iPad Proの真のライバルはMacBookだと思う3つの理由(アップル系ライター海老原昭)

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アップル系ITライターの海老原です。

先日のスペシャルイベントではさまざまなハードウェアが発表されましたが、中でも注目度が高めなのが「iPad Pro」。単にでっかいiPadというだけでなく、専用スタイラス「Apple Pencil」が使えることや、同じく専用の「スマートキーボード」カバーが用意されるなど、これまでのiPadとはちょっと違った個性の持ち主です。タブレットという形状やスマートキーボードなどから、直接のライバルはMicrosoft Surfaceだろうと目されていますが、私としては直接競合するのは、実は自社製品であるMacBookシリーズだと考えています。以下にその論拠を示します。

理由1:価格面ではiPad Proが同等〜有利


iPad ProはWi-Fiモデルが799ドル/949ドル、Cellularモデルが1079ドルです。対するMacBookはフラッシュ容量とCPUの違いで1299ドル、1599ドルの2モデルです。フラッシュストレージの量はMacBookのほうが多いので値段差はやむを得ないところですが、スマートキーボード(169ドル)とセットにしても、968/1118/1248ドルで、まだ安上がりです。

(表)iPad ProMacBookの価格について

MacBookもいずれ値下がりしていくとは思いますが、それをいうならiPad Proだって値下げする余地はありますし、結果的に価格差は同程度の水準にあり続けるのではないかと思います。

理由2:パソコンじゃないとできない作業(使えないアプリ)が減ってきた


一部でiPad Proはエンタープライズ市場向けと言われていますが、同市場はもともとMacの弱い領域です。ここに食い込むためにIBMやCiscoとも提携しましたし、特に前者とはエンタープライズ向けのソフトウェア開発でも緊密な協力関係にあります。

エンタープライズ市場では社内向けのソフトウェアがウェブベースになっているところが増え、iOS用のアプリを開発しているところもあり、以前ほどPCに固執する必要はなくなりました。みんな大好きMS Officeだって、今はiOS用があります。iPad Proの発表会で、わざわざApple Pencilに対応したバージョンをMSにデモさせたくらいです。さらにMacの牙城であったクリエイティブツールに関しても、iOS版が増えています。

Office for iPadはマルチタスク対応なども含めて、アップル純正のiWork以上に力が入っているように見える

AdobeもiPad用のクリエイティブツールを、これまでより一歩踏み込んだ内容で提示。たとえばDTPも、簡単なレイアウト調整などはiPad上でできるようになるかもしれない

無論、今後もOS Xでなければできないこと、マウスなどのポインティングデバイスでなければやりづらい作業はあると思いますし、エンタープライズやプロ向け市場を全てiPad Proが全部奪い去っていくとは思いませんが、「パソコンでなければ」(Mac、Windowsを問わず)という理由が徐々に小さくなっていっているのは事実です。その点、ローエンドのMacBookでやってきた作業というのは、iPadに置き換えやすいものが中心ではないでしょうか?

理由3:性能面でついに逆転した


最大の理由ともいえるのがここです。MacBookはCore Mを搭載しており、Core iシリーズを搭載する他のモデルと比べると、やや性能が見劣りします。一方でアップルは、iPad Proの「A9X」は、A8Xと比べて80〜90%高速で、昨年登場したノートPCの80%より高速だとしています。

実際、A8Xを搭載したiPad Air 2とMacBookをベンチマークアプリ「GeekBench 3」で比較すると、コア1つあたりの性能では30%ほど勝っているものの、システム全体で比較すると同程度の性能です。これがA9Xでは1.8倍されるとなると、コア1つあたりの性能は3200前後、システム全体で9600前後となります。実はこれ、MacBook Pro Retina 13インチモデル用のCore I7と比べても、コア1つあたりで数%見劣りする程度、システム全体ではむしろ逆転しているのです。

(表)GeekBench 3のテスト結果

タブレット端末がすでにプロ向けとされるノートPCよりも性能面で上回ったというのは、ユーザーにとっても開発者にとっても、「モバイルは所詮低性能だから」という言い訳を封じる最大の武器でしょう。アップルの働きかけ方次第ですが、クリエイティブ系のプロ向けアプリも今後、どんどんiPad Pro向けに開発されていくのではないでしょうか。

MacBookが高すぎるのが悪いという話もありますが、iPad Proほどの性能と画面サイズ、実用的なキーボードがあり、豊富なiOSのアプリという資産があれば、MacBookに固執する必要がなくなりつつあるという実情がおわかりいただけたでしょうか。これまでだったらMacBookを勧められていたところが、iPad Proに置き換わっていくというのは、特に企業を中心に確実に発生すると思います。

CPU性能の件に関して言えば、いずれMacもAシリーズを搭載するようになっても不思議ではありません。MacBookが性能的に劣るCore Mを搭載したのも、省電力という切り口以上に、性能低下がどこまで許容されるかを見極めている気がするのです。異なるCPU向けのバイナリをコンパイルし、1つのパッケージに収めるというのは、OS Xではすでに経験済みですし、さほど大きな混乱もなく達成されると思いますが、いかがでしょう。