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忘れ物防止タグを販売するMAMORIO株式会社が5月30日に新製品発表会「MAMORIO STORIES2019」を開催した。その内容は大きなインパクトのある発表を3つ重ねたものだった。

ひとつは「機能が強化され、より安価になった新型MAMORIOの発売」、ふたつめが「紛失物をARで探す新機能の実装」、3つめは「落としたスマホを探す新サービス開始」だ。

それら新機能と、これまでの取り組みから、彼らが考える「なくすをなくす」未来にいたるストーリーがどのようなものになるのかをお伝えする。

●新型MAMORIOの推しポイントとは

いままでに何度かロボスタでも紹介してきたが、MAMORIOは紛失を防止するタグ型デバイスだ。

デバイスからBluetoothLowEnergyの電波を発信し、MAMORIOアプリをインストールしたスマホと連携することで紛失を防止する。



機能は大きく分けて3つ。

・手元から離れると、いつどこでなくしたかをスマートフォンにお知らせする「お知らせ機能」

・手元から離れたMAMORIOと他のユーザーがすれちがった時、その場所を知らせる「みんなでさがす」機能

・駅や街に設置されているMAMORIO SpotにMAMORIOが届くとお知らせするMAMORIO Spot

そして、その機能のキーとなるデバイス、MAMORIOが第3世代にバージョンアップするにあたって、下記のような仕様になった。



サイズ / 重さ

縦35.5mm×横19mm×厚さ3.4mm->3.5mm / 3g

・電池寿命

約1年間 利用可能

(利用環境によって変化。)

本体交換プログラムあり(有償)



保証期間

6ヶ月



通信方法

Bluetooth4.0(Bluetooth Low Energy)



有効距離

約30m→
約60m:



発信間隔

5秒→
3.31秒:



価格

3500円→
2,480円:
(税抜)



カラー

Charcoal Black / Navy Blue / Milk Beige / Sakura Pink



付帯サービス

MAMORIOあんしんプラン(任意加入 / 有償)

特に大きな変更点は発信頻度が約1.5倍、飛距離が約2倍になっていることだ。

この背景としては近年のスマートフォンが電池寿命を伸ばすためにBLE機能が起動している時間を短縮してきていることがあるだろう。

スマホ側がMAMORIOを含むBLE端末を見失いやすくなってしまったため、ユーザーからすると「新型のスマホにしたら(機能がアップしたはずなのに)紛失の誤検知が多い、MAMORIOの機能が落ちた!」という苦情につながりやすい。

UXを第一に考え、より補足されやすくなるよう、発信頻度や電波飛距離に関する機能を向上させて対応したものと思われる。



このように基本機能の大幅な機能向上をしながら、電池寿命を1.5倍の1年間に伸ばし、価格を30%下げてきているのは、これから先、「あらゆるものにMAMORIOをつけてもらいたい」という気持ちのあらわれだろう。

なお、従来品のMAMORIOユーザーは、電池切れ時の本体交換プログラム「OTAKIAGE」の際にこちらの新型MAMORIOを割安で入手できるのも嬉しい知らせだ。

●探すを助けるAR機能「カメラで探す」

近年のIoTブームの中で一般ユーザーにとっても機能を想像しやすい「紛失防止タグ」は売れ筋商品の一つだ。

海外製品の多いIoT機器の中でAmazon LaunchPadで連続1位を取り続けるなど、国産メーカーとして気を吐くMAMORIOだが、他の紛失防止タグと比較した時に一点見劣りする部分があった。

それが、「なくした場所がわかっても探す手間がかかる」点だ。

他の落とし物防止タグの多くは、スマホからの操作によって音を鳴らすことができ、それを頼りに探すことができるため、散らかった部屋などで物を探す時に大いに役立つ。



他社製品との比較を説明するMAMORIOのCEO 増木大己氏。

これは、MAMORIOが、電池の短寿命化や大型化にともなうサイズアップのデメリットを考え、今まで切り捨ててきた機能だ。

しかし、今回、「MAMORIOから発信される電波の強度を可視化する」というアプローチを取ることにより「部屋の中で探す」機能を実装したという。

その探し方はこうだ。

「カメラで探す」機能をONにした状態で屋内を歩き回ると、その際のスマホの位置や姿勢と、その場所で感知したMAMORIOの電波強度と紐づけて記録される。

そして、アウトカメラで撮影されている空間上に「カメラで探す」機能を使用し始めてから検知した電波強度と、そのタイミングでスマホがあった位置をマッチングさせ、その軌跡が電波強度によって色が変化する球として表示される。

ユーザーはある程度室内を歩き回った上で電波強度が強かった地点にアタリをつけて、探すことができる。



2D画面は懐かしの「ドラゴンレーダー」をイメージしているようだ

また、この軌跡は右上の緑のゾーンに自分を中心とした電波強度が2Dで表示され、どのあたりで電波強度が強かったのかを確認することができる。

この機能を使うと、無作為に探し回るのに比べ、約4.7倍のスピードで落とし物が発見できるようになると言う。



デバイス側に一切、手を加えていないため、アプリ側のアップデートで過去のMAMORIO全製品でこの機能が利用できる。



これは「カメラで探す」機能が、スマホ側で全ての処理を完結しているため、デバイス側は「いままでどおりBLEの電波を吹くだけ」で済んでいるためだ。

そのため、現在使用しているMAMORIOに対してもスマホアプリをバージョンアップすることだけで対応できるというわけだ。

このような実装は「ハードウェアに依存しないサービス」を目指すIoT企業にとってはお手本とも言えるスタイルだろう。

MAMORIOのインフラ力を活かした新サービス「お忘れスマホ自動通知サービス」

今回の発表会では大きなニュースバリューのあるサービス、製品が3つ発表されたが、その中で個人的に最もインパクトが有ったのは6月1日からサービスが開始される「お忘れスマホ自動通知サービス」だ。

