稀勢の里(30)が出場を表明したのは5月11日、場所が始まる3日前のこと。そしてその夜、横綱の姿は都心の繁華街にあった。

 六本木にある高級しゃぶしゃぶ店。19時、店の前に停まった白いベンツから稀勢の里が降りてきた。あっという間に数人のファンに囲まれるが、笑顔で対応し、店に入っていく。

 その店から横綱が出てきたのは22時30分。再びベンツの助手席に乗り込んだ。翌日朝には相撲協会の行事が控えている。自宅に戻る、と思いきや、ベンツが向かったのは銀座だった。
 

 23時、車から降りた稀勢の里を数名のホステスが出迎える。高級クラブへ「夜の出稽古」だ。店から出てきたのが、日付が変わった1時ごろ。ホステスたちに見送られご機嫌の様子。車に乗り込もうとする横綱を直撃した。

――横綱、怪我の状態はどうですか?
「ダメだね」

――しかし、ファンは横綱の3場所連続優勝を期待していますよ。
「精いっぱい取り組みますよ」

 そう話すと、記者に向かって手を振りながら車に乗り込んだ稀勢の里。酒のせいか、頬はやや赤らんでいた。

 翌日、というか、その9時間後。稀勢の里は両国国技館近くにある野見宿禰(のみのすくね)神社に参拝、土俵入りを披露した。日付が変わる時間まで酒場にいたとは思えないほど元気な表情。怪我の直後には、内出血で黒くなっていた左胸部も治っているように見えた。だが、出場判断が場所の初日ぎりぎりだったという事実は、やはり不安を抱かせた。

「かつて貴乃花が怪我を押して出場、引退に繋がった。あの一件があるため、『出場しないほうがいい』という協会幹部も少なくなかった。年6場所制以降、30歳を過ぎて横綱になった4人はいずれも短命。もっとも在位が長かった師匠の隆の里(先代・鳴戸親方)でさえ15場所。それも、怪我に泣かされ、ボロボロで引退。加齢で回復は遅くなるし、痛みをかばって相撲を取れば、ほかの箇所を怪我する可能性も高くなる」(相撲ライター)

「稀勢ブーム」で、チケットは即完売、懸賞本数も過去最高の五月場所。だが、それもまた懸念へと繋がる。

稀勢の里人気がすごいだけに、その稀勢が短命横綱に終われば、ブームは去ってしまう。協会がいちばん恐れているのはそこです」(相撲協会関係者)

(週刊FLASH 2017年5月30日号)