世界のさまざまな場所で撮影された美麗な写真で「地球の今を、リアルに伝える」ことを目的にした雑誌ナショナルジオグラフィック」は、1888年の創刊から130年以上にわたって地球のさまざまな自然の姿や社会の動きを伝えてきました。その功績が高く評価されている同誌ですが、あるアーティストが自分の作品を無断で誌面に掲載されたことを抗議。さらに、ナショナルジオグラフィック側の対応が火に油を注ぐ結果を招いています。

blyon.com | What happens when National Geographic steals your art?

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ナショナルジオグラフィックに対して抗議したのはアーティストのバレット・リヨンさん。



ある日、ナショナルジオグラフィックが出版した書籍「100 Scientific Discoveries That Changed the World(世界を変えた100の科学的発見)」を見たリヨンさんは、表紙に使われている画像が自分の作品であることに気付きました。これがその表紙、さまざまな色の線が花火のように丸く広がる図の上に題字が配置されています。



そしてリヨンさんのサイトに掲載されているのが以下の作品。「THE INTERNET 2003」と名付けられた作品は2003年11月に作成されたもので、当時のインターネットの環境を表現したマップとなっています。



「インターネット」はまさに「世界を変えた発見」という書籍のコンセプトに合致したもの。リヨンさんは、この作品のライセンスをクリエイティブ・コモンズの「表示‐非営利」に設定していたため、ナショナルジオグラフィックが出版物に用いたのは商用利用にあたるとして使用料を請求しました。額としては取るに足らない金額だったそうです。

リヨンさんからの訴えに対してナショナルジオグラフィックは無断利用を認めて謝罪し、示談で済ませたい旨を連絡。弁護士から届いた書面には「ナショナルジオグラフィックには故意に作品を盗用する意思はなかったので、使用料は意図的な侵害行為の場合に一般的に合意する範囲の15万ドル(1600万円)ではなく、200ドル(約2万円)に減額される」ということ、「全ての画像に対するリヨンさんの被害額を1380ドル(約15万円)と見積もった上で、その2倍の2760ドル(約30万円)を弁済する意思がある」ということ、正しいクレジット表記を行うという提案が記されていました。

ナショナルジオグラフィック側は最後に、「貴殿が訴訟を起こすにあたっての障害と費用を勘案すると、交渉によってこの一件を収めることが最も費用対効果が高いものと考えます」とする提案を持ちかけ、一定の額を補償する姿勢を見せています。



これに対しリヨンさんは、金額の減額については合意できるものの、その条件として「改訂版を出版すること」と「Twitterのアカウントを通して謝罪を表明すること」を提示しました。

ナショナルジオグラフィックは、改訂版の発行を「改訂は、増刷や新刊が発行される際にのみ行われる」として拒否しましたが、「社内の記録を更新し、写真に対する問い合わせがあった場合や、新たな版を出版する機会があれば正しい情報を明記する」と返答。Twitterでの謝罪についても「同誌を出版するナショナル ジオグラフィック協会は訂正を目的とするTwitterアカウントを運用していない」として断りましたが、「使用料の支払い手続きを進めるために和解契約文書を作成する意思がある」ことを表明しました。



By thinkpanama

この回答に、リヨンさんは激怒。「これはまるで誰かの自動車を勝手に持ち出して数日間乗り回した後に返却し、『レンタル料はきちんと支払いますよ』と言っているようなものであり、到底受け入れられない」と拒否する姿勢を見せています。さらに「ナショナルジオグラフィックが皆の敬意を集めるのは、その素晴らしい意思と、世界の果てまで赴いて危険な地域で写真を収めてくる人々の存在です。過ちを認識しながら守りの姿勢を見せる行為は、そのブランドを傷つけ、信用や誠実さと失わせるものになります」と手厳しく反論。

さらには「現代のようなコピー天国の時代において、ナショナルジオグラフィックのような存在はクリエイティブ・コモンズのようなライセンス形態の存在に対して注意を払うべきである」とも。そして「私だけでなく、同様の被害にあった全ての人のために、訴訟を起こすことを考えている」とし、「ナショナルジオグラフィックよ、恥を知れ」と極めて厳しい調子で締めくくっています。