東京ガス 山内佑規捕手「勝てる捕手が一番いい捕手」【後編】

写真拡大 (全2枚)

 昨年、アマチュア野球の最高峰・社会人で、ベストナイン捕手に輝いた東京ガスの山内佑規捕手。高校(桐蔭学園)から社会人まで、常に強豪でプレーしてきた「マスクマン」は、小学校から社会人まで、その全てで主将という、生粋のリーダーだ。

 ただ、明治大では下積みを経験し、東京ガスでもレギュラーになったのは入社3年目。山内選手は″苦労人″でもある。いかに社会人・ベストナイン捕手にたどり着いたのか―。山内選手にそれまでの歩みをうかがいながら、「勝てる捕手」になるための条件などについて教えていただきました。

 後編では「勝てる捕手」になるための条件、配球に対する考え方、そして捕手としての信念に迫ります。

■【前編】「下積み生活を乗り越えて掴んだ正捕手の道」から読む

「勝てる捕手」になるために求められることとは

山内佑規捕手(東京ガス)

 明治大3年秋に神宮大会4強に、昨年は都市対抗4強に貢献した山内選手はこう言う。「僕は「勝てる捕手」が一番いい捕手だと思います。そして「勝てる捕手」が試合に出れると思っています」

 ワンバウンドが止められないようでは「勝てる捕手」にはなれない。前述の通り、山内選手がワンバウンド捕球の練習を日課にしているのは「勝てる捕手」になるためでもある。

「勝てる捕手」になるには、他にも様々な要素があるが、山内選手はキャッチングも重要視している。ただ「ボールをストライクに見せよう、というのはあまり考えていない」という。「そればかり、つまり、きれいに捕ることに固執しているとキャッチングも固くなりますからね。そうではなく、しっかり丁寧に捕球するように心がけています。きちんとつかむ。別の表現をするなら、ボールをポケットに入れて支える、という感じでしょうか」

 イメージ通りの捕球をするための「相棒」は、手に馴染んだミットだ。現在、山内選手が試合で使用しているミットは3年目。新品は1年かけてじっくり″信頼できる「相棒」″にしていくそうだ。加えて送球も、山内選手は「勝てる捕手」になるための大きな要素としている。自主練習では「5mくらいの距離で、フットワークを付けながらのネットスローをよくやっています」

 こうした守りに関することをクリアしなければ「勝てる捕手」になれない一方で、「勝てる捕手」になるにはバッティングも求められる。「ベストは″守れて打てる捕手″でしょう。今の野球では、捕手も打てないと、というところもありますし…僕が昨年、社会人のベストナインになれたのも、率を残せたことを評価してもらったのだと思います」

好投手にはいかに持っているものを出してもらうか

山内佑規捕手(東京ガス)

 山内選手は高校、大学、社会人を通じて、常に好投手とバッテリーを組んできた。桐蔭学園では加賀美希昇投手(法政大−横浜DeNA、現・JR西日本)の、明治大では野村 祐輔投手(広陵出身、現・広島)の、そして東京ガスでは、今年のWBCで存在感を示した石川歩投手(滑川−中部大、現・千葉ロッテ)や、ドラフト1位で今年からオリックスの山岡 泰輔投手(瀬戸内出身)の球を受けた。こうした好投手の良さを引き出す″秘訣″のようなものはあるのだろうか?

「僕は好投手が本来の力を出してくれれば勝ちにつながる、と思っています。ですから自分が引っ張ろうとか、引き出そう、というのはないですね。いかにいい投手の良さを殺さずに、持っているものを出してもらうか。それだけを考えています。一口に好投手と言ってもいろいろなタイプがいるので、簡単なことではないですが」

 投手の考えを知るため、山内選手は投手とはマメにコミュニケーションを取るようにしているという。「まずは相手を理解することが配球の第一歩なので」と山内選手。「ロッカーや風呂場など、グラウンド外でもよく投手とは話をしますね」と続ける。

 もっとも投手と密にコミュニケーションを図るようになったのは大学時代からで「高校時代は自分のことで精一杯で、そういう余裕はなかったです」

 配球については「正解はないのでは」と考えている。しかしその一方で「サインには根拠が必要」とも。「絶対に打たれないボールはないので、結果的に打たれてもしまっても″このボールで打たれたら仕方がない″というサインを決めることが大事だと思います」

試合では点差に関わらず常に淡々と振る舞う「捕手が諦めてしまったら、そこで試合は終わってしまう。その思いは強いですね。」

 捕手・山内にとって目標とする存在は、NPBでの現役時代、ベストナインに3度輝いた阪神の矢野燿大コーチだ(桜宮−東北福祉大)。山内選手はその理由をこう話す。「矢野さんについて書かれた何かの記事に、1点差で勝っていても10点差で負けていても同じようにやる、10点差でも絶対に諦めない、とありましてね。それを読んで感銘を受けたんです。捕手が諦めてしまったら、そこで試合は終わってしまう。その思いは強いですね」

 この記事の影響で、山内選手は点差に関わらず、より試合中に喜怒哀楽を出さないようになったという。試合中は淡々としている反面、練習中は誰よりも大きな声を出してチームを鼓舞する。そのよく通る声は、グラウンドのはるか後方からもはっきりと聞こえるほど。捕手はノックなどでリーダーシップを発揮するのも大きな役目と、あらためて感じる。それを伝えると山内選手は少し照れながらこう言った。

「声が大きいのは僕の取り柄なので(笑)それにノックでは、捕手は他の野手ほど動きませんからね。目で見たことを声にして伝える義務があるかと。惜しみなく声を出していきたいですね」小学校から社会人まで全てのカテゴリーで主将の、山内選手らしい言葉である。

 最後に昨年の社会人ベストナイン捕手から、捕手を務める高校球児に「金言」をもらった。「目立つのは投手。怒られるのは捕手」――

 それでもめげずに精進した者が、捕手の醍醐味がわかるのだろう。

(インタビュー/文・上原 伸一)

注目記事・2017年度 春季高校野球大会特集