このサービスは、MAMORIOアプリがインストールされたスマホが駅などの遺失物取扱所に届くと、遺失物取扱所に設置されたMAMORIO Spotの電波をキャッチしてスマートフォンがクラウドに情報を送信。アプリに登録されたアドレスに保管通知メールが送られ、早期発見に役立てるというものだ。

従来どおり、アプリの価格は
無料:
だ。



従来の「スマホを探す」サービスでは、スマホ側のGPSの誤差や、屋内電波環境などの問題から、駅などで紛失したスマホを見つける難易度はかなり高いものだった。



そして、自力で見つけることができなかった場合は、鉄道会社から警察に届けられ、SIMカードの番号を手がかりに持ち主に通知が届くまでにかかる時間は平均5日。

決済、スマートロック、個人認証など、様々な機能がスマホが集中している現代において、5日間スマホのない絶望を考えると、新品を購入してしまうユーザーは多いと言う。



それに対して、MAMORIO Spotが設置された遺失物センターに届いてから持ち主に通知が届くまでにかかる時間は平均20分だ。



スマホ側の電池状況などから、必ず動作するというサービスではないかも知れないとは言うが、スマホの紛失場所の60%が「交通機関や商業施設」などの屋内である、というデータを見ると、おまもりがわりに「無料アプリMAMORIO」をインストールする一つのきっかけとしては十分なものだろう。



最も勢いがあるIoTガジェットを作りながらも、「デバイスの機能」にサービス価値の本質をおかないというMAMORIO。

いままで築いてきたインフラ力をフル活用し、「現代において最もしたくない紛失」を防ぐサービスをデバイスレス、無料で展開する姿勢から「なくすをなくす」未来を目指すMAMORIOらしさが強く感じられた。

●MAMORIOの今後の展開について

今回の発表から、MAMORIOが本格的に「なくすをなくす」を実現するための仕組みづくりに乗り出したことが感じられた。

コンビニで売っているスマホ充電器とほぼ同じ価格帯にまで下げられた新型MAMORIOもそうだが、無料で始めることが可能な「スマホを探す」サービスは画期的だ。

このサービスはMAMORIO Spotを全国700路線に置くMAMORIOの強みを存分に活かしており、おそらくこのニュースを知ったユーザーがインストールに及ぶ可能性は高い。

増加したMAMORIOユーザーによって構成されるクラウドトラッキング機能は更にメッシュが細かくなり、『すぐに見つかる』『リアルタイムに場所がわかる』というMAMORIOの基本機能が上がっていく。



ユーザーの増加により広がった2018年のMAMORIOのクラウドトラッキングカバー面積を紹介する泉水亮介COO

また、本格導入した東急電鉄は「各駅の駅務室」にMAMORIO Spotを導入したという。これにより「駅務室に紛失物が届けられれば
すぐに:
ユーザーにわかる」UXを実現すると思われるが、今後、「ターミナル駅などに存在する遺失物集約駅の遺失物センター」にのみSpotを置いている他の路線もこの動きに同調していくだろう。



沿線ごとにある遺失物集約駅の代表格、JR東京駅。各駅から送られてくる落とし物の分別作業には毎日数人がかかりきりになるという。こういった作業が発生する前に、ユーザーが紛失物を届けられた各駅で回収できれば、ユーザーにとっても交通機関にとってもWin-Winとなる。

オフィスの物品の紛失を防ぎ、管理状況を可視化するMAMORIO OFFICEや、施設来場者向けFree WifiにMAMORIO Spot機能を付加したサービスなど、あらゆる方面から「みつかるインフラ」を提供していくMAMORIO。



ユーザーの声を吸い上げ、QRコードから簡単にMAMORIO管理権限を委譲できる機能を実装したMAMORIO OFFICE

こうしたインフラ力を上げることによって、一般のBluetoothデバイスのファームウェアをアップデートしてMAMORIO化するB2B向けサービス「MAMORIO Inside(SW)」などのアライアンス事業の収益化も見込めてくるだろう。(SONYのスマートウォッチ、wena wristにて実用化実績あり)



MAMORIOは、東京オリンピックで来日観光客に「なくすがなくなった日本」を体験してもらい、「MAMORIOのサービスや運用ノウハウを『落とし物を届ける文化』という社会インフラとともに輸出する」という。



『紛失』に対するアプローチとしては現在の中国のように高精細な監視カメラに頼る方式もあるかもしれないが、プライバシー意識の問題からサービスを即座に展開できる国はそう多くはないだろう。

それに対して、「落とし物を届ける文化」をテクノロジーでサポートするMAMORIOであれば、心理的には受け入れやすいことが予想される。

業界全体の動きとして、2019年1月にはcm単位で方向探知が可能になるBluetooth5.1の仕様が発表されたことで、今後は紛失防止タグによる探索の精度が格段に向上するのでは? と期待されている。また、6月4日早朝に開催されたアップルの技術者向けイベントWWDCでは、新しいMacを紛失したり盗まれた場合でも、他のApple製品と通信することで場所を特定する技術が発表された。この技術は「MAMORIO」のコンセプトともかなり近い。

このようなことから、紛失防止タグ分野は今後ますます活発化することが予想され、「MAMORIO」の進化からは目が離せない状況が続きそうだ。
(梅田 正人)