都立片倉vs瀬谷
今年のゴールデンウィークは、地域的には一部雷雨などもあったけれども、ほとんど好天気に恵まれていたのではないだろうか。そんなこともあって、多く学校では予定していた練習試合日程は、ほとんど予定通りにこなすことができたようだ。
その分、選手たちもいくらか疲労がたまってきているという事実も否めないかもしれない。しかし、最終的には夏を見据えてチーム強化をして言っていく中で、ここでは一度疲労もピークを迎える。その後は、試合で見つかった課題をそれぞれで修正しながら、テスト期間などもあって身体はややハードな部分からは解放されていく。
そして、その間に何を考え、自分の課題として見つかったことをどのように修正していくのか。これが、特に今の時代の高校野球としては大事なことで、身体のケアも含めて、これから1カ月の間に、そういう部分の見直しも大事になってくるであろう。
多くの有力校では、それから6月に入ると最後の強化期間となり、もう一度身体的にも精神的にも負荷をかけていくことになる。校内合宿などを組むところもあるが、そのための体力作りとしても今の時間は大事なのだ。また、強化合宿はしないまでも、6月になると夏へ向けてのメンバーの絞り込みの期間にもなってくる。ことに、ベンチ入りできるかどうかのボーダーラインにいる選手は、週末ごとの練習試合の中で結果を示しながら、アピールしていくことも大事になってくる。
そんな、それぞれの選手の立場によってさまざまな思いが交錯していくこれからの1カ月でもある。その指針として、ゴールデンウィークの連日の試合づけをどのように過ごしていったかということも問われるのだ。ことに、今年は好天続きで試合が流れなかったということも、試合をこなしていく上でも大きかった。
都立片倉のベテラン宮本秀樹監督は、「日程としては、この時期は連日試合は入れているけれども、雨なんかで1日か2日流れることがあるじゃない。それが、うまく休養になったりすることもあるんだよね。だから案外、投手なんかもうまく回っていくんだよね。だけど、今年は中止がないから、ここへ来ると、そろそろ投げられるヤツがいなくなってきたりしてね…」などと、苦笑しながら話していた。
とは言え、都立片倉の場合はエース高橋歩武君がおり、彼は昨日投げたということで、この日は当初から登板はないということにしていた。そして、宮本監督としては、高橋君に続く投手として石田康晴君、と左の森田大翔君と2年生の左腕・紙田龍也君らを実戦での確認をしたいところである。
この日は1試合目では紙田君が、2試合目では石田君が先発した。紙田君は、瀬谷の渡邉翔太君のテンポよさにも引っ張られるように、ポンポンとストライクを先行させていっていた。2回に二死走者なしから、6番木本君に中前にポトンと落とされ、続く松下君が左翼線二塁打して二、三塁。ここで暴投と、さらに四球で一、三塁になって重盗を仕掛けられて、挟みながら生かせてしまうという形での2失点。ただ、バッテリーはこれで、次の回から投球構成を修正してきたのは、考える野球を一つ実践して形に現したとも言えよう。
瀬谷ナインそして反撃したい都立片倉は3回、8番に入っている紙田君自身が柔らかい打撃で中越三塁打して続く久森君も一塁線を破る二塁打。さらに、バントと犠飛で同点とした。試合の流れも学んでいくということで言えば、先制されながらも早い段階で追いつけて、試合を振り出しに戻せたということも大きかったであろう。
その後は、紙田君と渡邉君のテンポの速い投手戦的な展開になっていったが、瀬谷が5回と7回、いずれも1番小林友毅君のタイムリー打で得点していく。
2点を追う都立片倉は、8回に二死一、二塁から3番藤井君が左翼越え二塁打して2者を迎え入れて同点。さらに、石川君が中前へしっかりとタイムリー打して逆転。4番打者としての責任を果たした。勢いづいた都立片倉は、続く堀江君も二塁打して二、三塁となったところで、内田君が左翼へ3ラン。理想的な形での逆転、と追加点という形になって、紙田君はこのリードを守り切った。
2試合目は、都立片倉は石田君、瀬谷は平野太一監督があえて1年生の蛭田恵司君を先発させた。都立片倉打線が、蛭田君に対して「高校野球は中学とは違うよ」と言うことを見せつけるかのように、打ちまくった。また、都立片倉としては、徹底して練習してきた一、三塁からの重盗なども試してみて成功させていたなど、打って容赦なくかき回していった。
平野監督は結局、蛭田君を5回まで引っ張った。「打たれるのは、ある程度はわかっていましたが、緩急をつけて工夫も指定のですが、その間球がちょうどうちゴロになっていましたね。何とか一度0に抑えるまでは、と思っていたのですが、5回に0に抑えたので、そこで切りをつけました」と言うが、期待も高いだけに、今の時期から、徐々に登板機会を与えられている。ただ、これだけ打たれたのは初めてのようだが、「高校野球は甘くないということを知っていきながら、その覚悟で取り組んでほしい」という思いの表れでもある。
平野監督は、大分県の別府鶴見丘の出身で神奈川県には縁もゆかりもなかったのだが、自身が「一番参加校が多く、激戦で強豪校も多い神奈川県で高校野球に正面から取り組んでいきたい」という思いで採用試験を受けて採用となって瀬谷が2校目だ。そんな、自分自身の思いの熱さを生徒たちにぶつけながら、自分自身も様々な指導者と積極的に交流を持っていって、貪欲に吸収していこうという姿勢である。そんな平野監督を応援していこうというベテランの指導者も多いが、宮本監督もそんな一人である。
試合後は、お互いのチームの気づいた点を指摘し合いながら、気づいたことを伝えていた。そして、すぐに翌年の予定も組んでいこうと日程を作っていた。そうした、指導者の思いを見ていかれるのも、高校野球の現場を見て歩く面白さであり、楽しさでもある。また、そこで育まれていく人間関係を見られるのもまた、素晴らしいことだと思う。
宮本監督(都立片倉)と高江洲拓哉さんそれに、この日は宮本監督の都立府中工時代の教え子でもあり、その後は高校生ドラフト(当時)4位指名で中日入りした高江洲拓哉氏が訪れていた。現役引退後には野球から離れていたが、プロ経験者としてアマチュア野球指導資格を取得したので、宮本監督の補助として、月に一度ほど都立片倉へ足を運んで、自身がプロの世界で経験したことや教えられてきたことを高校生に伝えていっているという。
試合終了後には、牽制球のタイミングについて指導していたが、プロのレベルで求められていたことを高校生に対して、どのように伝え実践させていくのかということも難しいことではある。「何ができて、何ができないのか」ということを的確に見極めていくことも、指導という場では大事なことである。そうしたことを踏まえて、高江洲氏は指導していた。いずれにしても、プロ経験者から直接、高い野球のレベルや意識、技術に関しても言葉で伝えてもらえることは非常に大きな意味があるのではないだろうか。
高校野球の一つの練習試合という現場ではあるが、そんな中で、いろいろな状況や人と人とのつながりを見て行かれるのもまた、高校野球の現場に足を運ぶもう一つの大きな意味でもあるのだ。
(取材・写真=手束 仁)
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