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 長いリハビリを経て、試合復帰を果たした本田圭佑(CSKAモスクワ)。負傷中でありながら、1月にはラツィオ移籍が取り沙汰され、実際に決定寸前まで行った。「エア移籍」というありがたくないタームを使われる一方、すぐにプレーできる状態にないにもかかわらず16億円もの値札がついた。日本のメディア主導ではなく、欧州のクラブがその並外れた能力を認めている何よりの証左といえるだろう。その本田を、【サッカー「観戦力」が高まる】を上梓したサッカーライター・清水英斗さんはどう分析しているのか?


■本田圭佑がスペインへ行くべき理由
――ようやく復帰した本田圭佑ですが、彼が本当に凄い部分というのはどのあたりなのでしょうか?

清水 やはり、頭の中身に尽きますね。長友佑都や長谷部誠もそうですけど、やっぱり日本代表にまで上り詰める選手は人間力がすごいですよ。ない人は、トップにはいけない。
 
――技術はあって当たり前で、メンタリティで差がつくと。
 
清水 ドイツのスカウトも言っていましたが、選手を見るときに最重要視するのはどこかと聞いたら「メンタリティだ」と即答していました。
 
――メンタルにもいろいろあると思いますが、サッカー選手において必要なメンタルというのはどういったものでしょう?
 
清水 すごく難しいと思うんですが、僕が一つ挙げるなら「チームと個人を両立させていること」でしょうか。チームとして物事を考えられる一方で、集団の責任に逃げ込まない。自分のポジションに対する責任を強く感じていて、うやむやにしない。
 
 チーム競技なので、どうしてもごまかせる部分はありますよね。自分がミスをしても、誰かがカバーしてくれたから「これで結果オーライ」とできる。しかし、そこで結果オーライに済ませてしまう人は大した選手にはなれない。個人としての強さがある一方で、チームへの協調性もある。バロテッリやテベスみたいだとチームとして厳しいけど(笑)、個へのこだわりと協調性が両方あって初めて日本代表になれるというか。
 
――なるほど。
 
清水 本田だって個の部分を強調されていますが、別にチームの中で協調性がないわけでは全くないですからね。
 
――あのビッグマウスって、ある意味でメディアへのリップサービスですよね。
 
清水 実は、彼も岡田監督に近い部分があるんじゃないかなと。ああいう風にいうことで、自分の環境を整えている。自分の弱さを知った上で、やっている気がします。自分に厳しくて、甘えを見せるのがイヤなタイプ。そういうところが人間臭いと思いますね。長友なんてナチュラルにしていながら、自分に対して厳しさを持っている。どちらかというと、長友のほうが天才的なタイプだと思います。
 
――長友のほうが天才的。
 
清水 本田のほうがある意味人工的に自分の強さを作り出しているけど、長友は天然で強い。そういう印象ですかね。
 
――ラツィオ移籍は直前で破談してしまいましたが、本田が移籍するとしたら、どういうチームが面白いでしょうか?
 
清水 やっぱりビッグクラブが面白いと思いますね。香川と同じで。ラツィオも面白かったと思いますが。
 
――ビッグクラブといえば、マンチェスターUやリバプールといったクラブの名前も報じられていますね。
 
清水 プレミアリーグよりは、スペインのほうがハマると思いますね。あまりスピードがないので。だいぶ磨いてはいるようですが、スピードがないというのは弱点です。プレミアリーグだと縦に早いサッカーをするチームが多いですから、ウインガーが重要視されている気がします。ドリブルができる選手が重宝されて、またトップ下がないチームだと本田がどこにフィットするのかわからない。
 
 チェルシーのフアン・マタが活躍していますが、彼はサイドでも突破できるし、中に入ってもうまくさばけ、シュートも打てる。そこまでのオールマイティ性は、本田にはない。スピードがないから、サイドに出されると持ち味が消えてしまうというか。ボランチやセンターハーフができればもっと幅が広がりそうなんですが、本人はそこでのプレーを嫌がっていますしね…(苦笑)。
 
――一時期CSKAモスクワでやらされていましたよね。
 
清水 それも自分の長所にすべきだったかな、と僕は思うんですが、本人の考え方があってのことでしょうから。ただ、今のままだと使われるポジションが狭いなと思いますね。
 
 そう考えると、やっぱりスペインのチームかなと。イタリアだと守ってカウンター、ということを強いチームでもやるじゃないですか。それだと、前線にはスピードがある選手のほうがほしいから、本田はやっぱりボランチ、となってしまう。まあスペインでも、カウンター主体のチームはありますから一概には言えないんですけど。

<つづく(明日更新予定)>


清水英斗(しみず・ひでと)
1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。
プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。ドイツやオランダ、スペインなどでの取材活動豊富。ライターのほか、ラジオパーソナリティー、サッカー指導、イベントプロデュース・運営も手がける。過去には東京都リーグ2部でプレー。現在も週に1回は必ずボールを蹴っており、海外取材の際には、現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。twitterIDは@kaizokuhide