撤去します。今後はフェンスを設けず、別のオブジェなどを設置する予定です」(NEXCO西日本 四国支社)

 このように風光明媚な場所で無数の南京錠が掛けられている光景は、世界中で見られます。地域活性化支援センターによると、もともとヨーロッパが発祥とされる風習で、自然発生的に南京錠が掛けられていくケースもあるとのこと。しかし、それが増えすぎて景観や安全性に悪影響を与えるケースもあり、橋の欄干の金網などに掛けられた南京錠の重みで、橋が損壊するような事例も存在します。

 ただ伊予灘SAの場合、前出のとおり自然と南京錠が集まっていったわけではなく、SA側でフェンスを用意しています。ここと同じく「恋人の聖地」に認定されている東九州道の別府湾SA(大分県別府市)や、北陸道の杉津(すいづ)PA(福井県敦賀市)などにも南京錠を掛けるフェンスが設けられていますが、なぜSA側でこうした場所を用意するのでしょうか。

「プロポーズしちゃえよ」を盛り上げる南京錠

 地域活性化支援センターによると、南京錠の風習は日本でいえば、神社の絵馬に近いものだといいます。実際、NEXCO西日本によると琵琶湖を望む名神高速の大津SA(大津市)では、展望デッキに南京錠ではなく絵馬を掛けるツリーを設けているとのこと。こちらも「恋人の聖地」認定のSAです。

「恋人の聖地」認定活動は、少子化対策と地域活性化、観光の広域連携を目的に、地域活性化支援センターが全国から「プロポーズにふさわしいロマンティックなスポット」を選定しているものだといいます。新たな旅の動機を作り、カップルにとって「この場所でプロポーズしたんだよ」という思い出を作れる環境を目指し、自治体などと連携して行う企画だそうです。その環境づくりは、自治体などが主体になるとのこと。

「プロポーズの機運や、観光地としての盛り上がりを視覚的に見せる装置として、南京錠や絵馬を掛ける場所だったり、自由に書き込めるノートが設置されたりしています。一方、そうしたシンボリックなモノがなく、純粋に風景だけを楽しむというコンセプトの場所もあります。こうした“仕掛け”は様々で、同じ場所で時とともに変化していくこともあるでしょう」(地域活性化支援センター)


「恋人たちの聖地」モニュメントが置かれた伊予灘SA。後ろの「ハートロックフェンス」に無数の南京錠が掛かっている(画像:写真AC)。

 伊予灘SAのハートロックフェンスに掛けられた南京錠は取り外され、返却を希望する人のためにNEXCO西日本の愛媛高速道路事務所(松山市)で1年間保管されるそうです。1年後に返却の申し出がなかったものが、別のオブジェなどに再生され、伊予灘SAに設置されるといいます。