09_tatsuya_1FW第3回「再会」


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 4月20日の横浜F・マリノス戦で、念願のホーム初勝利をあげることができました。
 僕は途中交代してしまったので、試合終了の笛をベンチで聞くことになったけれど、本当にうれしい瞬間でした。好調のF・マリノスを相手にしても、アルビレックスは試合開始から自分たちを信じ、自信をもって試合に挑み、苦しい時間も耐えながら、手にした勝ち点3。試合終了後にスタンドを埋めたサポーターの人たちの笑顔を見て、大きな喜びが湧いてきました。

 僕と交代でピッチに立った岡本(英也)が、決勝ゴールを決めたことは、同じフォワードとして悔しさも当然あります。でも、前線からの守備やクサビを受けるプレーなど、先発出場した選手としてやるべき仕事を果たせたという思いもあるんです。そして途中出場した選手もその役目を果たした。チーム一丸となって勝利したからこそ味わえる安堵感がありました。

 5月3日の清水エスパルス戦での勝利に続き、連勝を目指して挑んだ6日のヴァンフォーレ甲府戦は引き分けで終わってしまいました。試合内容は良くても結果が出ないと、やっぱりフォワードの僕がゴールを決めなくちゃいけないという責任感は大きくなります。その思いがプレッシャーになって空回りしてしまうこともあるので、「チームの一員として果たすべき仕事はゴールを決めることだけじゃない。やれることに全力を尽くす」という風に考えています。

 甲府戦では、久しぶりに対戦した選手がいました。ディフェンダーの土屋征夫選手です。「お久しぶりです」って、少し話もしました。いっしょにピッチに立つのは2008年の夏以来。なんだかとても感慨深い思いがありました。

 ご存じの方もいるかもしれませんが、2005年、当時柏レイソルでプレーされていた土屋さんとの接触プレーで僕は負傷しました。そのことで土屋さんを非難する声もありましたが、僕は当時も現在に至るまで、まったくそんな風に考えることはありませんでした。お互いがプロとして激しく厳しい気持ちでプレーした結果で、悪意なんてまったくないし、こういうアクシデントというか怪我はプロとしてはつきものだから。

 あれから8年が経ち、お互いがまたJリーグの舞台で対戦できるなんて、素晴らしいことだなって思うんです。あの年齢(38歳)になっても現役でプレーしている土屋さんのことを僕は本当に尊敬しています。「僕も土屋さんに負けないように頑張らなくちゃ」と、思いを新たにした再会でした。

 あのときに負った右足関節脱臼骨折は、復帰までに約8か月かかりました。僕自身プロになって初めての大きな負傷だったので、たくさんのことに気づくきっかけにもなりました。
 
 まず第一に、「自分はひとりでプレーしているんじゃない」という思い。リハビリ中もたくさんの人が応援してくれて、そして僕を支えてくれました。ちょうど先発に定着し、そういうことを忘れかけていた時期だったから、大切なことを思いださせてもらえた時間でした。

 そして、身体を鍛えるという時間にもなりました。シーズン中は強い負荷のかかる筋肉強化のトレーニングができないから、リハビリ期間を使って強化できたと思います。もともと練習が好きなので、ボールを使わないトレーニングというのも新鮮でしたね。それまで20年近くボールを使った練習しかしてなかったので。

 試合に出ていれば、プレッシャーやストレスがあります。そういうものから解放されたことが逆にストレスになるんだなぁというのも発見でしたね。毎日のんびりやっていることが、イライラするというか……。最初から全治までには半年くらいはかかると言われていたので、気持ちはすぐに切り替えらえたけれど、やはりどこかで焦るような気持ちも生まれるものです。それでも、無理に追い込んだからといって、早く復帰できるわけでもない。今自分にできることに向き合うしかないんだと言い聞かせて、リハビリに取り組んでいました。福田正博さんとか、同じような負傷をした先輩からのアドバイスもプラスになりました。

 そして、やっと試合に復帰してもジレンマはあります。負傷前と同じプレーができないとか、痛みが消えないとか、傷をかばってほかの箇所に負担がかかり、新たな負傷が生じるとか……。これは僕に限らず、大きな怪我をした選手ならみんな経験していると思います。

 怪我をした箇所を強化し、ほかの箇所を傷めないためにも身体に対しての意識は自然と高くなりました。練習や試合後のマッサージやトリートメントの時間の重要性を知るわけです。年齢を重ねるごとにその時間はどんどん長くなります。今では練習時間と同じくらいの時間を身体のケアに費やしているけれど、それもまた僕らの仕事なんです。

 2005年に生まれた長女は今年小学2年生になりました。
 土屋さんとピッチの上で再会できたこともそうですし、こうやって元気にサッカーをやらせてもらえていることの幸せを感じています。戦力外になった僕にチャンスを与えてもらえたことへの感謝は尽きない。毎回毎回、同じような言葉になってしまうけれど、やっぱり今の心境を言葉にすると感謝という言葉になってしまいます。
 
 だから早くゴールを決めて恩返しがしたいという思いもありますが、それで焦りが生まれて、周りが見えなくなったり、自分のことばかり考えてしまっては、チームに悪影響を与えてしまうかもしれないから。ゴール以外のことでも、チームに貢献することはあるはずと考えています。

 自分のプレーが、チームにとってプラスになればいい。それがたとえ小さなことでもかまわない。たとえば、「明日はメンバー外だから」と言われても、チームのためなら「はい!」って素直に受け入れられる。それは以前とはまた違うプロ意識なのかもしれません。日々、プロとしてプレーできる喜びを感じられるからこそ、サッカーができることを心底楽しみたいという気持ちが強いんです。だからこそ、いろんなことをポジティブにとらえていきたいと考えています。

アルビレックス新潟 田中達也

【構成/寺野典子】