大藤 敏行・侍ジャパンU-18ヘッドコーチ 「高校野球に触れる君たちへ」第2回
今年9月1日から10日間、カナダ・サンダーベイで行われる「WBSC第28回U-18ワールドカップ2017」で世界一を目指す侍ジャパンU-18代表。昨年、優勝を果たした「第11回BFA U-18アジア選手権」に続き、小枝 守監督（前：拓大紅陵＜千葉＞監督）の下でヘッドコーチを務めるのが、前・中京大中京（愛知）野球部監督・現在は同校顧問を務める大藤 敏行氏である。
監督時代は春5回・夏4回甲子園に出場し、2009年夏には堂林 翔太（現：広島東洋カープ）をエースに43年ぶり7度目の全国制覇。NPB通算2167安打の稲葉 篤紀（1990年度卒・2017WBC侍ジャパントップチーム打撃コーチ）、東北楽天ゴールデンイーグルスの女房役・嶋 基宏（2002年度卒）など、プロ野球やアマチュア野球界にも数々の人材を送り込んでいる名将。そんな大藤氏が今回、新入生に向けたメッセージを様々な角度から語って頂いた。
題して「高校野球に触れる君たちへ」。第2回のテーマは高校野球における「基本技術」です。
■大藤 敏行・侍ジャパンU-18ヘッドコーチ 「高校野球に触れる君たちへ」第1回から読む
「試合までの段階」を想定し、予測・観察を繰り返す大阪桐蔭の練習風景
野球の練習は一見すると無駄が多いんです。たとえばシートノックであれば50人部員がいたとしたら、1人20本程度捕球するだけで1時間以上かかってしまう。でも、この「無駄な」時間を活用することもできるんですよ。同じポジションの選手がどのように動いているかを見て「試合で自分がどのように動いたらいいのか」をイメージする。
段階としてはまずは壁当てやトスバッティングでボールを受ける時にハンドリングや足さばきを意識する。そうやっていって、いざ自分が個人ノックやシートノックを受けたときに学んだことを活かしていけばいい。さらにバッティング練習の時に守備に入ることで捕球のタイミングを合わせて、試合に入っていけばいいと思います。
外野守備も打撃練習で常に動き続けることが大事です。ですから、大阪桐蔭（大阪）で素晴らしいと思うのは、甲子園で1球1球、内野はもちろん外野も反応しているところですね。
野球で一番難しい走塁も試合までの段階を踏んだ上で、変化球投手がマウンドにいる時に二塁走者だったら「ワンバウンドがあるな」といったような予測・観察が大事です。新入生からこれらの習慣を持っていくと、後々楽になりますよ。
私は中京大中京で監督をしていたころは、シートノックより個人ノックをよくしていましたが、ここでよく言っていたのは「飛び込むな」です。実際の試合では飛び込んで、はじいても、ほとんどが送球してもヒット・セーフになります。「捕球」という動作は次にある「送球」という動作につながっていくもの。身体でなく、脚を使って捕球することが重要。だから、バッティング練習では右打者と左打者での守備位置の違いを感じ取ることも必要です。
個人としては「野球って、なぜこうなるのか」の状況判断やチームとしては監督さんが求めている、自分に求められている「立ち位置」を感じ取ってほしいですね。
自分の身体にあった「基本」を学ぼう大藤 敏行 侍ジャパンU-18ヘッドコーチ
私は「同じフォーム」は守備でも打撃でも教えません。選手にはそれぞれの身体に特徴があるし、打撃で全員が同じフォームにしてしまうと、いい投手と対戦した時に全員が同じように打ち取られてしまうからです。
ただ、その中での「基本」はあります。守備であれば捕球はグラブを立てるとひじが動きませんから、「グラブまでの線を引いた中で打球にフタをして遮る」という考え方。そこを基本として先ほど言った「捕球」という動作は次にある「送球」という動作につなげていくため、「最終的に正面で捕球する」を色々な入り方、タイミングでできるようにしていくことが大事です。
また、打撃の基本は「バットの芯と自分のポイントを最短距離で持っていって、投球を捉える」。「自分のポイント」とはバットを右打者は右肩、左打者は左肩から立てたところからバットを真っすぐ落としたところ。実際のスイングでは回転運動が加わるのでそこから若干前。その回転運動をしていく中で投手に自分の身体を見せるとバットのヘッドが出てこないので、いかに身体を投手に見せずに捉えられるか。そして身体の中で操作し、身体の近くでいかにバットを回せるかです。
送球の基本はサッカーのスローイン、バスケットのシュート、テニスのサービスの形と同じような形から回転運動でボールを投げる。そうするとひじの位置も下がってこないです。捕手であれば、ミットを動かさずミットの面を向けて「つかむ」感覚を磨いていってほしいです。
そこに加えて自分の身体の特徴を理解し、鍛えていく。速いスイングをしたければ、腹筋・背筋・速筋を鍛えなければいけないし、体幹を鍛えることも必要。もっと言えば、人間が唯一地面と付いている「脚」を鍛えないと力を発揮できない。足の親指から鍛えていくことも必要だと思いますね。
新入生の早い段階で身のこなしを学び、ウエイトトレーニングでも軽いものを正しいフォームで動かせるようにすること。考え方やメンタルトレーニングとかもしていくといいと思います。
「自分の武器」を磨け岩月 宥磨（中京大中京ー立教大）
監督としての立場で考えてみると、複数ポジションが守れる選手、強みのある選手は試合で使いやすいです。たとえば中京大中京の場合、1学年で選手は20人程度。いわゆる「スポーツクラス」は1学年9人なんですが、そうなると1人は最低2ポジション守れないと試合に出るのは厳しくなってきます。
「あなたの武器はなんですか？」これも新入生によく言っていた質問です。「これだけは人に負けない」が大事ですね。「走・攻・守」三拍子そろってなくてもいい。そのうち2つがあれば、監督はそこから先は組み合わせができるんです。「まずはコイツでいっといて、守りに入る時は、コイツに変えよう」みたいな。
2009年夏に2年生でメンバー入りした中堅手の岩月 宥磨（立教大〜会社員）などは、中学時代は9番打者。脚も肩も平均値ですが、守備での思い切りがよかった。中学時代の指導者からは「この選手でいいの？」と正直言われたんですが、2年春・準々決勝で報徳学園（兵庫）に右中間を抜かれて負けた後、暗いグラウンドでも、ひたすらに自主練習をしていたんです。それが2年夏の甲子園決勝戦・日本文理（新潟）での背走ダイビングキャッチにつながったと思いますね。
同じく2009年甲子園優勝メンバーでキャプテン1番・遊撃手だった山中 渉伍（中京大〜東邦ガス）は、自主練習でカーブマシンばかりを打っている。「なんでそんなことをしているんだ？」と聞いたら「ストレートのタイミングで待って、カーブが来た時にファウルを打つ練習をしているんです」と答えた。そういった実際の試合を「どうやって勝てるのか？」を想定した選手たちが多いチームは強いですね。
第3回では大藤 敏行コーチが高校野球と勉強の両立法についてお話します。お楽しみに！
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