「この世に“絶対”ってないんだよ」

そんな言葉がもっとも似合ってしまう全裸×お盆のネタで人気の芸人・アキラ100%さん。2018年1月、全日本を震撼させた「爆笑ヒットパレード」での失敗から早1年。

失敗してもなお、愚直に裸芸を貫き続ける彼に、「あの失敗は大丈夫だったのか」「そもそもなんでそんなギリギリな芸を?」と野暮な質問をしてきました。

〈聞き手:いしかわゆき(新R25編集部)〉


アキラ100%】1974年8月15日生まれ。2005年お笑いコンビ「タンバリン」で活動スタート。2011年にピン芸人に転向し、2015年1月「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!」に「丸腰刑事」のネタで出演して話題に。2017年、あらゆるシチュエーションで股間を隠す裸芸“絶対に見せない de SHOW”で「R-1ぐらんぷり2017」優勝を果たす。

あの放送事故はこれまでで一番の失敗。ただ、エンタメ性は高まった!?


アキラ100%さん「こんにちは〜!」

いしかわ:
(生で見るとものすごいインパクトだ…)絶対にお盆を落とさないでくださいよ!

アキラ100%さん:
この世に“絶対”ってないんですよ? (ドヤ顏)

いしかわ:
…では早速聞いてしまいますが、あれはアキラさんにとって、初めての失敗だったんですよね…?

アキラ100%さん:
はい、後にも先にも2018年1月の「爆笑ヒットパレード」が1番の失敗です。

ネットには「裸芸を始めたばかりの頃は、お盆を取り落として露出することも珍しくなかった」とあるんですが、落としたことはなかったんですよ。

ステージの角度が悪くて正面のお客さんは笑っているのに両サイドはざわついていたときはありましたけどね。


完全にアウトなやつ

アキラ100%さん:
お正月っぽいものをしよう、とはりきって秋ごろから練習をしていて、ライブでもちゃんと成功していたんですけど…。「お正月の生放送」っていう緊張でしょうね…

いしかわ:
半年も練習していたんですね…。当時、失敗に対する反響がすごかったですけど、どんな意見が多かったんですか?

アキラ100%さん:
ネガティブでもポジティブでもなく、「びっくり!」「ああっ!」みたいなつぶやきが多かったです。

僕自身も、「やっちまった!」「おわった!」と思いました。


ですよね

アキラ100%さん:
スタッフさんなどには、大変ご迷惑をかけてしまいましたね…

ただ、芸人仲間からは、「逆にこの失敗を経て、『もしかしたら今日も失敗するんじゃないか』っていうドキドキ感をお客さんに与えられるようになったんじゃない?」「エンタメ性が高まったんじゃない?」と慰めてもらい、前向きに捉えるようにしました。

いしかわ:
いやいや、さすがにポジティブすぎません!?

アキラ100%さん:
確かに芸をやるのが怖くない、と言ったらウソになります。

ただ、これからも本番は練習を信じて「できる!」とマインドセットして出ていくしかないんですよ。僕はずっとこのスタイルでやっていくって腹をくくっているんで。



いしかわ:
おかしいな…一周まわってかっこよく見えてきた…裸なのに。

知られざるアキラ100%の経歴。真面目だけど目立ちたかった小学生〜大学生のころ

いしかわ:
こんなことを聞くのも野暮ですが、そもそもなぜ裸に…? 例えば、小学生の頃から教室で脱ぎ出すような子だったとか…?

アキラ100%さん:
いや、僕学級委員長だったんですよ。


本当に何があったんだ

アキラ100%さん:
むしろ、そういう「クラスの面白いやつ」が羨ましかったです。僕は、「前に出たい!」「目立ちたい!」という気持ちはあったけど、自分はそんなふうにはなれないなって諦めていたので。だから、代わりに勉強を頑張ったり学級委員長をやったりすることで目立とうとしていました。

「人を笑わせたい」って気持ちはあったけど、どうしても真面目な自分を捨てきれなかったんです。

いしかわ:
優等生だったんですね。

アキラ100%さん:
そうです(笑)。そして、そんな僕を変えたきっかけが高校で始めた「演劇」でした。

誰かが、笑ってくれたのがうれしかったんですよ。



アキラ100%さん:
お芝居が、今までずっと真面目すぎて思いきりバカなことができなかった自分に「自由」をくれたんです。

「大橋彰」のままだとできないけど、お芝居だと役をのせて演じることができる。それがうれしくて、10年くらい俳優を目指していました。

いしかわ:
10年も!! そんなにやっていたのにどうしてお笑いへ…?

