西野朗新監督のスタッフが、12日の記者会見で発表された。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督のもとでスタッフ入りしていた手倉森誠コーチが留任し、選手の身体を熟知する早川直樹コンディショニングコーチ、浜野征也GKコーチも留任した。新任は森保一コーチと下田崇GKコーチである。

 西野監督とスタッフに与えられた時間は、実質的に5月下旬からの3週間だ。スタッフ同士、スタッフと選手同士が「はじめまして」とあいさつをすることから始める関係は、できる限り少なくしたほうがいい。その意味で、3人の日本人スタッフを留任させたのは賢明な判断だ。

 とりわけ重要な意味を持つのは、手倉森コーチの留任である。前監督指揮のチームで、この50歳の日本人コーチは“影のまとめ役”だった。その時々で選手の声を聞き、励ましたり諭したりしてきた。ハリルホジッチ前監督の戦術に関する説明が十分でなければ、個別に補足説明をすることもあった。

 前監督の解任理由にあげられた「コミュニケーション不足」は、手倉森コーチがいることでかなり補われていたところがある。というよりも、彼がいなければチームはもっと早く窮地に追い込まれていた。

 Jクラブを率いていた当時の西野監督は、選手と一定の距離を保つタイプだった。前職の技術委員長当時も、練習の合間などに選手とコミュニケーションを取る姿は少なかった。

 代表監督となった今後も、選手との距離感は変わらないだろう。監督の意図を選手に噛み下して説明し、選手の思いを吸い上げるのは、手倉森コーチの仕事になるはずだ。

 W杯に臨むチームは、長期間の共同生活を強いられる。同じ顔ぶれでルーティーンのスケジュールを過ごしていけば、知らず知らずのうちにストレスが溜まっていくものだ。

 そんなときに必要なのが、息抜きのタイミングである。選手たちの表情や発言から心情を察し、練習時間を柔軟に変更したり、気分転換の機会を作ったりするマネジメントが、W杯のような大会では必要になる。

 この点についても、手倉森コーチには経験がる。リオ五輪出場を争った16年1月のU−23選手権で、ほぼ1カ月をカタールで過ごした。W杯と同じ23人のメンバーをマネジメントし、優勝へ導いた足跡がロシアの地でも価値を持つはずだ。

 森保コーチの働きも、もちろん重要だ。07年のU−20W杯で、彼は吉田靖監督のもとでコーチを務めた。11年前とはいえ、FIFA主催の世界大会を知るのは頼もしい。12年、15年にサンフレッチェ広島の監督として出場したクラブW杯の経験も、生かされる場面があるだろう。

 コーチングスタッフが日本人で固められたのは、短期的には時間の無さを解消するためであり、中長期的にはW杯の経験を共有することにつながる。

 W杯の終了とともに代表のスタッフが母国へ帰国してしまい、結果に対するフィードバックをレポートでしか読むことができないのは、W杯出場の財産が限られた範囲にしか行き渡らないことと同意だ。06年や14年の失敗を監督以外の視点から知ることが、我々には叶わない。

 今回は違うだろう。ロシアW杯がどのような結果に終わろうとも、成果と課題を複眼的な視点で振り返ることができる。半年後も1年後も、5年後も10年後も、当事者たちの生の声を聞く機会を持ちやすくなる。実はそれこそが、今回の監督交代の最大のメリットだと思うのだ。