結婚についてお金の面から考えてみましょう(写真:kou/PIXTA)

結婚は得なのか損なのか――。

これは永遠に解けない問題です。ギリシャの哲学者は結婚について皮肉を述べることが定番のようなものでしたし、結婚を牢獄に例える男性は今でも少なくありません。

男性にとって結婚に前向きになれない恐怖の一例として「ATM化」するというものがあります。自分が身を粉にして稼いだお金を、妻はただ下ろして使ってしまい、自分はただお金を用意するATMになるのではないか、というイメージです。インターネット上ではしばしば、「結婚したらお前はATMになるだけだ」というアドバイス(?)をみかけます。

しかし、男性だけがマイナスなわけではありません。女性でも「結婚はマイナスだ」と考える人はいます。女性にとって結婚への恐怖の一例は、母親の役割を期待されることでしょう。家事も育児もまったくできない夫の場合、妻としてのタスクを受け持つ感覚より、今までは夫の母親が担当していたタスクの肩代わりをさせられる感覚のほうが上回って大きなストレスになります。

結婚の損得を考えるカギは共働き

さらに、夫が家事や育児に協力しない「ワンオペ育児」になってしまうという恐れもあります。フルタイムで働いているにもかかわらず、家事や育児、子どもの病気によるお迎えや通院などを全部1人で背負わされるかもしれないというのは、これから子どもを持つことを考える若い女性にとって恐怖になっています。

結婚は本当に損するものなのでしょうか。お金と幸せの関係について考えるファイナンシャルプランナーの筆者が「結婚」についてどう考えているか少しお話ししてみましょう。

結婚の損得を考えるカギは「共働き」だと思います。女性からすると「正社員のままだとワンオペ押しつけられるから、共働きは不利じゃないの?」と思うかもしれませんが、むしろ逆です。専業主婦やパート社員になってしまうと、女性が経済的立場で圧倒的不利になります。

パートではなく女性が正社員のまま共働きを継続し婚姻生活に入れば、年収の差が大きく開かないため、家庭内の力関係でも大きな差が出ません。また、性格の不一致などで離婚を考えることもあるでしょうが、女性が自分ひとりを養うだけの年収を自力で稼いでいれば、離婚を躊躇することなく、強気に出ることができます。もちろん、共働きをしていれば、男性も自分がATMになっていると疑心を抱くこともなくなります。

結婚の損得というよりも「ふたりの立場」を対等に近いものとするために、共働きをすることがポイントになるのです。それに、共働きは金銭面以外でも男性へ強気に出ることを可能にします。専業主婦だと「専業主婦なのだから、家事・育児は全部やってね」と言われると文句が言えません。夫婦ともにフルタイムで働いているのであれば、女性は家事・育児を男性にも堂々と求められるからです。

先日出した『共働き夫婦 お金の教科書』という本で詳しく解説していますが、共働きを継続することはマネープランを大きく改善し、未来の余裕を作る原動力になります。単純に合計所得が高まる点でも有意義です。単身で年収1000万円以上確保することは厳しい時代であっても、正社員の夫婦の合計なら800万円を超えることは珍しくありません。400万円の2人、あるいは350万円と450万円の2人、のように考えれば、収入がまだ多くないアラサーカップルでも不可能ではないはずです。

結婚は「補完関係」と考える

子どもの教育資金や住宅ローンの返済を考えると、夫婦合計の年収を1000万円に近づけ、できれば上回りたいところですがこれも正社員の共働きが実現の最短ルートでしょう。

老後のことを考えても、正社員の共働きを続けることができれば、おひとりさまに比べて圧倒的優位のポジションにつけます。何せ退職金は2人分もらえ、厚生年金を2つ受けることで老後に大きなゆとりが確保されるからです。たとえば、おひとりさまが退職金を1000万円もらい、1人分の厚生年金(と基礎年金)をもらったとしても、年金で月16万円程度では1人暮らしにはちょっと苦しい収入です。

正社員の共働き夫婦であれば退職金がふたつということで2000万円、2人分の厚生年金(と基礎年金)であれば月30万円くらいは期待できます。おひとりさまの2倍、月32万円とならないのは、育児期間中、時短勤務をしているなどの理由で女性の年金額が少し下がるためです。

しかし1人が2人になったとしても家賃や光熱費、食費などは倍増するわけではありません。夫婦でやりくりすれば月30万円プラス2000万円の取り崩しという余裕のある条件で老後をエンジョイできることでしょう。そう考えると、結婚は経済的に「補完」しあう関係だと考えられます。

もう1つの損得というか補完関係を指摘するなら、病気療養や会社の倒産などによる急な失職、業績悪化に伴うボーナスや給与カットなどのリスクについても夫婦のほうが抵抗力は高まります。

1人の場合、病気による休養や会社の事情による年収減が生じた場合、頼れる人は親族などに限られることが多いと思います。健康保険や雇用保険などの社会保障の給付がある間に対策を考えなければなりませんが、苦しい状況を1人で乗り越えていくのはなかなか大変です。

夫婦、特に共働きの夫婦である場合、支え合いながら乗り切ることができます。私の知人には夫婦間の年収が何度も逆転しているカップルがいますが、支え合いの好例だと思います。

夫が勤めていた会社が倒産の危機になって、慌てて転職活動するときは妻がガッチリ稼いで支えたり、妻が体調を崩して離職したときは夫が主たる稼ぎ手になり支えたりしています。夫も妻もしっかり稼げるようになったら、子どもの学費が本格的にかかる時期に向けて備えているようです。

「男が稼ぐもの」というような常識にとらわれず、自然体で「稼ぐ主担当」の分担を交代しあっているところが面白く、今の時代の夫婦のあり方だなあと思います。そういう補完関係が築けると、きっと結婚は損得を超えたものとなるのではないでしょうか。

独り相撲で、結婚は「損」になる

これから結婚を考えているが「自分は損をするのではないか」と不安を感じている人、すでに結婚をしていて自分は損をしているのではないかと考えている人について、アドバイスをするなら「独り相撲」は絶対にしてはいけないということです。

結婚というのはある意味、協力関係です。1つの会社の共同経営者になるようなものです。社長と副社長がケンカしていると会社は成り立ちません。社長が無駄遣いばかりしていては副社長がどんなに経費節減しても焼け石に水です。夫婦もそのようなものです。

あなたがもし不安を感じているのに、相方は同じ不安を覚えていないように見えるなら、その不安や不満を相手に吐き出すことです。これは定期預金の預け先をどこにするか考えることよりも大事なことです。

不安や不満を少しでも共有して改善の方法や計画を立てていかなければ、あなたにとって結婚は損になるばかりでしょう。負担を1人で背負わされていることになるからです。どんな金利が高い投資方法も、どんな高年収も、1人で家計の問題をすべて背負っている限り、あなたの助けにはならないでしょう。

あなたが「結婚は損かも」という不安や感覚を覚えているように、相方も感じていないとしたら、これほど無駄な独り相撲もありません。そして(あなたが想像している以上に)あなたの配偶者はその不安も不満も持たないで毎日を過ごしていたりします。これでは一方的に損をしているだけになってしまいます。

家事や育児をシェアしてほしいなら、そうはっきりと言いましょう。溜め込んでいる怒りをぶつけたほうが相方はその深刻度を理解してくれるかもしれません。将来に向けた貯蓄に不安があるならこれも話し合って夫婦ともに貯蓄ノルマを設定するしかないのです。独りで頑張っても問題は何も解決しません。

結局のところ、結婚を損なものとするか得なものとするかは、ふたり次第なのです。