東山(京都)バスケット部「自分のポジションの適正にあったトレーニングを行おう」【後編】

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■東山バスケ部のランメニューに迫った【前編】を読む

全国屈指の強豪バスケ部・東山。前編では普段、取り組んでいるトレーニングメニューについてご紹介いただきました。後編ではバスケ部のトレーニングをさらに紹介していただき、トレーニングの効果をより上げる休養の重要性を教えていただきました。

全体練習の締めくくりは12分間走×2

 田中 幸信監督は続いて「3歩ダッシュ」「ステップステップ」と呼ばれているメニューも、お薦めドリルとして紹介してくれた。「3歩ダッシュは、3歩ごとに方向を切り返しながらジグザグにダッシュするメニューです。往復で1セットと考え、往路でゆっくりとしたスピードでフォームを意識しながら行い、復路でスピードを上げて行います。バスケットで必要とされる、瞬時に切り返して方向を変える力を養うことが狙いですが、野球選手にとってもプラスに働く要素ではないかと思います」

 ステップステップは2人一組になり、主導となる一人の選手のステップの動きを、もう一人の選手がマネをすることで敏捷性を高めるドリル。真ん中の人の動きを真似する3人一組のパターンでも行う。ボールを使ったスキル練習が終わると、全体練習の締めくくりは12分間走。コート周りを逆時計回りに12分間走った後、時計回りに12分間走る。実質的には24分間走だ。

「コートのタテの部分を全力で走り、ヨコの部分はジョグで緩めに走る。メリハリをつけるのがポイントです。タテを全力で走る際には列の最後方の選手が全員を追い抜き、一番前までこなければいけない決まりになっているので、最前列の選手は常に入れ替わっています。瞬発力と持久力につながる心肺機能をともに高めることができるので、両方の要素が必要なバスケットボール選手にとっては不可欠なメニューです。野球は持久力はさほど必要としないスポーツなのかもしれませんが、長距離走をゆっくりとしたスピードで延々と走るくらいなら、瞬発力を養う効果のある12分間走を行ったほうが有効性は高いのではないかと思います」

同じ練習メニューを全員に強要するのはナンセンス

シュート練習の様子(東山)

 東山の練習を見ていて感じたのが「必ずしも全員が同じ内容を行わない」ということ。10ヤードダッシュを例に挙げると、負荷をかけるためのゴムをつける選手となにもつけない選手に分かれるのだ。その理由を田中監督に尋ねたところ「バスケは役割分担がはっきりしてるので」という答えが返ってきた。

「ポジションでいうと、外回りのガード、フォワードは瞬発力、敏捷性が求められますが、センターは瞬発力よりもいかに高く飛べるか、接触してもいかに当たり負けせずにぶれないか、といった強さが求められる。『走り屋』と『飛び屋』は求められる要素が違うので、センターの選手にゴムを引っ張らせるようなことは基本的にはしませんし、体の大きな選手に小回りやスピードを重視したトレーニングをさせすぎると、ヒザなどの故障を起こす可能性の方が高くなってしまいます」

 ゴムを引っ張らせない理由はポジションの違いだけではない。ガード、フォワードの選手であっても、体力が一定の域に達していない間はゴムをつけずに10ヤードダッシュを行う。「下級生は総体的に体力が上級生に劣るわけですし、その体力差を考慮してメニューを組まなければ、故障の確率も高まりますし、ひいては各個人の上達を妨げることになってしまう。不公平感がでないようにと、全員が同じメニューをこなすことに指導者サイドが執着するのはナンセンスだと思っています」

 全体練習が終わったのは18時。その後、最大21時まで自主練習を行う自由はあるものの、平日の全体練習時間の平均は2時間半。高校野球のチームに置き換えれば、練習時間は短い部類に入るといっていい。週末は丸1日行うのかと思いきや、全体練習は13時から16時の半日練習が基本。祝日であろうと月曜日はオフにし、必ず週に1日は完全休養日を設けることが徹底されている。田中監督は言う。

「丸1日練習なんて体力も集中力も持ちませんし、成長期の身体のケガの確率を高めてしまう。しっかりと栄養と睡眠をとって休息することも練習のうちだと思いますし、高校生ですから勉強だってしなければいけない。全体練習は半日もあれば十分です。練習時間がいたずらに長くなるのは指導者サイドが不安だからというケースが大半。休む勇気を指導者側が持つことが大切なんです」

当時3年生たちの声を紹介!

左から 松本峻典選手・甲谷勇平選手(東山)

 インタビュー終了後、田中監督のはからいで、当時3年生の松本 峻典選手、甲谷 勇平選手に話をうかがうことができたので最後に紹介したい。

――練習がいきなり縄跳びから始まったことに驚きました。

甲谷:あれは一気に体が温まります。野球のアップの導入メニューとしてもいいんじゃないかと思います。

――高校野球の選手にお薦めのメニューとしては他に何が浮かびますか?

松本:10ヤードダッシュかな。

甲谷:10ヤードダッシュはいいと思います。あれは一歩目の反応もよくなりますし、早くトップスピードに入ることができるようになります。

松本:バスケットは短時間で一気にトップスピードに入ることが求められるスポーツですが、その部分はきっと野球も求められると思うのでお薦めですね。ぼくらも練習日は必ず毎回行ってます。

――10ヤードはゴムチューブを引っ張る形で負荷をかけて行う選手もいましたが、効果は感じますか?

甲谷:スピードが求められる外回りのポジションのプレーヤーが主にチューブを引っ張って10ヤードメニューを行うのですが、引っ張られたときにものすごく負荷がかかるので、その後、つけずに走るとものすごく体が軽く感じ、一歩目がスムースに速く出るようになります。

松本:ぼくはポジションが外ではないので、ゴムをつけて10ヤードを行ったことは1度しかないのですが、外した時にものすごく体が軽くなった感覚がありましたし、脚力をアップさせる効果も見込めると思います。

――3歩ダッシュもバスケットらしい、印象に残るメニューでした。

甲谷:切り返し力がすごく上がります。この練習を日頃からしておくことで、走りながら急に方向を変えたい時にスムースに動けるようになります。

――12分間走もきつそうでしたね。

松本:瞬発力と持久力が同時に養える大事なメニューですが、正直、きついです。

甲谷:乳酸がたまりやすい選手は、この12分間走を日頃からすることで、乳酸が蓄積されにくくなる効果があるみたいです。

松本:ぼくも試合中の動きが落ちにくくなりました。効果は高いと感じます。 

――最後に、高校野球と日々向き合っている同世代の球児に対する印象や、メッセージをいただけませんか?

松本:競技としてはバスケットボールの方がはるかに走り回るスポーツだと思うのですが、野球部の方がぼくらの何倍も走り、練習時間もかなり長いイメージがあります。厳しい練習を乗り越えてきた分、精神的に強く、たくましく成長できている同世代の選手が多いという印象が強いですね。

甲谷:小学生時代から感じていたことですが、バスケットボールに比べると野球は競技人口が多い。その分、部員も多く、競争も激しいわけで、その中でレギュラーやベンチ入りを目指していく気持ちの強さがすごいなと思っています。国内で人気のある野球界とともにバスケット界を盛り上げていければ、日本のスポーツ界ももっと盛り上がっていけるはず。そうなっていけるよう、ぼくらも頑張りたいと思います。

(取材/文・服部 健太郎)

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