「マルチタスク」での仕事が極めて非効率な理由
あなたはマルチタスク派ですか?シングルタスク派ですか?(写真:Elnur/PIXTA)
「今日はもう集中力が切れてしまった……」「どうしても仕事に集中できない……」誰にでもそんな日があると思います。とはいえ、仕事は減ってくれないし、集中できないままダラダラとやり続けているうちに残業してしまう……。身に覚えのある方も多いことでしょう。
どうすれば集中力を保ったまま、仕事に取り組めるのでしょうか? この記事では、記憶術・勉強法の専門家である宇都出雅巳さんの新著『図解 仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方』の内容を抜粋・再構成して、この疑問にお答えします。
マルチタスク派? シングルタスク派?
仕事の進め方は大別すると、複数の仕事をこなす「マルチタスク」と、1つの仕事に集中する「シングルタスク」に分けられます。
このうちどちらがより効率的なのか、議論になることも多いようですが、筆者としては、シングルタスクをおすすめします。それは、「マルチタスクは集中力のロスが多すぎる」からです。
複数のタスクを素早く切り替えながら進めていると、なんだか「デキる人」になった気がするかもしれません。しかし、その裏では貴重な集中力がムダづかいされています。というのも、タスクを切り替えるときには、それぞれの仕事に必要な情報をいちいち記憶から呼び出し直さないといけないため、集中力のロスが生じてしまうからです。
例えば、同僚に話しかけられたり、電話が入ってきたり、メールをチェックしたりして仕事が中断された後、元の仕事にすぐには戻れない、といった経験をしたことはないでしょうか? これが集中力のロスです。
わずかなことなのであまり意識しないかもしれませんが、1日に何度もタスクを切り替えれば、そのロスはかなりの量になります。
このロスを考えると、一見「デキる人」のように見えるマルチタスクは実は非効率だとおわかりいただけるでしょう。
とくに現代はニュースやメール、SNS、各種アプリのプッシュ通知などによって仕事が細切れに中断される機会が増えています。つまり、自然とマルチタスクになりやすい環境なのです。
まずは自分でコントロールできる範囲のことはできるだけシングルタスク化を徹底しましょう。そのうえでスマホやネットを意識的に遮断し、マルチタスク化を防ぐことが重要です。
1つのことに集中するシングルタスク。その究極の形が「ゾーン」や「フロー」と呼ばれている状態です。スポーツの話題などで聞いたことのある方も多いことでしょう。
ゾーンに入った状態では、一切の雑念がなくなり、対象に意識が集中しています。とはいえ、一所懸命に対象に注意を向けようとしているのではありません。自然と注意が向いている、言わば、自分と対象とが一体化した状態になっています。
このため、情報処理の精度も高く、頭の回転が速くなったように感じられます。視野は狭くならず、自分自身も含めて状況を広く捉えられています。仕事がはかどるのも当然です。
ポイント1:ルーチン
いつでもこの状態に入れれば理想的ですが、「ゾーンに入れ」と言われたり、自分に言い聞かせたところで入れるものでもありません。ただ、ゾーンに入りやすい条件や方法はあります。
ここからは、その具体的な方法について4つのポイントに分けて詳しく解説していきます。
先ほどお伝えしたように、ゾーン・フローが注目されだしたのはスポーツの分野からです。さまざまな研究により、多くの一流選手がこの状態を活用していることがわかっています。
そして、ゾーン・フローに入るためにアスリートが行っていることとして注目されているのが「ルーチン」と呼ばれる、一連の決まった行動です。
これは、その行動をする中で自分が集中できる世界に入っていく、いわば「脳のプログラミング」です。先日、現役を引退したイチロー元選手のバッティング前の一連の動作も、ルーチンの1つです。
ルーチンはちょっとした動作で十分です。図の例を参考に、ぜひ自分に合ったルーチンを見つけてみてください。
ルーチンからゾーンに入るのは鍛錬が必要ですが、環境を整えることは、訓練不要で、だれでもできます。そのポイントを時間と空間(視覚&聴覚)という観点から整理しました。
・時間…おすすめは早朝
脳は寝ている間に記憶を整理します。このため起きたばかりの脳はスッキリした状態です。また、早朝は活動している人も少なく、注意を削がれる要因が少ないので、仕事は間違いなくはかどります。
