翼を得たMRJ 飛行展示に成功も、難題は山積み
世界最大級の航空展示会(ファンボロー国際航空ショー)が、イギリスのロンドン近郊で開催された。三菱航空機は開発中の国産ジェット旅客機「三菱リージョナルジェット(MRJ)」を、実際に飛行させて性能アピールを行う「フライトディスプレー(飛行展示)」を、16日に初めて実施して無事成功した。
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第1号顧客(ローンチカスタマー)の全日本空輸(ANA)のお馴染みの青色に塗装されたMRJは、低燃費と低騒音の謳い文句のままに、群を抜く静謐さでイギリスの空に羽ばたき、これまでに飛行展示を済ませた中・大型機との差を見せつけたようだ。
08年に鳴り物入りで開発がスタートしたMRJは、納期を5度も繰り延べして、実際の飛行への道筋に不安を抱かせていた。今後は、商用運航のための型式証明獲得に必要な飛行試験を、月内〜9月中にも開始する。19年3月期中に債務の株式化と増資も検討し財務体質の改善を目指す。20年3月期中には型式証明を取得し、20年半ばにANAへの納入を始める。いよいよ、MRJの飛行へ向けたスケジュールに具体性が見えて来た。
MRJから1号機を受け取るANAが新規導入機を飛行させるためには、飛行路線を決定しパイロットの養成と予約システムの設定を行うため、最低でも1年間の準備期間が必要になるようだ。MRJが東京五輪の時に日本の空を飛ぶためには、19年半ばには納入時期が確定していなければならない。
7月になって、航空機産業の景色が大きく変った。今まで、ボーイング(アメリカ)とエアバス(欧州)が100席超の航空機を供給し、エンブラエル(ブラジル)とボンバルディア(カナダ)がRJ(リージョナル・ジェット)機を供給するという事実上の市場のすみ分けがあった。ところが、エアバスは1日、ボンバルディアの小型飛行機「Cシリーズ」事業を買収し傘下に入れた。ボーイングも5日、エンブラエルの小型機事業の買収に合意した。両社ともラインナップの不足を補完し、世界のエアラインへの販売力を強化した。特に三菱航空機が脅威としていたエンブラエルが、MRJ事業で協業するボーイングの陣営に取り込まれたことは誤算だろう。ボーイングとエアバスの主導する航空機産業の再編と、MRJのフライトディスプレー(飛行展示)成功が、わずか半月足らずの間に立て続けに報じられたことは、三菱航空機の今後の道程が平坦ではないことを暗示しているようだ。
三菱航空機はMRJの「カスタマーサポート契約」をボーイングと結ぶ。顧客サポートは航空機事業の肝と言える。航空会社はより効率的な運航を目指して、飛行機の稼働率を高めようとする。トラブルで地上にいる時間を極力圧縮し、隙のないダイヤを組んで収入の増加を目指す。航空会社に対するMRJの部品調達と在庫計画の策定、現地サービスなどをボーイングに円滑に支援してもらうことは欠かせない。ボーイングが買収したエンブラエルのRJ事業への対応と、MRJ事業で協業する三菱航空機に対する対応をどうするかは、言わずもがなである。
もう一つ懸念がある。米国の大手航空会社とパイロット組合の間の「スコープ・クローズ」と呼ばれる協定だ。米国では地域航空会社と大手航空会社の路線競合を制限するため、大手が基幹路線(ハブ)を運行し、地域間路線(スポーク)の運行は地域航空会社に委託される。RJの最大離陸重量や最大座席数に上限が設定されている。代表的な上限は重量で39トン、座席数で76席、MRJはこの制限に抵触する。
スコープクローズが次に見直されるのは19年末の見通しだが、三菱航空機の目論見通りに見直されるとは限らない。
16日の飛行展示を成功させたMRJはその後、駐機場へ牽引される途中で牽引車に接触され機首の一部を破損したため、17日に予定されていた2度目の飛行展示は中止となった。
「一難去ってまた一難」の展開が続くが、機体の規模別ではRJ分野は今後最大の成長株と看做されている。ひとつ、ひとつ、困難とトラブルを克服して欲しいものである。