川越東vs富士市立
JR川越線の南古谷というややローカルな駅だが、大宮駅からは5つ目、川越からは次の駅になるだが、そこから車で10分くらいのところに星野学園川越東がある。生徒はスクールバスで通うことが原則になっているというが、スクールバスは大宮からも出ているというので、比較的通学はしやすいようだ。
私立の男子校だが1学年で11〜12クラスあり、全校で1300人前後の生徒がいる。学校法人星野学園グループだが、かつて女子ソフトボール部は全国制覇の常連だった星野は系列中学などがあるのに対して、川越東は高校のみが単独で存在している。学校の敷地は広くて施設としては非常に恵まれているという印象だ。学校としては、進学に重点を置いており、多くの難関校への合格者も出している。
その一方で、部活動も盛んで、ラグビー部はこの春に熊谷市で開催された全国選抜大会に推薦出場を果たしている。サッカー部はミスト付きのグラウンドを保有しており大会会場などにもなっている。また、体育館もバスケットボールコートが6面も確保できる規模の大きさで、室内で100mもとれるほどの広さなので、体育祭が雨になったときは体育館で開催できるくらいだという。
そして、野球部は校舎から少し離れたところに第3グラウンドとしてほぼ専用球場を保有している。ブルペンと雨天練習場も完備しており、雨天練習場は十分に打ち込みができるスペースとマシンなどの器具があり、選手たちは時間を見つけてはここに振り込みも打ち込みもこなしていく。川越東の選手たちの打撃力の良さ振りの鋭さは、こうした環境の中からも生まれているのであろう。また、グラウンドには3カ所の散水設備もあり、県内でも有数の恵まれた環境と言ってもいいのではないだろうか。
この春に、公立の坂戸西を辞して、請われて川越東監督に就任した野中祐之監督は、まずこの環境に驚いたという。「坂戸西も、公立校としては野球部の環境としては恵まれていたと思いますよ。それに、男子バレーボールなども強豪で、他の部とも競い合っていました。だけど、環境としては、ここには負けますよ。ただ、生徒たちがこの環境が当たり前だと思わないようにさせるためにも、いろんな部分でストレスを与えていこうと思っています。
だから、試合も学校を出て、遠征も多くしていかないといけないかなとも思っています。そうした中から、改めて自分たちの環境がいいのだということを知って、それを活用していくという姿勢を作っていきたい」と、環境に満足しない姿勢と心を植え付けようとしている。また、そのことで個々のメンタル面も強化されていくという考えでもある。
今年のチームとしては、エースの左腕・苅部君が安定しているが、夏の戦いを見据えていけば、もう一人試合を任せられる投手がほしいというところである。それに、ワンポイントでもいいから目先を交わしていかれる投手を作っていきたいという考えだ。その目的も持って、この日は右の山口君が先発して、5回までを投げて苅部君につなぐという形を試してみた。
山口君は、初回に先頭の山本君に中前打されてすぐに盗塁も決められてピンチを迎えたが、加藤大君の一打が二塁ライナーとなり併殺。これですっかり自分のペースを作ることができた。少し横にずれていたら長打になった可能性の高い打球だっただけに、こうした一つプレーで試合の流れそのものが変わっていくということを改めて見せられた。
その裏の川越東は、一死後、四球と2つ暴投で三塁へ進めると、3番に一塁手として入っていた苅部君が中前打して先制。さらに、青山君、後藤君と中軸が続くと、上村君の犠飛で2点目。四球を挟んで満塁となったところで、8番黒川君が満塁本塁打。3回にも青山君の二塁打や、岡安君の本塁打などで2点を追加。川越東は鋭い振りを見せつけて11点を奪った。
2つ目の試合では2年生の次期エース候補の小笠原君が5イニングを投げて、6回からは右横手投げの「目先を交わせるタイプ」として野中監督が期待している真中君が投げたが、高く入っていったところを富士市立打線に掴まった。やはり、制球は大事だということは、再確認していかなくてはいけないだろう。
富士市立は本来のエースである長谷川君が、疲労もあってか腕と肩に少し痛みがあるということで、この日は登板は回避して3番左翼手として出場していた。先発した池ヶ谷君は初回に満塁弾を浴びて結局2回で降板。2人目の石塚君も代わり端には本塁打を浴びるなどしたが、戸栗和秀監督は、5回からは二塁手の加藤大君を捕手として、リード乗れずむを変えていくことで何とかかわしていこうとした。
「丁寧に、低めを要求していってほしい」というところだったのが、最初はやや高めに入っていってしまい、その部分の修正でもあった。「県大会で負けた反省をして、その後の試合では、直ってきたかなと思っていたのですが、また言われたことがやれていなかった。春季大会からのミスが修正できていませんね」と、この日の試合内容に関しては、不満が多かったようだ。
2試合目には、体格的にも恵まれており、期待の高い高山君が先発したのだが、2回にはバントなどでかき回され、後半は有坂君に2本の三塁打を浴びるなどやや単調になって長打を浴びてしまった。
富士市立は、かつては吉原商といわれていた富士市内唯一の市立校である。現在は普通科とビジネス科にスポーツ科があり、1学年6クラスで240人という中規模校である。元々が商業校ということもあり、男女比で言うと、6対4で女子生徒が多い。埼玉栄で指導をしていた戸栗監督が、故郷の静岡県に戻って監督に就任して、関東遠征なども多く取り入れて、近年徐々に実績を挙げるようになってきた。静岡県東部で、今後が注目される学校の一つである。
(取材・写真=手束 仁)
注目記事・2017年度 春季高校野球大会特集