菊池涼介(広島東洋カープ)「菊池の大学4年間は勝負強いの一言に尽きる」
プロ野球界を代表する二塁手・菊池 涼介選手。今年のWBCではMLB関係者も驚かすほどの好守備を連発し、そして打者としても強打の2番として、ベスト4入りに貢献。昨年、リーグ優勝に貢献する活躍を見せるなど、充実のプロ野球人生を送っている菊池選手の原点を迫るべく、中京学院大時代の恩師・近藤 正監督にお話しを聞いた。
入学時から走攻守でずば抜けた力。ただ実は……近藤 正監督(中京学院大学)
菊池ですが、入学から走攻守でずば抜けていました。ちょうど新入生が合流する2月頃に初めてみたのですが、「こんな良い選手がいたのか!」という衝撃でしたね。菊池はサードでしたが、当時は選手層が薄かったため、すぐにレギュラーとなりました。
そして2年生になってから、菊池と相談をして、ショートへ転向することとなりました。当時から走攻守で高い能力を持っていた菊池でしたが、サードとしては体格が小さかったんですよね。ショートの方が菊池の身体能力の高さを生かせると思いましたので、菊池にショート転向を言い渡したところ、「僕もそのつもりでした」と答えてくれて、これでショート菊池が決まりました。菊池はショートに転向してからみるみるとうまくなりました。
このころからNPBのスカウトが見てくださることが多くなりまして、各球団のスカウトが「うちのショートより上手い」と嬉しいことを言ってくださるですよね。その中に、あまり褒めないスカウトさんがいたようですが、そのスカウトさんも「上手い」というぐらい菊池のショートの守備は素晴らしかったです。
ただ、私は菊池の高校時代のプレーを、一切見ていません。
ウチの大学の練習会は、毎年8月に実施します。菊池の母校である武蔵工大二(現・東京都市大塩尻)から捕手が参加したんですが、菊池はその時の練習会に参加していなかった。ただ、8月終わり頃、当時の監督の大輪 弘之さんから「もう1人、中京学院大に行きたい選手がいる」と連絡をいただきました。大輪さんは良く知った監督ですから、いいですよと回答したんです。それが菊池だったんですよね。
菊池はもともと東京出身で、高校を卒業して、都内の大学にいきたい希望があったんです。だけれど、菊池のお父さんが「高校まではお金を出すけど、大学では自分の金で行け」と言われたんですよね。そこで、菊池は都内の大学を諦めて、バイトをやりながら、野球もできるうちの大学(中京学院大)も入ることとなりました。
野球選手は体が資本ですから、選手たちには必ずまかないが出るバイトをやらせています。菊池も4年間バイトをしていました。仕送りもなしで4年間、よくやったと思います。
勝負強さを物語る2つのエピソード菊池 涼介選手(広島東洋カープ)
菊池に教えたことですか?まったくないです。菊池は自分で考えながら取り組むことができて、守備については自分で深く追求していったと思います。また俺には俺の生き方があるという信念を持った選手でした。嫌なことは嫌だとはっきりいいます。プロ向きの性格の選手でしたね。
でも、後輩に対する面倒見は非常に良い選手で、バイト生活で苦しかったと思いますが、後輩を連れて行ってごはんをおごる姿が見られました。
主将を任せることになりましたが、頼もしいことをいってくれるんです。ミーティングで菊池は「俺の前にランナーを回せ。絶対に還すから」と。
実際にその場面がリーグ戦で巡ってきました。満塁のチャンスで菊池に打席が回りましたが、ホームランを打ったんですよ。本当に勝負強い男ですよね。
菊池の勝負強さを物語るエピソードが2つあります。まず1つ目が大学4年秋のリーグ戦前に行われたオープン戦です。この試合、スカウトが20人ぐらい集まった試合で、しかも幹部クラスがいます。その試合で菊池はなんとサイクル安打を打つんです。もうアピール大成功ですよね。
そしてもう1つ。これは4年夏の時の練習中の出来事ですが、暑いので、選手たちはバテているんですよね。菊池もバテていたので、それを見た私は「打撃練習でバックスクリーンに入れたら、飯をおごるよ」と菊池にいったんです。そしたら菊池の目の色が変わりまして、1球目でバックスクリーンに打ったんですよ。そしたら菊池が得意顔で私を見てきまして(笑)本当におごることになりました。
菊池が凄いのは、プレッシャーがかけられる中で結果を残せることですね。たいていスカウトの姿を多くみられると、プレッシャーを感じて結果を残せない選手が圧倒的に多いのですが、菊池は結果を残してしまう。そんな選手は今までの教え子の中で菊池だけですね。
だから菊池だけには「今日は〇〇のスカウトがきているぞ」ということは伝えていました。
菊池は大舞台こそ強みを発揮する菊池 涼介選手(広島東洋カープ)菊池の実力、精神面の強さから、プロで活躍できる選手だと評価していました。ドラフト前から守備を評価する声が多かったんですが、打撃もホームランを連発できる選手で、うちがよく練習する苗木公園野球場は、フェンスの上にあるネットを超えると、飛距離は100メートル以上なのですが、菊池はそのネットを越えるホームランを連発していました。このグラウンドの近くに保育園がありまして、15時〜16時ぐらいになると園児がグラウンド周辺を歩くのですが、菊池はその時間帯だけ打撃練習を禁止していました。そういう一面を知っていますから、プロ入り後、二桁本塁打を打ったり、リーグ最多安打を打ったりするのはあまり驚いていません。
菊池の性格上、大舞台になるほど強くなる選手。リーグ優勝に貢献したり、WBCでも攻守で素晴らしいパフォーマンスを見せてくれましたよね。菊池はそういう男なんです。
プロの選手の中では決して体が大きくない菊池が、子供たちに希望を与えていると思います。このように活躍しているのはうれしく思います。
今年も2連覇を目指し、勝負強い菊池 涼介を見せてほしいですね。
(取材・文=河嶋 宗一)
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