阿部の直接FKによるゴールは2010年以来6年ぶり。「狙っていたところに決められた」と納得の一撃だった。(C)SOCCER DIGEST

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[J1・第2ステージ2節]浦和レッズ 2-0 柏レイソル
7月9日/埼玉スタジアム2002
 
 痺れる一撃だった。
 
 32分、浦和が得た直接FKのチャンス。浦和から見て左サイド、柏ゴールから約23メートルの地点だ。
 
 ボールをセットしたのは柏木陽介だった。しかし「自分が蹴る位置ではないな……。アベちゃん蹴らない?」と、同じボランチの阿部勇樹にキッカーを託す。
 
 阿部は頷く。
 
 柏を惑わすため、ふたりが助走をとるようにボールから離れる。柏木が蹴るふりをして、軽く手を挙げる。
 
 ところが、助走距離を保ったふたりが、どちらも走り出そうとしない。ともに動きが止まる。どうやら、阿部が柏木にかけた声が届かなかったようだ。
 
 ここで3秒ほど、沈黙が生まれた。
 
 いったい、どちらが蹴るのか? 柏を惑わす時間になったかもしれない。
 
 柏木が阿部に近づいて、「どうしたの?」と声をかける。すると阿部がひと言、柏木にリクエストをする。
 
「ボールを、またいで」
 
 今度は柏木がボールに向かって走り出し、そしてボールをまたぐ。GK中村と壁を作っていた選手は、まず柏木の左足に完全に意識を集中させていた。次の瞬間、後方から走り込んでいた阿部が右足でしっかりと強くミートする。
 
 強烈にインパクトされたボールはジャンプしたGK中村航輔の右手をすり抜けるように鋭い弧を描く。重い弾道は「狙っていたとおりのところに飛んだ」と阿部が納得したとおりコントロールされ、ゴールネットに突き刺さった。
 
 直接FKでゴールが決めたのは、フォルカー・フィンケ体制下の2010年4月3日の湘南戦(浦和が2-1で勝利)以来、実に6年3か月ぶりだ。
 
「陽介と相談して、決めた。助走のところで、タイミングをずらせればと思った」
 
 阿部は淡々とだが、嬉しそうに得点シーンを振り返った。普段であればこのサイドで直接FKを蹴る槙野が出場停止だったために巡ってきた機会と言えた。
 
 しかも、両チームともに守備が安定せず、どちらに流れが傾くか分からない危険と言える展開が続いていた。そこで今季2度目の直接FKをしっかり決めてしまうあたり、まさに浦和の唯一無二のキャプテン――役者が違った。
 
 阿部は語る。

「相手は僕が蹴るとは思っていなかったと思う。そういう選手が蹴ったからこそ、決まったんじゃないかな」
 
 しかもちょうど七夕の7月7日には、同い年である盟友の那須大亮に女の子の第二子が誕生していた。このゴールが決まった直後、チームメイトが一列になり、そして阿部と那須が隣同士になって、祝福の揺りかごダンスを披露した。
  
 ただし、ゴールのことからチームに話題が変わると、阿部は表情を引き締めて答えた。第1ステージ終盤は3連敗を喫したものの、そこから4連勝。第2ステージは4チームのみの連勝スタートを切り、年間順位は首位・川崎に勝点5差の3位につける。それでも、あくまで「一戦、一戦、目の前の試合が大事」と強調する。
 
「福岡戦は逆転できたが、夏場は耐えることが求められる時間が必ず訪れる。そこで耐えて、いかに自分たちの時間を作るか。その点でいえば、(柏戦では)頑張れた部分はあったと思う」
 
 そのうえで阿部は、守備の重要性を説いていた。
 
「僕らはこのままでは終わらない。勝ち続けられるチームにしたい。そのためにも、しっかり守って失点ゼロで終わらせることが大事になってくる」
 
 勝利のためには、守備を安定させること――無失点試合を増やさなければならない。FK弾がチームに檄を与えたのは間違いない。ただ、阿部にとっては、押し込まれながらも耐え抜いて掴んだ7試合ぶりの無失点勝利が、大きな「結果」だったと捉える。
 
 鮮烈なFK弾と無失点勝利。普段は周囲を引き立てるために黒子のように最終ラインと前線をつなぐリンクマンの阿部が、誰の目にも明らかなこの一戦の主人公だった。
 

取材・文:塚越 始(サッカーダイジェスト編集部)