サッカーファンなら誰しもが知っている、「エスコバルの悲劇」。コロンビア代表主将のDF、アンドレス・エスコバルが94年アメリカW杯の米国戦で、オウンゴールを献上し、帰国後射殺された事件。


映画のタイトルにいう「二人のエスコバル」。このエスコバルとあともう一人のエスコバルは誰だ?と鑑賞前からはてなマークを頭に浮かべながら、ヨコハマ・フットボール映画祭の会場の座席についた。


上映が始まってほどなくして、もう一人のエスコバルがわかった。コロンビアの麻薬王、麻薬組織「メデジン・カルテル」の創設者、パブロ・エスコバルだ。描かれている当時のコロンビア情勢の麻薬との絡みがおどろおどろしい。活字では何となく知っていたおぼろげな知識がこうもリアルに映像で再現されるとビシビシ胸に突き刺さる。実話だけに強烈だ。


1989年のリベルタ・ドーレス杯を制したナシオナル・メデリンは、オーナーがこの麻薬王だったという衝撃。しかも、このチーム、同年のトヨタ・カップで来日しているんだよね。ACミランには惜しくも敗れたものの、GKイギータのド派手なプレーのウラにはこんな事実があったとは。国内リーグでは、審判が買収されたり、暗殺されたり・・・。賭博も絡んでいる。


自家用ヘリで招かれ、麻薬王の自宅コートでサッカーをやらされたり、脅迫で選手起用すら揺さぶられた圧力もあったり、麻薬組織に翻弄されながらも、サッカーを貫いた当時のコロンビア代表に頭が下がる。1993年のアメリカW杯南米予選最終戦では、アウェーでアルゼンチンに5対0という大差で勝利し、ペレからも本大会の活躍を期待されたきらびやかなチームだった。


国内の代表への大きな期待と麻薬の闇、思うにグループリーグ敗退の原因は決してあのオウンゴールではない。たとえ、アンドレス・エスコバルがオウンゴールをしなくても、敗退の責で他の誰かが殺されていたかもしれない。当時のコロンビア情勢がそうさせた必然の結末であり、悲劇だったとも思える。あらためて、サッカーの奥深さとおそろしさを実感した夜だった。





おわり