イメージ戦略により「利幅の大きい」スポーティモデルが売れる

 省燃費指向の高まり、環境対応の強まりから「スポーツカー、冬の時代」といわれて久しい。走りをピュアに追求するスーパースポーツであっても、ハイブリッドの電動パワートレインを採用するなど環境志向を無視できない時代でもある。そうした状況にもかかわらず日本の自動車メーカーがスポーツカーから完全撤退をする気配はない。

 たとえば、トヨタがスープラの開発を進めているのはすでにオフィシャルな情報であり、グッドウッドなどのイベントで開発車両のデモランを行なっているほどだ。また、WECマシン由来のスーパースポーツを開発していることも公言している。

 スポーツカーを重視しているのは新車だけの話ではない。マツダが初代ロードスターのレストア事業を開始。ホンダはビートの純正部品の再生産に乗り出し、日産もR32GT-Rの補修部品を「NISMOヘリテージパーツ」として供給するなど、かつての名車をそのまま埋もれさせないような動きも生まれている。けっして儲かるビジネスではないだろうが、スポーツカーがブランドにおける重要な存在であることが再確認されたからこそ、こうした動きにつながっているのだろう。

 では、メーカーがスポーツカー、スポーツイメージを大事にする理由は何だろうか?

 まず言えるのはスポーツカーがブランド全体のイメージを引き上げる効果を持っているということだ。すべてのユーザーがスポーツカーをポジティブに感じているというわけではないが、スポーツカーの持つハイパフォーマンスやドライビングファンといったイメージは、たとえ主流が実用車であってもブランディングにおいて無視できないだけの効果がある。

 もう一つ、最近はスポーツイメージのサブブランドを量産モデルに利用するケースが増えている。トヨタでいえばGR系のスポーティグレードはミニバンやハイブリッドにも存在しているし、日産もNISMOとオーテックという2つのブランドをスポーティなプラスアルファがある上級グレード的なモデルの名前として活用している。ホンダがモデューロ、スバルがSTIといったブランドを、量産モデルの上級グレードに使っているのも同様だ。

 そして、こうしたモデルは利幅が大きい傾向にある。スポーティであることは付加価値なのだ。スポーツ方向でのブランディングというのは、スポーツカーだけでなく、ミニバンやコンパクトカー、クロスオーバーSUVなど幅広く有効であり、ブランドの価値を高めることができる。そこまで考えると、イメージリーダーとしてのスポーツカーに開発することは、それ自体はそれほど台数が出ないとしても、意味があるといえるのだ。