EVの開発を急ぐホンダが2017年の東京モーターショーに出展予定のコンセプトカー「Honda NeuV」。自動運転技術やAI(人工知能)も搭載する(写真:ホンダ

世界各国で急速に進む「EV(電気自動車)シフト」の流れが、ホンダを国内生産拠点の再編に踏み切らせた。2021年度をメドに埼玉県に2つある完成車工場を寄居(よりい)工場へ段階的に集約することを10月4日に発表。これに伴い、1964年稼働の狭山工場は4輪車の生産を終了する。

「ものづくりの面で、日本が電動化をリードしていかないといけない」

会見の中で八郷隆弘社長は、今回の再編が長期経営計画「2030年ビジョン」につながるものだと述べた。ホンダは2030年に4輪車販売の3分の2をハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、EVといった電動車にする目標を掲げている。寄居工場では従来の車種に加え、EVやPHVを混流生産するための実証ラインを設計するなど、電動化に向けた生産技術の開発を進める。

車造りの効率性を高める

2013年稼働の寄居工場は最新鋭の設備を擁し、電動化への対応が進めやすい。今後は世界中の工場から生産部門の担当者を集め、EVを始めとする電動車の生産技術・プロセスの企画を行う。


ホンダの八郷隆弘社長は、開発と生産の両面でものづくりを進化させる必要性を強調した(撮影:今井康一)

ものづくりのノウハウを日本からグローバルに発信するという創業時の原点に立ち返りつつ、各国の担当者が現地へ持ち帰る。これにより「需要がある地域で生産する」というホンダが重視する地産地消の原則にも対応できる。たとえば、軽自動車や小型車の生産を担う鈴鹿工場でも、寄居工場から持ち帰った知見でEVの生産を行えるようにするという。

ホンダが電動車の量産を進める上でネックとなるのは、車造りの効率性だ。ホンダの2016年度の営業利益率は6%。トヨタ自動車の7.2%、SUBARUの12.4%などに比べて見劣りする。「自動運転や電動化の時代に対応するためにも、利益率が低いのは課題だ」と八郷社長自らが認める。

ホンダでは国内外の各工場が自主的にアレンジした結果、「地域間で生産方法の違いが出た」(生産担当の山根庸史専務執行役員)ことが非効率に繋がっている。またあらかじめ一定数の部品を組み上げて、生産に用いる「モジュール化」も途上だ。トヨタ自動車や日産自動車、独フォルクワーゲン(VW)はモジュール化で先行し、高効率な生産体制を確立している。

自動車の電動化は段階的に進んでいくため、工場には従来のガソリン車、HV、PHV、EVと多種多様な車が生産されるようになる。ホンダは電動車両が混ざることで、工数や部品点数が現状比で25%増えると見込む。また、市場によって当然、電動化の進展具合も異なる。非効率な車造りのままだと、電動化に十分に対応できなくなるという危機感がホンダにはあった。


埼玉県にあるホンダの寄居工場。2021年度をメドに狭山工場から4輪車生産を集約する(写真:ホンダ

こうした課題に対応していくのが寄居工場だ。実証ラインでは、モジュール部品を活用することで工数を3割削減する生産方式を検証する。「海外にも電動化に向けた生産体制をスピーディーに水平展開できる」と山根専務はそのねらいを強調する。製造コストが抑制できれば、電動車に価格競争力を持たせることもできる。

国内の4輪生産能力を2割削減へ

今回の生産再編のもう一つの狙いは国内の余剰生産能力の解消だ。グループの国内年間生産能力は現在106万台あるが、2016年の生産台数は約81万台。国内工場の稼働率は76%にとどまる。


初代発売から約6年を経て2017年9月に刷新されたホンダの軽自動車「N-BOX」(撮影:尾形文繁)

ホンダの国内販売では2011年に投入した「N-BOX」が大ヒット。軽自動車の販売比率は足元で45%にまで高まった。一方、登録車ではヒット車に恵まれず、国内販売は70万台程度と低迷している。このため、北米などへの輸出台数を増やして、国内工場の稼働率を維持してきた。だが、海外での現地生産を進める中、輸出を増やすにも限界があった。

そこで狭山工場を閉じることで国内の生産能力を81万台まで2割減らし、需要に合わせる。国内向け70万台、輸出向け10万台と振り向ける計画だ。狭山工場の従業員は寄居工場を中心に異動し、雇用は維持する。懸案だった生産と販売の需給ギャップの問題にようやく手をつけられる。

ホンダは自動運転車の開発では米グーグル系のウェイモ、燃料電池車の基幹部品の開発では米ゼネラル・モーターズ(GM)と提携するなど、最近は「自前主義」からの脱却を進める。しかし、生産規模では500万台規模にとどまり、トヨタやVWなど2倍の規模を持つメーカーほどのスケールメリットを出すことができない。自動運転や電動化で巨額の開発費がかかる中、無駄を省き、効率を引き上げることは急務だ。生き残りを賭けたホンダの真剣勝負が始まっている。