アキラ100%さん:
流石に10年やってたら、うまくいかない状況に疲れてきちゃったんです…でも、こんなことで大好きだったお芝居が終わりになるのもイヤだなぁ、と思って。

それで、自分のルーツを辿ってくと、僕はそもそもお芝居を、誰かに笑ってもらいたいからやっていた。じゃあシンプルにお笑いをやろう!と2005年、30歳のときにお笑いを始めました。

いしかわ:
そうか。演劇もお笑いも、根幹にある目的は一緒なんですね。

裸芸が生まれるきっかけになった伝説のネタ「喫茶ナチュラル」



いしかわ:
聞けば聞くほど真面目すぎる。そこからなぜ裸に…?

アキラ100%さん:
コンビ時代の単独ライブで、どうしてもうまくオチないコントがあったんです。「いろんな喫茶店」という、次々に変な喫茶店が出てくる内容だったんですけど。

そこで苦悩の末に、最後は「脱いで全裸で出てくる!」というオチに決まったんです。

「喫茶ナチュラル」とか言って。


喫茶ナチュラル…!

アキラ100%さん:
オーガニックにこだわってるのかな? と思って入ったら裸の店員さんがいて、 「そのナチュラルなんかーい!」でオチる、っていう(笑)。

いしかわ:
はっ!! 元ネタが喫茶店だからお盆を持っているのか!!!!

アキラ100%さん:
そう!!(笑) でも、完全に単独ライブの内輪ノリで作ったようなネタなのでそれ以降は封印していたんですよ。

「こんなのテレビに持っていったって出してくれるわけがない」って自分の中で線引きをしていました。コンプライアンスもあったし…


当時は一応コンプライアンスがあったらしい

アキラ100%さん:
それから2011年にピンになったんですけど、まぁネタの方向が定まらなくて再び苦悩の時期に入りました。

そんなとき、2015年の「ガキ使」の「山-1グランプリ」のオーディションで「宴会場でみて楽しいネタを持ってきてください」って言われて、ふっとこのネタのことを思い出してやってみたんです。そうしたらめちゃくちゃウケて!!(笑)

ピンになってから5年間も鳴かず飛ばずだったのに、裸になった瞬間、2週間後に出演が決まったんですよ!!

いしかわ:
ブレイクにはそんなストーリーがあったんですね。

アキラ100%さん:
出て終わるだけで一瞬だと思ったし、それなら全裸の方がバカバカしいじゃないですか。

みんながちょっとでも笑ってくれたらいいな、という願いを込めて、ピュアな想いで脱ぎました。これが、全ての始まりだったんです。


ピュアな気持ちのこもった全裸だった

この世に”絶対”ってないから、とりあえず勇気を出してやってみることが重要

アキラ100%さん:
一見バカらしいですが、そうやって脱いだことで、気付いたことがあるんです。自分で考える「限界」とか「線引き」って無駄なことなんだなって。

いしかわ:
どういうことですか?

アキラ100%さん:
成功もしていない人が、「脱いでもどうせウケない」なんて、何勝手に線引きしてたんだろうって。他人の評価を過剰に気にするなんて、売れてない僕が考える時点で間違っていたんです。

だから、どうなるかわからないけど、とりあえず出してみる勇気を持つことがスタート地点だなって。


とりあえず脱いでみる勇気

アキラ100%さん:
僕は芸を披露する前に、「この世に“絶対”ってないよ」って言うんですけど、僕がこうして世に出れたのも“絶対”じゃないわけですから。

いしかわ:
確かに、俳優が10年でお笑いが売れるまで6年…めちゃくちゃ長いあいだ努力されてますよね。

アキラ100%さん:
そう、長いんですよ!! 諦めが悪いんですよね。いい意味でいえば一途だし、悪くいえばしつこい。でも、しつこく追い求めたからこそ、今の僕があるんだと思います。

裸芸も、失敗が許されないからこそ、ものすごく練習していますし(笑)。

いしかわ:
あ…っ!? よく見てみればこの場所って…!?


この壁のオシャレな模様は!!

