横浜高等学校 藤平 尚真投手【後編】「関東大会の敗戦を必ず糧とする」
前編では肘の成長痛やケガを乗り越え、2年夏には横浜のエースとして下級生ながら躍動した様子を描いた。そして後編では、藤平 尚真投手に、秋季大会の振り返りと今後の目標について語っていただいた。
東海大相模にリベンジし、県大会優勝藤平 尚真選手(横浜高等学校)
新チーム発足後、藤平 尚真は東海大相模に敗れた悔しさを忘れず、誰にも負けない投手を目指して、トレーニングや練習に取り組んだ。秋の大会に備えた8月31日の千葉敬愛との練習試合では15三振を奪い、さらに完全試合も達成する。
「調子は良かったですし、意図通りに投げることができた試合でした」と順調な仕上がりを示したかに見えたが、逆に大会前に調子を上げ過ぎたのか、県大会序盤は調子を落とした投球となった。
4回戦では強豪・桐蔭学園と対戦したが、藤平は1回、2回に1点ずつ失う立ち上がり。直後に味方が逆転しコールド勝ちを決めたが、藤平自身、「ストレートも、変化球も全然ダメだった」と振り返った。それでも、続く準々決勝、東海大相模戦では調子を取り戻す。
相手は昨夏の神奈川大会決勝で敗れた東海大相模。藤平自身、「なんとかやり返したい」という思いがあった。また性格上、強い相手ほど燃えるという藤平はこの試合で快投を見せる。ストレートは140キロ前半。突出して速いスピードではなかったが、緩急を上手く使い分ける。この時、こだわったのは打者に応じて縦横のスライダーを投げ分けること。
「スライダーでも、横に曲がるスライダー、縦に曲がるスライダーを投げ分けたり、また速度も緩く投げていたところから速く投げて、そしてここぞというときに渾身のストレートを投げる。意図通りに投げることができて、しっかりと試合を作れたと思います」
藤平は東海大相模打線を1失点に抑え、完投勝利。準決勝進出を決めると、この試合でも、攻守にわたって活躍し藤沢翔陵に勝利。決勝の桐光学園戦でも先発出場。この試合で藤平は、ストレートを魅せる投球にこだわった。「多くの人に自分のストレートを見てもらいたい。そんな思いで、いつもよりストレート多めで、力を入れて投げていきました」
藤平のストレートは走り、強力な桐光学園打線を無失点に抑え、県大会優勝を決める。そしてこの試合で藤平は最速151キロを計測。150キロ越えはずっと目標にしていたことだった。「平田 徹監督と年内に150キロ投げたいと言っていたのでうれしかったですね」と笑顔を見せた。
そして藤平だけではなく、チームも2年生スラッガー・公家 響、1年生ながら上位を打つ増田 珠など野手の活躍も光り、攻守ともに安定した戦いを見せた横浜。大きな自信を掴み、優勝候補と期待されて関東大会にチームは臨むも、現実には厳しい結果が待っていた。
[page_break:一球の怖さを味わった関東大会]一球の怖さを味わった関東大会秋季関東大会 vs常総学院より
初戦の相手は常総学院。中学時代、U-15のメンバーだった常総学院のエース・鈴木 昭汰とは抽選会前には「当たらなければいいね」と言い合っていたが、初戦で顔を合わせることになった。
それでも、藤平はどんな強敵でも、エースとして勝つ投球に徹するだけだ。関東大会までは直球、変化球の精度を高める調整をしてきたが、万全の準備をしたからといって、100の力を出せるとは限らないのがピッチングの難しさだ。
常総学院戦の前、藤平はスライダーのキレが鈍いことを感じていた。「投球時、左肩がやや下がって、平面的な投げ方になっていたんです。いつもより回転が使えず、スライダーがより手前で曲がっていて、見極められる。そのため、ストレート中心の組み立ててでいきました」
藤平の速球は、常総学院打線にすぐに捉えられる。エースの鈴木が1番に入り、藤平の2球目をセンターに打ち返される。ここはセンターフライに打ち取るも、3番宮里 豊汰には、二塁打を打たれ、苦しい立ち上がりとなった。
神奈川県大会では思い通りに抑えることができた藤平の速球。「簡単に当てられて、いつもと違う感じはしました」
常総学院は、横浜との対戦が決まる前から、茨城県大会後にすでにマシンを145キロの速度に設定していた。関東大会ではそのクラスの投手が出てくると睨んでいたのだ。
それでも藤平自身、尻上がりに調子を上げるタイプと自負しており、調子を上げていくことができれば、抑えられる自信はあった。事実この試合、回を追うごとにストレートの走りは良くなっていた。
5回表、1番鈴木をストレートで見逃し三振に斬って取る。その球を鈴木はのちに、「5回のストレートは素晴らしく速かったです」と絶賛するほどだった。その後も、調子を上げて常総学院打線をピシャリと抑えるつもりだった。しかし、続く2番有村 恒汰に安打を許すと、3番宮里に初球のストレートを強振され、スタンドに運ばれる。逆転2ランとなった宮里のこの本塁打が決勝点となり、横浜は初戦で敗れた。
藤平は試合後、うなだれ、一人で立つことができず、仲間に支えられながら、応援団へ挨拶。泣きじゃくりながら球場を後にした。その試合を振り返って、「痛恨の一球でした。一球の怖さを実感した試合でした。自分のせいでチームの選抜出場がなくなり、とても責任を感じています」と振り返る。
[page_break:関東大会の敗戦を最後の夏の甲子園出場につなげる]関東大会の敗戦を最後の夏の甲子園出場につなげる藤平 尚真選手(横浜高等学校)
関東大会後、藤平はそれぞれの球種のレベルを高めるための取り組みをしている。「今のままでは高いステージで抑えられないことを実感しました。ストレートは、分かっていても空振りが奪えるボールを追求しています。ストレートを磨くことに加えて、緩急を今より上手く使っていきたいんです」
また、最も課題に置いているのはスライダーの精度を高めることだ。「スライダーのレベルをもっと高めたいんです。参考にしているのはダルビッシュ 有さんで、ダルビッシュさんは3種類のスライダーを投げていて、一流投手は1つの球種でもいろいろな変化で投げているので、見習っていきたいです。ただ、スライダーを磨きつつ、本格派の投手はみんなフォークが良いので、フォークも磨いていきたいです」
ストレートも変化球も投球術も、すべてにおいてさらに高いレベルへ。それが全国区の打線を抑えられる条件と考える。
そんな藤平の2016年の目標は二つ。「甲子園の舞台に立ったことがないので、チームを勝たせる投球ができれば、それが実現できた時、頭の中に描いている目標に挑戦することができます」
一つは甲子園に出場して全国の頂点へ。そしてもう一つは中学時代のU-15代表に続き、侍ジャパンU-18のメンバー入りも目標にしている。振り返れば、同校OBである松坂 大輔も涌井 秀章も2年の時に悔しい敗戦を経験していた。松坂は、2年夏の神奈川大会でサヨナラ暴投。涌井は2年春の選抜決勝で打ち込まれ大敗を喫している。2人ともこの負けから大きく進化を遂げ、松坂は春夏連覇、涌井は夏の甲子園ベスト8にチームを導いた。
藤平にとってこの秋の関東大会の敗戦が、さらに進化するきっかけとなれば・・・。進化が現実のものとなった時、藤平は間違いなく、この夏の主役となるだろう。
(取材・文/河嶋 宗一)
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