「やすらぎの郷」やたらと芸能界の闇の歴史を残そうとしてないだろうか

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帯ドラマ劇場「やすらぎの郷」(テレビ朝日 月〜金 ひる12時30分  再放送BS 朝日 朝7時40分〜)
第6週 38回 5月24日(水)放送より。 
脚本:倉本聰 演出:阿部雄一


冒頭、秀さん(藤竜也)は全くしゃべらず、20分間固まっていて(実際20分経過したらドラマが終わってしまうので時計が早回しされた)、まさか、死んでるんじゃ! とドキドキしたが、石坂浩二(役名:菊村栄)はそんなことまったく思わず、「あんたはわがままです」と心の中で秀さんを責める。

だが、秀さんが黙っていたのは、天井の異変に注視していたからだった。
天井の板の色が一箇所違っていて、そこを一馬(平野勇樹)に探らせると、第3週の横山大観のデッサン事件でフィーチャーされた名優・大村柳次郎のすごい達筆な遺言書と遺品(日本刀)が出てきた。

大村柳次郎の遺産問題はまだ終わっていなかったのだ。
そして、ミステリー仕立ても、昨日(37話)で終わっていなかった。
そして、石坂浩二がどんどん金田一化していく・・・。

秀さんのヴィラの前には、先日亡くなった大村が認知症の奥さんと暮らしていたところだった。
老人ホームって、亡くなってすぐに、たいしてリフォームやリノベなどしないまま、新しい人が入居するものなのか。一般の賃貸物件だと、亡くなった人が出た部屋はデリケートな扱いをされるが、老人ホームではドライなのだろうか。まあ、病院だって、患者は入れ替わっていくわけだが・・・。

大村にはふたり隠し子がいた。ひとりは76歳のときの子供! それを劇中ではギネスものと表現。
「昔のスターは奥さん承知で外に平気でナニしてたんだ」と感心する理事・名倉修平(名高達郎)。
なんとなくむっとする、総務理事・名倉みどり(草刈民代)。

姫(八千草薫)がもらったデッサンは、隠し子への遺品だった。

結局、姫がもらうのを辞退して、理事(名高達郎)が預かっていたが、まだ鑑定が済んでいなくて、価値がわからない。

もうひとつの遺品・刀の価値を確認しようと、時代劇畑を歩み、剣道もやっていた大納言(山本圭)に見てもらうことに。時代劇と剣道経験で鑑定できるのだろうかという疑問はさておく。

理事と草刈民代が本館からヴィラに駆けつけてくるまでは、やたら長く撮っていたが、大納言がマロ(ミッキー・カーチス)は「やけに早いな」と言われるほど、すぐに登場。ここには、ちゃっかり外で待ち構えているという、彼ららしさが出ている。時間経過の処理が手堅い脚本だ。←脚本家をめざす方は参考にして!

大納言の鑑定では、刀は、名刀「ムラマサ」。
かつて、大村が時代劇で真剣を使って、大部屋の斬られ役を斬り殺してしまった事件があり、これはそのときの刀ではないかという。

わわわ、血塗られた刀・・・やや金田一シリーズふうになってきましたぞ、というところで続く。

倉本脚本は、じつに滑らかにエピソードが連なっていき、そのタッチがあまりにも軽やかなので、例えば、鶴瓶の「スジなし」のような、その場の思いつきでどんどん書きすすめているかのようにも感じてしまう。だが、こうして再び大村柳次郎の遺品問題が出てくると、長編を描くうえで、いくつか点を用意して、しっかり計算しているにもかかわらず、そう見せないところが鮮やかだなあと思う。やっぱりこれ、手品の要領なのだろうか。

さて、真剣で人を斬ってしまった事件というと、勝新太郎が監督、主演した映画「座頭市」(89年)で、勝の息子・奥村雄大が真剣を使って、斬られ役の俳優をほんとうに斬ってしまった(その俳優は死亡)した事件を彷彿とさせる。
石坂浩二の女性関係や鑑定団問題のみならず、スターの隠し子、撮影中の過失致死・・・と風化しかかっている芸能界の闇の歴史を後世に残そうとする、なにやら業の深いドラマである。
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