キャンセル物件を賢く購入するポイント

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好立地でしっかりした不動産会社が販売するマンションでも、低層階で北向きなどと条件が悪い物件は苦戦して「完売御礼」とはいかないことがある。「キャンセル住戸が発生しました」といった刷り物が郵便受けに投げ込まれた経験をお持ちの方もいるだろう。それは売れ残りの物件があることを伝えるサインなのだ。

そもそも、新築マンションは完成時には全戸を売り切ることを前提に予算を組む。だから売れ残りは許されないし、かといって「売れ残りが発生したので買ってください」とは決してアナウンスできない。そこで「キャンセル」という便利な言葉を使い、残りものには福があるかのように購入を促すのだ。多くはショールームが撤去された後、棟内モデルルームで「現物が見られます」という案内が出されるころに登場する。

「どうしてキャンセルになったか」と問えば、おそらく「ローンが通らなかったから」と答えるだろう。だが、マンションの販売は完成前の早い段階で商談されるので、審査に通らなければ物件の完成前にはわかる。つまり、完成後のキャンセルは売れ残りとイコールと考えていい。

それでは売れ残りだったら、安くなる可能性はないのか。一部のブランドマンションを除けば、十分にチャンスはある。だが、すでに購入した他の客に値引きしたことが知れたら大問題になるし、そもそも二重価格表示は法的に禁じられている。では一体どうしたらいいのだろう。

一番大切なのは決して物件をけなさないこと。事実上売れ残り物件だから、日当たり、間取りなどが他の物件に比べて劣ることが多い。そこで物件をけなして値引きを交渉したくなる。買い手に悪意はなくても、売り手からすれば気分はよくないし、入居以降の後々を考えたときに面倒な客という印象を持つ。その結果、「そんな客にわざわざ買ってもらわなくて結構だ」ということになる。

魚心あれば水心。買い手がどうしてもほしいという意思を見せれば、売り手も応えてくれることに期待したい。まずは現場窓口の営業社員と懇意になることから始める。そして条件面に話が進んだ段階で、営業責任者と直接交渉する。もちろん、より大きな値引きを可能にするからだ。

「先々のことがあるので、責任者の方にご挨拶させてください」とさりげなく頼めば、現場の営業社員も気分よく紹介してくれるはずだ。

■交渉のタイミングは月末の日曜の夕方

最終的に値引きしてもらうには、売り手の社内で稟議を通してもらう必要がある。会社に頭を下げてやっとの思いで稟議を通したのに、やっぱり買ってもらえませんでしたではシャレにもならない。条件が折り合えば確実に買ってくれる客であることを営業責任者に認識してもらうことが、値引きの交渉の鉄則だ。

その際には、これだけの頭金が用意できているが住宅ローンが組める金額はいくらが限界とか、三五年ローンとして毎月の返済額をあと一万円減らしたいからなど、懐具合を具体的に説明する。要するに、稟議を通しやすいように「住宅ローンの支払いがぎりぎり」といった理由をあらかじめ考えておくわけだ。

狙い目の時期として、ずばりベストは年度末だ。年度予算をクリアできるかできないかの境目であれば、妥協点を買い手の希望に近づけやすい。次に月末の日曜日夕刻、そしてそれ以外の日曜日の夕刻という順になる。不動産の商談は週末に集中する。土曜日は売り手の気持ちに余裕がある。だが、日曜日の夕闇迫るころはなんとかせねばという心理が働く。そこをピンポイントで突くのだ。

もし、キャンセル物件で値引き交渉に成功しても、入居後に隣近所にそのことを口外してはならない。妬まれたり、厄介な問題を抱え込む原因になるからだ。また、売り手から守秘についての念書を求められたらきちんと応じよう。

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エージェントサービス社長 石井成光
1963年生まれ。多くの中小企業で不動産営業畑を歩む。現在日本版バイヤーズエージェントとして買い主サイドに徹した不動産サービスを展開。

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(エージェントサービス社長 石井成光 構成=三星雅人)