・空間(視覚)…注意を引くものから逃れる
漫画『スラムダンク』の作者・井上雄彦氏が、ネームを書くときの場所はお気に入りのカフェ。その理由は「家や事務所だと誘惑が多すぎるため」。あえて情報を遮断できる空間に身を置くのです。なお、要注意はスマホ。あえて持っていかない、もしくはカバン奥深くにしまいましょう。
・空間(聴覚)…静寂よりも適度な雑音
静かな空間がゾーンに入りやすいと思うかもしれませんが、静かだと小さな音でも気になり、実は逆効果です。むしろ、カフェなど適度にざわざわした空間が、音が背景となり気になりにくいもの。もしくは、おなじみの1曲もしくは数曲をリピートして聞くと、リピートするなかで音楽が背景となり効果的です。
ポイント3:仕事を分解・具体化する
なかなか取り組み始められない、集中できない仕事は、だいたいが以下のようなものです。
・何から手をつけていいかよくわからないくらい壮大な仕事
・とにかく手間がかかる面倒な仕事
・締め切りが曖昧な仕事
これらに共通するのは「今、何をするか」が明確になっていないこと。いくらやる気があっても、やることが明確でないと行動できません。まずは仕事を細かく分解して、具体的にしていきましょう。
例えば、本のタイトルを決めないといけないとします。期限はまだ先ですが、早いにこしたことはありません。タイトルの考え方や決め方については自由にやっていいと言われています。さて、このような仕事でゾーンに入ることができるでしょうか?
まず、タイトルを決めるということは、さまざまな案を出して、その中から絞り込むということです。この時点で仕事が2つに分解されました。また、案出しでは方向性を3つ考え、それぞれの方向性で10案ずつアイデアを出すなど、プロセスを分けることができるはずです。
また、それぞれにかける時間を割り振っておけば、少なくとも「今日、会社を出るまでに自分がすべきこと」は明確になるでしょう。
マラソンに例えれば、42.195kmを完走することが最終ゴールであったとしても、まずは目の前の5kmに意識を向けることです。
仕事の速い人は仕事を具体的に明確にすることをすぐにやっています。
これによって、自分がいま何をすべきなのかが明確なので、迷いなく仕事に取り掛かり、ゾーンに入りやすくなります。結果的に人より早く仕事を終わらせているだけなのです。
あまりに簡単なゲームは刺激が少なすぎてハマる人はいません。逆に極端に難しすぎても、やる気が失せてしまいますよね。これは仕事でも同じです。仕事の適難易度がゾーンに入れるかどうかを左右するのです。
こう言うと「仕事は上司から与えられるものだから難易度は変えられない」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、はたしてそうでしょうか。
仕事のレベルを自分で上げる
例えば、データ入力の仕事を与えられたとします。「こんなの簡単でつまらない」というレベルの仕事です。そのままのテンションで作業をはじめてもゾーンに入れないことは目に見えています。
そんなときは、仕事のレベルを上げましょう。
例えば「普段なら30分かかるけど、今回は15分で終わらせる」といったように、あえて難易度を上げるのです。コツは達成できるかどうかギリギリのラインに設定することです。
逆に極端に難しい仕事を与えられたら、少しレベルを下げてみましょう。例えば、上司から分厚い専門書を渡されて「明日までに勉強しろ」と言われたとします。パラパラとめくってみても知らない用語だらけで、すべてを理解することはまず不可能です。
そんなときは、とりあえず目次と各見出しだけは見て、細かいところは読まずに大枠だけ捉えたり、自分にとって少しでもなじみがある、興味の持てるところから読みはじめたりしましょう。それだけで難易度は現実的なレベルに落ち着きます。
このように、与えられた仕事であっても難易度の調整はできます。あとは自分がゾーンに入りやすい「適度な難易度」とはどれくらいのものなのかを知っておくだけです。
まとめると、以下のようになります。
1、自分のルーチンを確立する
2、集中しやすい環境に身を置く
3、いまやるべき仕事を具体的にする
4、簡単すぎる仕事は難易度を上げる、難しすぎる仕事は難易度を下げる
以上のことを実践すれば、あなたも仕事中にアスリート並みの集中力を手に入れることができるでしょう。