V40は日本市場における「ボルボのエース」と言っても過言ではない(写真:ボルボ・カー・ジャパン提供)

スウェーデンの「ボルボ」(ボルボ・カーズ)は今年で創業90周年を迎えた。世界販売台数は約53.4万台(2016年)と世界の主要自動車メーカーの中では下から数えたほうが早いが、パワートレインやプラットフォームの自社開発、自動運転やコネクティビリティへの取り組み、2019年以降に「全車種を電動化モデルにする」などの方針を掲げるなど、攻めの姿勢だ。

日本でも今年は1〜10月までの新車販売台数が前年同期比11.9%増の1万3061台を記録しており、3年連続で前年実績を上回るのが確実な情勢になっている。それを牽引してきたのがコンパクトボルボ「V40」(車両価格299万円〜)である。

「V40」の人気はいまだに衰えていない

日本導入は2013年と4年が経過。累計販売は今年10月末までに3万6000台を超える。2013年に9246台を販売した後は、年間7000台強をキープし、息長く売れているモデルだ。日本市場における「ボルボのエース」と言っても過言ではない。

コンパクトボルボを振り返ると、古くはオランダのDAFと提携から生まれた「66」、オランダボルボと呼ばれた「343/340」や「440/460/480」、三菱自動車「カリスマ」とプラットフォームを共用した初代「S40/V40/V50」、そして1999年にフォード・モーター傘下となり「フォーカス」などで定評あるC1プラットフォームを使用する世界戦略車として登場した2代目「S40/V50」などもラインナップされていたが、ライバルに対してサイズやキャラクターを含めて中途半端な立ち位置だったのも事実だ。

それに対して、V40はボルボ初となる欧州Cセグメント向け5ドアモデル。「VWゴルフ」をはじめとする世界の強豪がひしめく激戦区にガチンコで勝負するために投入された。つまり、ニッチではなく直球勝負をするために生まれたモデルと言うわけだ。

人気の秘密は3つあると筆者は考えている。

まずは、内外装や走りなど従来のボルボから見るとかなりスポーティながら、それを前面にアピールせず「小さな高級車」に徹していることだろう。それも見せかけだけの豪華さではなく、本質の部分に徹底的にこだわっている。

北欧デザインのシンプルさ、素材のよさを生かしている

ドイツ車との違いを明確に出すために、ボディカラーは白/黒/シルバーの比率を下げ、内装色も北欧デザインのシンプルさ、素材のよさを生かしたシンプルな高級感をアピールできるようなコーディネートを採用している。ただ、スイッチが多い操作系(慣れると非常に使いやすいのだが……)や7インチのディスプレーなどは、最新のライバルと比べると時代を感じさせる部分はある。


長時間乗っても疲れにくいシートはスウェーデンの外科医がアドバイザーとして参加している(写真:ボルボ・カー・ジャパン提供)

居住空間は大人5人が座れるものの優先度が高いのはフロント。シートはスウェーデンの外科医がアドバイザーとして参加している逸品で、シートサイズの大きさはもちろん、長時間乗っても疲れにくいのは上級モデルと一切変わらない。余談だが、ある日本のトップレーサーが事前情報なしにボルボに乗って驚いたのは「シートのよさ」だったそうだ。

一般的にCセグメントハッチバックは「付加価値=スポーティ」が多いが、V40もラインアップ(Rデザイン)はするものの基本的にはそこをメインストリームとして狙っていない。そこが「小さくてもいいものが欲しい」「ドイツ御三家じゃちょっと……」という層にハマっているのだと思っている。

この辺りをボルボ・カー・ジャパンの木村隆之社長に聞くと、「日本では『ボルボ=安全』に対して『ボルボ=プレミアム』がシッカリと伝わっていなかった反省もあります。以前のような中途半端な位置づけでは淘汰されてしまうので、私が社長になってからはV40のマーケティングや商品バリエーション、売り方などをすべて見直しました」と語る。

2つ目の理由は「安全」の部分だ。V40のプラットフォームは旧「C30/S40/V50」やフォード・フォーカス、マツダ「アクセラ」とも血縁関係のあるフォードC1プラットフォームを採用するが、アッパーボディは全面新設計である。

世代的には古いものの、高張力鋼/超高張力鋼/極超高張力鋼/ウルトラ高張力鋼やアルミ、プラスチックの的確な使用はもちろん、レーザー溶接や構造用接着剤の採用など、今では当たり前のアイテムを早いタイミングで採用した。

