中国から“殺人虫”がやってくる!
黄砂の飛散時期がようやく終わりに近づいてきたが、気温の上昇とともに、別の「迷惑なヤツ」が中国からやってくる可能性が高まっている。それが、人間の生命に脅威を与えることもある“虫”たちだ。
中国の医療・伝染病事情に詳しいジャーナリストの程健軍(チェン・ジェンジュン)氏はこう警告する。
「日本と中国の間を、多くの人や物が航空機や船で往来している。当然、そこに虫が紛れてくるケースは多々あります。また、最近の研究では、黄砂が細菌や微生物も運ぶ危険性も指摘されています。14世紀にペストがシルクロードを通って中国からヨーロッパへ伝播(でんぱ)したように、貿易や交流はいいものも悪いものも運んでしまう。グローバル化が進む現代社会ではなおさらです」
例えば昨年、おそらく韓国経由で長崎県・対馬に侵入・定着していることが判明した中国原産の「ツマアカスズメバチ」。コイツは日本の在来種に比べてはるかに攻撃的で、繁殖力もケタ違い。すでに韓国やヨーロッパでは猛威を振るっており、刺された人の死亡例が多発しているのはもちろんのこと、在来昆虫を根こそぎ食い尽くす恐れもあるという。
そして、吸血行為を通じて死に至る病気を媒介する「マダニ」。マダニが媒介するのは、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスで、これに感染し、発病すると、発熱、嘔吐、下痢、頭痛、筋肉痛など風邪に似た症状から始まり、次第に皮下出血や下血が止まらなくなるという恐怖の殺人ウイルスで、現在のところ有効なワクチンや薬剤は存在しない。
マダニは古くから日本にも生息しているが、SFTSという病気が確認されたのはごく最近のこと。厚労省によると、これまで西日本を中心に13県で計55人の患者が確認され、うち21人が死亡したという(今年4月2日現在)。
近年、日本にこうした虫たちが侵入しやすくなった理由のひとつには「温暖化」がある。地球の気温上昇は虫たちの生息圏にも大きく影響していて、従来は熱帯地域で暮らしていた虫たちが、日本を含む温帯地域に勢力を広げつつあるのだという。
「現在、日本への流入が最も危険視されているのは“ファイヤーアント”(火蟻=ヒアリ)。なかでも最も凶暴なのが、南米原産の体長6mmほどの『アカヒアリ』で、在来種を駆逐して北米、さらに世界各地へどんどん勢力を拡大。04年頃から台湾や香港、そして中国本土でも生息が確認されました。
ヤツらは集団戦法でトンボやクモなどの大型昆虫、あるいは小型の鳥までもエサにし、生態系を破壊します。何より恐ろしいのは極めて強い毒性で、刺されると激痛とともに、名前のとおりヤケドのような痕が残る。しかも、その毒はスズメバチの毒と同じ劇症型アレルギー反応(アナフィラキシーショック)を起こし、アメリカでは毎年100人以上が命を落としています」(程氏)
ほかにも、海南島ではマラリアを媒介する蚊「ハマダラカ」が大発生中。雲南省では体長30cm近くにもなる大型ムカデの「ラオスジャイアント」が増殖中だ。また、湖北省では“ヤケド虫”と呼ばれる「アオバアリガタハネカクシ」が、近年たびたび大発生している。
グローバル化と温暖化が進む現代では、こうした“殺人虫”の完全排除は不可能。日本は中国からの“小さな刺客”におびえ続けるしかない。
(取材/近兼拓史)