どん底グランパス。なりふり構わぬ「5バック」に敵将も苦笑い
"オリジナル10"がまたひとつ、J2に降格してしまうのだろうか。
J1セカンドステージ第6節、年間順位で17位に沈む名古屋グランパスは、横浜F・マリノスと0−0で引き分けた。勝ち点1を積み上げた名古屋は、順位をひとつ上げはしたものの(湘南ベルマーレと勝ち点19で並び、得失点差で上回った)、セカンドステージだけで見ればいまだ勝利がなく、最下位のまま。これと言った光明を見出せない試合内容は、大いに不安を感じさせるものだった。
名古屋はこの試合、従来の4バックから3バックにフォーメーションを変更して臨んだ。小倉隆史監督によれば、「セカンドステージに入って(5試合で)失点10はちょっと......、守備のところでテコ入れが必要だった。まずは守備をしっかりとして(試合に)入るのが狙い」だった。
その結果として小倉監督は、「3バックにしてマリノスの攻撃をしのぎ、ゼロで抑え、アウェーで勝ち点1を拾えたことは狙いのひとつ」と前向きに語り、それなりの成果を口にした。
だが、新布陣によって手にした勝ち点1を、指揮官が心の底から喜んでいないことは、誰の目にも明らかだった。
記者会見に臨む小倉監督の表情は暗く、常にうつむき加減。話す言葉も、そのまま文字にすれば日本語として成立しないほど歯切れが悪く、解説者時代の軽妙な語り口とはかけ離れていた。名古屋が依然、危機的状況にあることを、その様子が何より雄弁に物語っていた。
事実、この日の試合内容から判断すれば、せっかく拾った勝ち点1も、名古屋が今後好転していきそうな予兆を感じさせてくれるものではなかった。
確かに、相手に得点を許さず、勝ち点1を手にしたことは、布陣変更が功を奏した、と言えるのかもしれない。
「現実に残留争いに入ってしまっている。しっかり勝ち点を拾っていく戦いが必要」
小倉監督がそう認めているように、なりふり構わず、負けない戦い方に舵を切ったことは現実的な判断である。横浜FMのエリク・モンバエルツ監督には、「3バックというより、5バック(苦笑)。名古屋は全員で守りを固めてきた」とまで言われてしまったが、置かれている状況を考えれば、それも仕方がない。
しかし、重心を後ろに下げて戦った結果、無失点で終えることはできたが、その一方で、得点の可能性もほとんど感じられなかった。
低い位置でボールを奪っても、そこでチーム全体がひと息ついてしまい、スローダウン。ロングボールは使わず、あくまでショートパスをつないで攻撃を組み立てようとするのだが、むしろ相手に守備をしやすくさせるだけだった。中盤ですぐにボールを失い、横浜FMの連続攻撃を浴びる結果となった。
「どう攻撃に枚数をかけるか。少ない枚数で攻めるときがあってもいいが、それだけでは苦しい」
前線で攻守に奮闘したFW和泉竜司がそう話していたように、名古屋は攻撃に移っても、パスをつないで全体を押し上げることができなかった。結局、1トップ2シャドーを形成するFWシモビッチ、和泉、MF永井謙佑の3人で何とかするしかなかった。
小倉監督は「中盤でボールが収まり、つなぎができれば、自分たちの時間が作れるのだが......」と言って嘆いたが、そのために必要な準備はできていなかった。
それならば、いっそ相手DFラインの背後を狙ったロングボールでも使い、シモビッチの高さや永井のスピードを生かすほうが得策ではないかと思うのだが、あくまでもショートパスをつなごうとする。
だとすれば、全体が連動してパスコースを作り、ボールを動かしながら押し上げていかなければいけないはずだが、中盤から後ろは守備の意識が強すぎるのか、ボールを奪っても持ち場を離れることができず、足を止めてしまう。何とももどかしい、どっちつかずの攻撃ばかりが続けられた。
「今日は5人のDFを置く、より守備的な戦い方だった。守備の部分はある程度成功したが、点を取れていないことは悔やまれる。タフな状況だが、できることをやるしかない」
最前線で孤立することの多かったシモビッチも、前向きにそう語ってはいたが、話す表情は意外なほどさばさばとしており、これでは点が取れなくても仕方がない、とでも言いたげだった。
これだけ人数をかけて守りを固めれば、守備はある程度計算できる。だが、得点できない限り、どんなに無失点を続けても得られる勝ち点は1止まり。勝ち点1を積み上げているだけでは、J2降格圏から脱出するのは難しい。
布陣変更という窮余の策も、決定的な良薬とはなりえておらず、むしろ攻撃面での停滞感を強めてしまった印象さえある。改善の兆しを見せるどころか、このままでは、いよいよ袋小路に入り込みかねない。
1993年のJリーグ創設時からのメンバー、"オリジナル10"のひとつにして、J1優勝実績も持つ名古屋が、まさかのJ2降格という憂き目に遭ってしまうのだろうか。
残された試合は11。もはや、どうにかなるだろうと、悠長に構えていられる余裕はない。
浅田真樹●文 text by Asada Masaki