愛知工業大学名電高等学校 高橋 優斗選手「下の世代から目標とされるような選手になりたい」

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 今年は右の藤平 尚真(横浜)、左の寺島 成輝(履正社)など左右に好投手が揃う世代だが、打者でトップレベルに位置するのが愛工大名電の高橋 優斗選手だ。

 1年夏から公式戦に出場。そして2年夏には打率.545と驚異的な打率を残し、現在、高校通算39本塁打(取材時)を放っているスラッガー。確実性、長打力を兼ね備えた打撃に加え、安定した守備力を持ち、来年にかけて全国区で注目を浴びる可能性を持った高橋選手の成長過程を振り返ってみたい。

2年夏 打率545!高打率を残した要因

高橋 優斗選手(愛知工業大学名電高校)

 岐阜県土岐市で生まれ育ち、小学6年生では今井 順之助(中京)とともにドラゴンズジュニアとしてNPBジュニアトーナメントに出場。岐阜の陶都ボーイズに所属し、岐阜県選抜にも選ばれた。そんな高橋が甲子園を目指しその門扉を叩いたのは愛工大名電高校。

「中学を出て、寮に入りたくて、もっと野球に集中したいという思いを持っていました。一番野球に集中できる環境だと思ったのが愛工大名電だったんです」

 中学を卒業する時からすでに家元を離れる決意があったという高橋 優斗。その決意を実行に移し希望通り愛工大名電に入学。当時から打撃には自信があり、中学時代から素振りを欠かしたことがない。「やはり自分に甘くなってはいけないので」

 そして1年夏から遊撃手として公式戦に出場。秋季大会後には三塁手に転向する。このコンバートは正解だった。遊撃手よりも三塁手の方が守りやすいという高橋。「遊撃手は難しくて、ミスもあって、守備でミスが出ると打撃に影響するところがあったので、サードにコンバートをされて、守備も安定しましたし、打撃の調子も良くなったんです」

 努力家である高橋は、冬の期間は誰よりもスイングをした。結果が出ない時もあったが、辞めたらそこで負けと自分を戒め、振り続けてきた。そしてウエイトトレーニング、走り込みもしっかりとやってきた。その努力の結果、1年生の時と比べると下半身ががっしりした高橋。入学当時の178センチ75キロから179センチ80キロまでサイズアップ。体づくりに徹した冬を越えて、打球の質が変わった。

 1年秋までに16本の本塁打を放つなどもともと長打力はあった選手だったが、これまで打球の方向はライトが中心だった。ところが一冬超えて、センター、レフトと広角に打てるようになったのだ。しかしそれで満足することなく、努力を続けた。その原動力となったのは、1学年先輩の毛利 元哉、西脇 雅弥という2人のスラッガー。

「2人には劣るところはあったかもしれませんが、でも普段の練習からこの2人には負けたくないと思っていましたし、刺激になっていました」

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高橋 優斗選手(愛知工業大学名電高校)

 日々練習を重ねていき、この夏、高橋は大当たりを見せる。愛知大会5回戦の半田戦までの3試合(夏の愛知大会ではシード校は3回戦から登場)で11打数10安打と大活躍。この出来には自分自身でも驚きだった。しかし一つ確信したことがある。「日頃やってきた練習の成果がここで出たのかなと思います。やっぱり練習をしなければうまくはなれない」

 そしてチームメイトも高橋に負けじと奮起。決勝までの5試合で48得点を記録した。順調に勝ち上がり、あとひとつで甲子園という決勝戦の相手は中京大中京。新チームとなってからはこれまでに二度対戦しており、いずれも勝利を収めている。

 高橋はエースの上野 翔太郎(関連コラム)と秋、春とともに対戦し、得意としていた投手だった。だが、「この夏で最も良い投球ができた試合だった」と上野が振り返っていたように、春から大きく成長した上野は強打の愛工大名電打線を沈黙させる快投を見せた。そして高橋は4打数1安打に終わった。

 上野の投球は「春に比べて全くボール、執念が違いました。改めて自分の実力不足を痛感した試合でもありました」。夏6試合で、22打数12安打と打率.545と驚異的な打率を記録したが高橋だったが、全く満足する様子はなかった。

 そして今秋は3回戦で宿敵・中京大中京と対戦。夏のリベンジと意気込んだが2対11で敗れ来春の選抜を逃した。これで甲子園出場に向けて残されたチャンスは夏のみ。新チームとなって主将となった高橋はどうチームを引っ張っているのだろうか。「思ったより大変です。みんなそれぞれの考え方がありますので、自分の考えを押し通すことはダメですし、みんなの考えを聞きながら、チームを引っ張っていくことを考えています」

 苦心しながらも主将としてチームを支えようとしている様子だった。

振り返りを大切にし、よりレベルの高いプレーヤーに

 さらに目指す選手像については「走攻守三拍子揃った選手になりたい」と目標を高く掲げていた。

「守備はだいぶ安定してきましたし、走塁については、足は遅くないですし全体的に見ても速い方だと思いますが、まだスタートの技術、スライディングの技術が低いです。やはりそういうところを磨いていかないといけないと思っています。上で活躍する選手は打たないけど守れる、打てるけど、守れないというわけにはいかなくて、やはり見ていると走れて、打てて、守れるという選手が活躍しているので、走攻守すべてにおいて磨きをかけていきたいと思っています」

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高橋 優斗選手(愛知工業大学名電高校)

 現状に満足することなく、しっかりと高いレベルを見据えているのは頼もしい。また高橋自身、最も得意とするのは打撃だが、そこでの課題は落ちる球の見極めだという。「このボールに対して、どう引き付けて打ち返すことができるか。まだ練習試合でもこのボールをひっかけて内野ゴロという打球が多いです。このボールを快打できるようにならないと先はありません」

 また、高橋は日頃から練習試合、公式戦の打撃結果をノートに記入し、振り返りを行っているという。なぜ打てることができたのか?なぜ打てなかったのか。しっかりと原因を突き止めているようだ。

 高橋がこの夏、打率.545と高打率を残した理由が分かるエピソードだ。ただ打撃技術の高いだけという訳でなく、普段からこれほど振り返りをしているからこそ、安定した打撃がをすることができるのだろう。

 一方で、そういう選手だからこそ倉野 光生監督の要求は厳しい。無安打の試合があると、「プロへ行く選手はどんな試合でも常に最低限、1本の安打は打つもの。まだまだですよ」と厳しい言葉を投げかける。しかし、これは高橋だからこそ高いハードルを設けているともいえる。

目標とされるような選手になりたい

 最後に目標とする選手がいるか聞いてみた。すると高橋は「プロ野球は好きですし、いろいろな方の映像を見たりしていて、参考にします。松井 秀喜選手の打撃は本当に参考になっています。でも目標となるとちょっと違います。僕がさらにレベルアップをして、今後、愛工大名電の門をたたく下の世代の子たちの目標となる選手になっていきたいです」

『目標となる選手になりたい』

 このセリフを聞いた瞬間、身震いする思いにさせられた。これまでの高橋のパフォーマンス、実績、技術、取り組む姿勢をみると、高橋にはその言葉を発する資格は十分にある。いや、もっと多くの選手たちから目標とされるような選手になれる可能性は十分に秘めているだろう。

 インタビュー後の練習試合で、打った瞬間場外本塁打と分かる高校通算39号本塁打を放つ姿を見て、その思いはより強くなった。

(取材・文/河嶋 宗一)

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