アリーグ最低のブルペンに悩むヤンキースだが、傘下のマイナーリーグAクラスにはセーブ数首位の投手がいる。右腕は相手打線を打率.121に抑え、左腕は20イニングで無四球。驚くべきは、これがひとりの投手の腕だという点だ(6月13日付ニューヨーク・タイムズ)。

 もうすぐ24歳になるパット・ヴェンディットは、プロ野球界にただひとりの両手投げピッチャーだ。マイナーリーグでは優秀な成績を収めていて、もっとも有名な選手のひとりでもある。

 昨年、スイッチヒッターとの対戦があり、ヴェンディットが腕を変えるたびに、打者がボックスを変えるので、困り果てた審判が、投手がどちらの腕で投げるかを宣言しなければならないと、特別ルールをその場で考案した。

 ショップでは片面ずつに「右腕ヴェンディット」と「左腕ヴェンディット」と書かれていて、前後逆にしても着ることのできるTシャツを売っている。

 ファンは彼の数字を見て、大物選手との対戦を夢見るが、プロの目は厳しい。

 ヴェンディットのように、140キロの直球を投げる選手はマイナーには山ほどいるし、コントロールのよさで年下の選手を抑えてはいるが、上のレベルでもうまくいくとは限らない。スカウトによると、スピードがなくてもよいチェンジアップがあれば打者を抑えられることもあるので、リリーフピッチャーの評価は難しいという。

 ヴェンディットにはメリットもある。ピッチャー交代をしなくても、打者に有利なほうの腕で投げることができるし、両腕を使うので、一般のクローザーよりも頻繁に投げることができる点などだ。
 
 ヴェンディットは「力不足だということはわかっている。メジャーから求められる選手になれるように、努力するだけ」と語る。「今は仕事があるだけで幸せ。マイナーには先のことがわからない選手が大勢いる。やらせてもらえるあいだは、楽しみながら野球をやるだけだ」