ライバルと比べると車両重量は若干重めだが、それを差し引いても安全性能はもちろん、走る/曲がる/止まるといった基本性能の部分は最新のライバルと比較しても遜色ない。当時は“過剰設計”と言われていたが、時代が追いついたのである。

それに加えて、前後左右をカバーする11種類以上の最新の先進安全装備を全車標準装備。その中でも歩行者・サイクリスト検知機能付き衝突回避・軽減フルオートブレーキシステムはミリ波レーダー/デジタルカメラ/赤外線レーザーと3つのセンサーを用いたタイプで、スバルやメルセデスと並んで“性能の高い”プリクラッシュブレーキと言われている。

また、世界初採用された歩行者用エアバッグは当初オプション扱いだったが装着率98%を誇り、実は2016年にスバル「インプレッサ」に先駆けて全車標準装備化されているのだ。そう。安全性に関しても小さいから、世代が古いから、といった妥協は一切ない。

「進化・熟成」を続けている

3つ目の理由はモデルチェンジにこだわらずに「進化・熟成」を続けていることだ。パワートレインはデビュー当初とは異なり、ボルボの新世代パワートレイン「Drive-E」へと移行済み。ガソリンは1.5Lターボ(T2:122ps/220Nm、T3:152ps/250Nm)と2.0Lターボ(T5:245ps/350Nm)、ディーゼルは2.0Lターボ(D4:190ps/400Nm)をラインアップ。トランスミッションは1.5Lターボには6速AT、2.0Lターボ(ガソリン/ディーゼル)には8速ATが組み合わされる。

特にディーゼルは上級モデルにも採用されるユニットなので、V40との組み合わせはある意味オーバースペックで、下手なホットハッチ顔負けのパフォーマンスを見せる。

シャシーは発売当初はスポーティな味付けの「ダイナミックシャシー」が採用されていたが、モデル途中で快適性を高めた「ツーリングシャシー」へと変更。2016年の大幅改良時には正式なアナウンスはなかったが、実際に乗り比べてみるとサスペンションのしなやかな動きやフラットライドなど、確実に“深化”している。

ワインディングではライバルのようにグイグイ曲がる性格ではないが、高速道路ではCセグメントのハッチバックであることを忘れるくらいドッシリとした走りで、どのグレードでも「小さなGT」と呼ぶにふさわしい乗り味に仕上がっている。ただ、重箱の隅をつつくと、大きめのギャップを越えるときなどの衝撃のいなし方や操舵時の前後バランスなどは時代を感じさせる部分があるのも事実。この辺りは次世代プラットフォーム「CMA(コンパクト・モジュール・アーキテクチャー)」採用の次世代モデルに期待したいところだ。

さらに「羊の皮を被った狼」を目指す人には、ボルボのワークスチューナー「ポールスター」がプロデュースしたアドオンパーツ「ポールスター・パフォーマンス・パーツ(ECU、シャシー、タイヤ&ホイール、インテリア&エクステリア)」も用意している。これらのアイテムを特別装備した「V40 Rデザイン チューンド・バイ・ポールスター」が50台限定で発売中だ。

「現在、V40の平均価格は370万円を超えています。もともといいクルマであったことに加えて、バリエーション、OP、安全装備の充実など“プレミアム”の方向にシフトしたマーケティングの結果です。その成果、平均単価も適正化できたと思っています」(木村社長)

商品の“本質”が評価されるクルマが生き残る


V40のヒットは“引き算”の美しさや高級感が日本人にうまくマッチし、スウェーデン流が理解されたこともあるだろう(写真:ボルボ・カー・ジャパン提供)

ニューモデルが出ると話題はそちらに移るが、本当の実力は「デビューから時が経ったときにどうなのか?」が重要である。リアルワールドでリアルに使われることで、商品の“本質”が評価されるクルマが生き残る。新しさは“話題”で売れるが、本質は時が経っても変わらないのである。

V40のクリーンヒットはクルマのよさはもちろん、ドイツ勢のような“足し算”ではなく日本文化に似た“引き算”の美しさや高級感が日本人にうまくマッチしたうえに、スウェーデン発祥で日本でも展開されている大型家具量販店「IKEA」の効果も相まって、今まで以上に日本人にスウェーデン流が理解されたこともあるだろう。

ボルボは輸入車の中でも地方に強いブランドと言われ、「輸入車なのに買いやすい」「輸入車なのに後ろ指さされない」と言われていることも大きいと思う。