意識不明から戻って、最初に考えたのは、サッカーのことだった。「プレーに戻って、ワールドカップに出場したい」。1月25日夜、頭部に銃弾を受けたパラグアイ代表FWサルバトーレ・カバニャスは、父親にそう願いを語った。その言葉は、彼の生命のために5日間に渡って祈り続けた大勢のパラグアイ人を感動させ、喜ばせている。

動き始め、継続的な回復を見せ始めているカバニャスの夢は、現実のものとなる可能性がある。ただし、彼は頭の中の銃弾と“付き合って”いかなければいけないかもしれない。取り出すにはあまりに難しく、また危険だからだ。手術を担当した脳外科医エルネスト・マルティネス氏は、「カバニャスがプレーに戻り、影響なくヘディングすることは可能になるかもしれない。脳はとても抵抗力があるし、弾丸が動く危険はないはずだからだ」と話している。

ただし、カバニャスがサッカーを再開できるかどうかは大きな謎のままだ。マルティネス医師は危険がないとしているが、彼の友人でもある同僚のグスタボ・ソモサ氏は、ボールや相手選手とのコンタクトには、常に危険が潜んでいると主張している。同氏は「彼は絶対にプレーに戻るべきではない。弾丸がわずかながらに動き、脳の欠陥だらけの部分に入って、致命的になりかねない出血を引き起こすこともあり得るからだ」と語った。

マルティネス医師によると、「カバニャスはまだ生命の危機を脱していない」とのことだが、「脳の血腫は徐々に小さくなっているし、手足を動かすこともできる。運動器官はそのままだ」と、明らかに継続的な回復が見られるという。十分に慎重にならなければいけないが、マルティネス医師は選手の完全回復に自信を抱いているようだ。「危険を脱したと言えるのは、病院を出られるようになってからだ。だが、回復の具合は素晴らしいものだよ」

カバニャス銃撃事件については、最近になって事件の詳細が明らかになった。バーの店員の証言により、ホセ・バルデラス・ガルサが逮捕されている。バーの店員はカバニャスが撃たれたときのことについて、「カバニャスは自分に対するメキシコ人ファンの侮辱に言い返したんだ。そして、ピストルで脅かされると、彼は『男だったら撃ってみろよ』と立ち向かったのさ。そしてヤツが撃ったんだよ」と話している。

パラグアイはW杯でイタリア、スロバキア、ニュージーランドと対戦する。事件の翌日、パラグアイのファンたちは1万5000人がスタジアムに集まり、犠牲者となったアイドルを支えようとした。そのファンたちは、カバニャスが大会で代表の攻撃陣をけん引することを願っている。彼は近いうちに、サッカーのグラウンドで命を懸けるようになるかもしれない。