アキラ100%さん:
そう。あの振り子の部屋です。

出典 Youtube

アキラ100%さんが投稿した伝説の振り子の動画。なんと100万再生!!

アキラ100%さん:
いつもここで黙々と練習をしています。振り子の動画は3-4時間かけて撮影しましたね。1人で。

ライブでは角度問題があって、ネタの制限もあるんですよね。鏡があったら、黒いカーテンを貼ってもらって隠したり、意外とセッティングが大変なんですよ。

でも、動画なら1つのカメラだけに隠れていればいいから、いろんなもので隠せるな〜! って思ってたんですよね。

いしかわ:
発想が天才すぎる…

アキラ100%さん:
ピコ太郎さんのPPAPがジャスティン・ビーバーさんにいいねされたように、粘って続けていたら誰かが面白いって思ってくれるかもなって。

裸芸のいいところは、言葉がいらないところなんです。外国の人も、子どもも笑ってくれる。

いしかわ:
アキラさんの裸は…なんだろうな、裸なんだけど汚くないですよね。クリーンな裸というか。



アキラ100%さん:
お見苦しい姿を見せないように全身脱毛をしたり、もともとスポーツクラブでバイトをしていた経験を生かし、ネタ前に筋トレをしてパンプアップしています。

もともと持っていた「根が真面目」という要素と「裸」が混ざり合ってちょうどいい感じになってるのかもしれません。

いしかわ:
本当に努力家。やっぱり真面目だな…

「形」にとらわれない。大事なのは「目的」を見失わないこと

いしかわ:
なんか…アキラさん、本当に裸でいいんですか? 話を聞いていると、アキラさんは「自ら望んで裸になった」わけではないじゃないですか。それって辛くなったりはしないんですか…?

アキラ100%さん:
全然。このネタを考えてるとき、すっごく楽しいんですよ。自分で考えながら、「くっだらねぇ〜!」と思いますけど(笑)。

確かに、僕は俳優としてお芝居をやることを望んでいました。真面目じゃない、僕以外の自分になって、誰かを笑わせたかった。



アキラ100%さん:
でも、今僕は「アキラ100%」になって、みんなを笑わせることができている。結果的に夢が叶っているんですよ!!

いしかわ:
なるほど…!! みんなを楽しませるために「アキラ100%」を演じているというか。

アキラ100%さん:
そうなんです。だから、何かやりたいことがあったら、「型」を決めるんじゃなくて、根本的な目的を見失っちゃいけないな、と思いました。

そう考えると、僕のゴールは俳優になることでも、お笑い芸人になることでも、裸になることでもなく、「多くの人を笑わせて、楽しませる」こと。

目的を達成するのに、形にこだわる必要ってないんですよ。



アキラ100%さん:
だから、脱ぐことでみんなが笑ってくれるのなら、これ以上幸せなことってないんですよ。裸が夢を叶えてくれたんです。

いしかわ:
大事なのは、形じゃなくて夢や目的というか。

アキラ100%さん:
そうです。結構、「職業名」にとらわれて飛びついちゃう人も多いと思いますが、一度立ち止まって考えてみてほしいんです。「何のためにやっているのか」を。



アキラ100%さん:
一見誤解されがちだし、お笑いとして”高尚”ではないのかもしれません。でも、僕の目的は「裸」になることじゃなくて、その先にある「みんなの笑顔」ですからね。

「他に手段があるだろう」って思われるかもしれませんが、これが16年間いろいろやってきて、僕が出した答えです。

いしかわ:
16年間やってきて、1番みんなが笑ってくれるスタイルを見つけたと。

アキラ100%さん:
はい。長かったですけど(笑)。この世に“絶対”叶う夢はないかもしれません。でも、愚直にやり続けていれば“絶対”になるかもしれない。

だから僕は、誰かが笑ってくれる限り、これからも脱ぎ続けます。



大きな失敗をしても、ひどいバッシングを受けても、ひたすら己の芸を貫くアキラ100%さんの裸の裏には、「誰かを笑わせたい」というたったひとつのピュアでまっすぐな思いがありました。

大事なのは形ではなく、「目的」。それさえ見失わずに努力を続けていれば、どんな形であれアキラさんのように夢が「絶対」になる日が来るかもしれません。

〈取材・文・=いしかわゆき(@milkprincess17)/撮影=長谷英史〉