富士山に設置された「傾斜計」が、不気味なデータを示している。傾斜計とは、独立法人防災科学研究所が火山の動きを観測する目的で設置しているもの。山頂を取り巻く7ヶ所のポイントの地下200メートルに観測機が設置されており、日々、山の“歪(ひず)み”を計測している。

 このうちのひとつ、富士山北西斜面の標高約2090m地点、富士スバルライン5合目終点の手前約2kmの山側の林にある富士第5観測所(FJ5)の傾斜計が、3月11日の震災以降乱れ始め、6月末にはいったん収まったものの、再び8月後半から大きく揺れ始めているのだ。具体的にいうと、この地点だけ「北方向に隆起」しだした。

 先日、『富士山大噴火!』(宝島社)を出版した琉球大学名誉教授の木村政昭博士は、東日本大震災との関連性についてこう語る。

「3・11地震と同じ海底震源域で起きた『貞観(じょうがん)大地震(869年、震源は宮城県沖から福島県沖、推定M8.3以上)』では、その 3〜5年前にかけて富士山が火を噴いています。その点から考えても、富士山で噴火が再発する危険性は確実に高まっているといえるでしょう。やはり、3・ 11地震の直後に富士山直下型地震が連動発生した事実は重いのです。ひと言でいえば、3月11日から現在にかけて本州の広域で起きてきた地震のほとんどは、富士山体下の強大なマグマ流動と関わりがあります。おそらく平成富士山大噴火も、3・11地震と拮抗(きっこう)するような、かつてない巨大規模のエネルギー解放になるでしょう」

 このFJ5地点は、実は非常に注意が必要なポイントだ。864年の貞観富士山大噴火では、山頂から北西に6km離れた長尾山から大量のマグマが流出し、現在の青木ケ原樹海を作ったのだが、FJ5地点とは、富士山山頂とその長尾山を結んだライン上に直線的に並んでいるのだ。

 このことは何を意味するのか。琉球大学理学部物質地球科学科地学系の古川雅英教授が言う。

「FJ5は、富士山直下の火山性地震が頻発している領域の真上にあたります。また、山頂の南東側には、1707年に大噴火した宝永噴火口などの多くの寄生火山が密集しています。富士山では南東〜北西ライン沿いにマグマ活動が続いてきたのです。明らかに、このFJ5の変動も富士火山活動の影響のひとつです。注意深く見守る必要があるでしょう」

 M9.0の東日本大震災が、富士山でもっとも火山活動の危険が高い地点を刺激してしまったことは間違いない。

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