■開幕から5試合で1勝4敗。もがき苦しむ横浜FC

横浜FCがもがき苦しんでいる。開幕から5試合で1勝4敗。現在、岐阜と同勝ち点で最下位に沈んでいる。今週末第12節での岐阜との“裏天王山”で敗れるようだと、まさかの単独最下位に陥るという非常事態にある。「J1昇格」ではなく、「J2優勝」を掲げるほど、自信を持って今季を迎えたはずの横浜FCに一体何が起きているのか。

約1カ月前、中断期間に本サイトで「抜け切らないぬるま湯体質。岸野監督らしさを取り戻せるか」というコラムを書かせてもらったが、まだ当時の状況から脱せておらず、特に鳥栖時代から一緒に戦ってきた選手たちは、指揮官の変化を強く感じているようだ。

とある日の練習後、飯尾和也は肩で息をしながら、練習からあがってきた。「練習が終わってから、自分で追い込んできた」のだという。話を聞くと、「鳥栖時代より明らかに練習量が少なくなっているし、厳しさもなくなっている。自分は鳥栖での練習に慣れているから、すごく足りなく感じるんです。だから、こうやって自分で追い込まないと試合で息切れしてしまうんですよ」。飯尾は険しい表情で語った。昨季横浜FCの監督に就任する際、「日本一厳しいトレーニングをする」と豪語していた岸野監督だったが、今季はむしろ練習時間は短く、負荷も軽くなっている。飯尾の練習後の状態を見れば、それは一目瞭然であった。

■岸野サッカーのトレードマーク「厳しさ」や「激しさ」はどこに?

「鳥栖時代、試合をしていて、相手の方が先にバテるという自信が強さとなっていたけど、今は逆。自分たちの方が先にバテてしまうのではないかという不安が常にある」と飯尾は本音を漏らす。それは飯尾だけではなく、他の何人かからも同じような意見を聞くことができた。ただ、チームの中には飯尾のように自分で追い込める選手ばかりではない。今年の練習を「日本一厳しいトレーニング」と思っている選手も多く、通常のメニューをこなしただけで「かなりきつい」という声も聞こえてくる。

また、球際や走り勝つことを岸野監督は口うるさく求めていたが、今季はそういった指摘もかなり減ったという。「今年の選手は本当に技術の高い選手が多いんです。でも、チーム全体に何かが足りない。激しさだったり、ハードワークだったり。悪い意味で楽して勝とうと思っている雰囲気がある」(八角剛史)。岸野サッカーのトレードマークであった「厳しさ」や「激しさ」はやや薄れかかってきている。それが全体の甘さとなって、淡白な失点が増える原因となっている。

しかし、それは致し方ない変化なのかもしれない。今季の横浜FCは昨季途中にGMを兼任するようになった岸野監督主導でチーム編成を実施。「今まで指揮を執ってきた中で最強のチーム」と胸を張る陣容をそろえることに成功した。「J2優勝」という目標を掲げたのも自信の表れであり、実績のない選手たちを叩きあげて強くした鳥栖時代とはスタート地点もゴールも大きく異なるのだ。それゆえ、目指すサッカーのレベルも高くなるのも当然なのである。今までの岸野サッカーのベースであった「ハードワーク」や「激しいプレス」に加え、相手の守備を崩すための「ポゼッション」が今まで以上に重要視されるようになった。

■想定外の出来事がチーム編成を狂わせる

だが、「想定外の出来事がたくさん起きてしまった」と岸野監督は表情を曇らせる。まずはファビーニョが期待外れだったこと。FC東京に移籍したホベルトの穴を埋める存在として期待されたものの、いまだにコンディションが上がらず、チームにフィットできずにいる。05年にC大阪で「最強の外国人」と称された実力はベールをかぶったままなのである。