ニュースの教室:6限目「孤立死」―助け、助けられる力を―

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ニュースの現場から、ビジネスに活きるヒントを見つけ出す連載コラム「ニュースの教室」。
6限目となる今回は「孤立死」。
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立川のマンションで孤立死した家族が見つかった。(産経2月23日朝刊)
母親が病気で急死し、知的障害を持つ4歳の男児が衰弱死していた。
ケースワーカーは1月中に2度マンションを訪れていたが、
プライバシーの壁に阻まれて異変に気づくことができなかった。
このニュースが教えてくることは何だろうか。

記事は立川の母子の状況を次のように伝えている。
1.マンションはオートロック、窓はシャッターで閉ざされ、
  外から部屋の様子はうかがえなかった。
2.ケースワーカーが訪問したとき郵便物はあふれていたが、
  気になった2回目の訪問では郵便物がなくなっていた。
  そのため長期の不在と判断してしまった。(市障害福祉課談)。
3.生活保護は受けず、保育園や幼稚園にも通わせていなかった。
4.母子と行政とのつながりは、
  障害児世帯向けの紙おむつの支給サービスだけだった。

この記事には資料として最近の孤立死5例が付されていた。
H21.2 大津市の団地に女性(84)と長男(59)の遺体。
生活保護を需給せず年金暮らし。長男は病死、女性は衰弱か。
H22.9 松山市の民家に80代の姉妹の一部ミイラ化した遺体。
姉が先に死亡か。
H23.1 大阪府豊中市のマンションに60代の姉妹の遺体。
姉死亡後に妹衰弱死か。
H24.1 札幌市のマンションに40代の姉妹の遺体。
姉急死後、知的障害のある妹衰弱死か。
H24.2 さいたま市のアパートで60代の夫婦と30代の息子の遺体。
食料なく餓死か。

産経新聞の取材や解説によると孤立死の背景や理由は様々だ。
たとえば知的障害者を持つ親の中には、
・障害児というレッテルを貼られることへの抵抗感がある、
・子供への自責の念で子供が障害児だと周囲に伝えられない、
ことで周囲からの助けを受け容れられなくなるケースが多いという。

それは知的障害者のケースだけではない。
母子家庭、老老介護、貧窮家庭などでは、
行政サポートがあっても気後れでサービスを忌避し、
他人の手は借りたくないと肩肘を張る人も少なくないという。

広げて考えれば、この類似は普通に働く私たちの中にもある。
仕事の行き詰まり、病気、家庭や人間関係の悩み、様々な不安。
大きな負担や弱みを抱え込んで他人の力を借りられないとき、
私たちは精神を孤立死させることがあるのではないだろうか。

自分を孤立死から守るには自分自身のための処方が必要だ。
1.困ったときに相談するクセをつける。
2.自分の弱みを見せることができるようにする。
3.助けられることを喜べるようにする。

弱く低い立場をさらけ出して他人の助けを受け容れるには、
自分のプライドを高く保つことこそが大事だと思う。
さらけ出し助けられることで壊れる自分ではないと信じるのだ。

一方、助けることは気持ちが良いことだから、
助けられたら思い切り喜ぶことが最大のお返しだと考えたい。

どうしても形あるお返しをしないと気が済まないのなら、
時間をかけて自分ができることでお返しをすればよい。
しかしもっと良いのは、助けてくれた相手にではなく、
新たに困っている人に手をさしのべることで、
助け、助けられる自分になることだろう。

文●楢木望
ビジネスエッセイスト/ライフマネジメント研究所所長
『月刊就職ジャーナル』編集長、『月刊海外旅行情報』編集長を歴任。その後、ライフマネジメント研究所を設立、所長に就任。採用・教育コンサルタント、就職コンサルタント、経営コンサルタント。著書に『内定したら読む本』など。