年末商戦たけなわで「大売り出し」「歳末セール!」の派手なノボリが林立し、都会の街角が行き交う人々で賑わう12月下旬。そんな華やかさとはまったく無縁の千葉県・鎌ヶ谷スタジアムで、真冬の寒空のもと、黙々と練習に励む選手がいた。

 谷口雄也、25歳──。

 2011年の入団以来、北海道日本ハムファイターズの次代を担う俊足巧打の外野手として順調にキャリアを重ね、また、類いまれなるキュートなルックスで「谷口きゅん」「かわいすぎるスラッガー」として幅広いファンの人気も集めてきた。

 しかし、今季は3月に右膝前十字じん帯再建手術を決断。以降はリハビリに専念することになり、一軍出場はゼロに終わった。折しも、ファイターズでは大谷翔平のメジャーリーグ挑戦、ゴールデンルーキー清宮幸太郎の入団など華やかな話題が相次いだ。そんななか、谷口はいま、どのような状況にあるのか。本人に話を聞いてきた。


無念のシーズンを率直に振り返ってくれた谷口雄也

──2017年は、ご本人にとってもファンにとっても悔しい1年となってしまいました。ズバリ、今年を漢字一文字で表現してください。

谷口 えっ。ちょっと待ってくださいね。それは想定していませんでした(笑)。うーん、なんだろう?

──大丈夫です。待ちます。決まりましたら声をかけてください。

(数分後……)

谷口 決まりました!「耐」です。

──その字を選んだ理由とは?

谷口 プロ野球選手には、プレーしながら、痛いところがあっても耐えている選手もいるし、僕のように離脱しないといけなくなる選手もいます。僕は膝のテーピングができない(ほど悪い)状態までやっていたなかで離脱しました。けれど、さまざまな不安やケガを持ちながらプレーを続けている選手もいます。それを見せないのがプロだと思います。

 今年は1年間リハビリしてきて色々な思いもあったけど、僕もそれに対して弱さを見せちゃいけないし、今年は野球ができないことは確実だったんで、やりたいというスイッチは一切押しませんでした。(野球人生は)長いものだと思って、自分でやっちゃったことなので、ケガと付き合おうと思って……。

──つまり、リハビリの痛みや苦しみに耐えることに加えて、「野球をやりたい」という衝動にも耐えたわけですね。現在の練習メニューはどのようなものなのでしょうか。

谷口 朝、鎌ヶ谷に行くと、まず自分の体と会話をします。言ってみれば、体とのキャッチボールです。その結果を球団のトレーナーに報告してから相談して、例えば、「今日は長いの走ります!」といった感覚で、いくつかの練習パターンからその日のメニューを決めています。

──走攻守、だいたい思い描いたような動きはできていると感じますか。

谷口 手術前に完全に戻るとなるとまだ差はありますが、おかげさまで先行きに関しては視界良好です。


2017年の一字は「耐」

──「耐」の気持ちでリハビリを続けてきたなかで、今年寂しく感じたことはありますか。

谷口 ユニフォームを着て試合のグラウンドに立てなかったことですね。「野球をやりたいスイッチ」は押さないようにしていましたが、やはり自分の仕事がない状態なので、すごく残念でした。

 リハビリについては、今年はチームにケガ人が多かったので、誰かに手を貸してもらう時もあったけれど、どうあれこうあれ、最後は自分ひとりなんだと実感しました。

──そんな孤独なリハビリの日々でも、うれしかった瞬間はありましたか。

谷口 外を歩けるようになった時ですかね。グラウンドに出るので当然、練習着やユニフォームを着ますけど、そこでなんか”久しぶりだな!”っていう感覚でした。グラウンドがすごく広く感じたりして、なんか新鮮だったことを覚えています。

──ファンからのプレゼントで、ケガやリハビリを意識したものはあったのでしょうか。

谷口 膝に使うサポーターは多かったです。そのほか、僕を励ましてくれる品物やグッズもたくさんいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。本当にありがとうございました!

──野球のできない単調な毎日のなかで、癒された出来事はありましたか。

谷口 パンダのシャンシャンは癒されますよね(笑)。手のひらサイズから、190日くらいであんなに大きくなって。ただただ、すごいです。あの動きには、本当に癒されます。ほかには、不倫とか内輪揉めのニュースが多くて、見ていて決して気分はよくなかったですね。

──球界のニュースで気になることは何でしょう?

谷口 頑張れ! 大谷翔平さんです(笑)。

──谷口選手にとっては、入団時からの後輩ですよね。

谷口 はい。もうボールを1球投げたのを見て、モノが違うと思いました。高卒1年目の開幕スタメンで、あのパ・リーグを代表する投手の岸さん(孝之・当時西武)からマルチ安打をしたんですよ。それはもう、別格でした。僕はあの時、ベンチ入りさえしていない状況でしたから。

──そんな彼を先輩として、どう送り出したいですか。

谷口 本人は投手と打者の両方をやりたいと言って飛び込んでいったわけですから、メジャーでも今までの結果を重んじてもらい、翔平じゃなきゃできないことをやってほしい。応援したいです。

──それでは、谷口選手ご自身の来季に向けてを、再び漢字一文字で表現してください。

谷口 「信」です。これは信頼の信です。来季も栗山(英樹)さんに監督をやっていただけるということは、僕のことを知ってもらえている状態で臨めるので、やりやすさはあります。でも、「こいつ大丈夫かな?」と不安に思われないようにしないといけないですから。「こいつなら大丈夫だ!」と思わせないといけないですね。なので「信」を選びました。

──ファンも来季の復活を待ち望んでいると思います。

谷口 リハビリ中、鎌ヶ谷に来てくれたファンのみなさんは僕の回復していく過程を見ていると思うので、どうか信じてください。そして、北海道をはじめ全国のファンの方々に心配していただくのはもう今年限りにして、来年はみなさんに「よかったね!」と思ってもらえるような1年にしたいです。


2018年の一字は「信」

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