複数の参考書を浅く覚えるより、「いちばん売れている」参考書1冊を徹底的に覚えるほうが試験に強い理由とは?(イラスト:梓川ななぎ)

TOEICなどの語学試験や、司法試験・行政書士や会計士などの資格試験。キャリアアップを目指し、多くのビジネスパーソンが日々勉強に励んでいます。現在、私は資格試験対策のオンラインスクールや、対面での個別指導塾を運営していますが、生徒さんの悩みで最も多いのが「暗記作業がつらい」というもの。

社会人になると、学生時代のように十分な勉強時間は確保できません。しかし、試験日は容赦なくやってきます。「今回は忙しくて勉強できなかったから、また次回」と、あきらめグセがついている人も多いのではないでしょうか?

拙著『超高速暗記術〜資格試験に忙しくても一発合格!』では、日々多忙なビジネスパーソンが、資格試験に「一発合格」するためのさまざまな「時短暗記テクニック」を紹介しています。今回はその中から頭のいい人が、どのようにして「参考書」を選んでいるのか解説します。

参考書を買いあさって読むも試験の結果は…

さて、舞台はとあるカフェ。資格試験勉強中の坂巻陽菜が、その先輩である神田桜子に試験対策のアドバイスを聞きに行きました。


せっせと、たくさんの参考書を買い込んでから資格試験に臨んだ陽菜ですが、結果は不合格。落ち込む陽菜に対して、桜子は勉強法を見直したらどうかとアドバイスします。

そして、「わたし今度TOEIC800点を狙おうと思ってるんだ。あんたも同じスコア目指してみない……?」と持ちかけます。そして、陽菜の勉強が始まるのですが……。

なかなか次のページに進めない……


電車の中で集中して勉強するのは大変


「私だったら1冊ざっと目を通す」



桜子は、陽菜に参考書を1冊に絞ることを勧めました。資格取得などを目指している人にとっては、これは少し勇気のいる決断ではないでしょうか。

しかし、これは非常に効果的なアプローチです。以前、私は複数の東大生に、大学受験の勉強法や、使用していた教材についてインタビューしたことがあります。その結果、インタビューをした東大合格者の9割が、同じ英単語集を使っていたという事実が判明しました。

ライバルを出し抜くより、出し抜かれないことが重要

書店に行って受験参考書のコーナーを見れば、受験単語集は1つの棚が埋まるくらいさまざまなタイトルが出ています。にもかかわらず、あまりに皆が同じ本を挙げるので、正直びっくりしたくらいです(ちなみにそれは『鉄緑会東大英単語熟語 鉄壁』という本です)。

資格試験の参考書を選ぶとき、こんなふうに考える人がいるかもしれません。「ライバルに差をつけ競争を勝ち抜くには、大多数と同じ教材を使っていてはダメなのではないだろうか!?」

一理あるように聞こえますが、実はそうではないのです。大学入試のように多数の志願者をふるいにかける試験や、毎回一定割合の合格者が出るテストでは、相対評価で採点されます。

そうした試験ではライバルを出し抜くことよりも、出し抜かれないことがより重要になってきます。そのほうが、相対的に順位が上がるのです。

たとえば、大多数が使う参考書Aには載ってないけれども、少数が使う参考書Bには載っている知識があるとします。そして、たまたまその知識がテストに出題された。Aを使っていた大多数の受験生は得点できず、Bを使っていた受験生だけが得点できます。

当然ながら、逆のケースもあるはずです。大多数が使う参考書Aには載っていたけれども、少数が使う参考書Bには載ってない知識がテストに出題された。Aを使っていた大多数の受験生は得点でき、Bを使っていた受験生は得点できません。

参考書AとBの内容は優劣がつけがたく(つまり人気の差だけ)、どちらのケースも同じ配点であるならば、Aを使おうがBを使おうがリスクの確率は同じです。しかし、参考書Aに載っている知識が出題されたときは、Bを使っている人は「大部分の人に」点差をつけられてしまうのに対し、Aを使っている人はBに載っている知識が出題されたときには「ごく一部の人に」点差をつけられるだけで、相対的には順位は下がらないのです。

試験では知識がない人から落とされる

皆さんは試験を「他人よりも優れた人が選抜される」イメージでとらえているかもしれませんが、実際には「知識のない人から落とされる」イメージのほうがより正しいと言えます。


とはいえ、「いちばん売れている参考書を使わなければ受からない」と言いたいわけではありません。受かる人はそういう選択をする傾向にあるということです。冒頭にお話しした東大生へのインタビューでも、9割が“使っていなかった”単語集で勉強し、合格した人もいたわけです。

最近はネット上のカスタマーレビューも充実していますし、評判の悪い本は早々に排除されます。つまり、「それを使ったら合格できない」ほどヒドい内容の本は、すでに淘汰され、並んでいないとも言えます。

ゼロから選ぶのであればいちばん売れているものをお勧めしますが、もしすでに購入済みで使い始めている暗記本があるのなら、それをやり切るほうがいいと思います。「いろいろな参考書に手を出したけれど、結局1冊も覚えられなかった」という事態だけは避けてください。