国有林「採取権」現場から注文 持続性守って 業者選定は「慎重に」“切りっ放し”対策を

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 民間業者に国有林の伐採などを認める国有林野管理経営法改正案が国会で審議される中、一部の林業者らが過剰伐採の恐れなどを不安視している。改正案では、民間業者にも国有林の一部で10〜50年、木を切ることができる「樹木採取権」を与える。これに対して、「国民の共有財産である国有林の伐採が過剰に行われる恐れがある」「再造林が義務化されていない」といった懸念の声が続出し、慎重な民間業者の選定を求めるなど注文が出ている。

 同法改正案では、国有林の一部の樹木採取権を「意欲と能力のある林業経営者」に新たに認める。国有林の伐採後の再造林については、再造林を前提とした契約を結び、民間業者に「申し入れ」し仕組みを担保する。同法案は、林業の成長産業化を目指す政策の流れだ。

 高知県土佐清水市で林業50ヘクタールを営んでいる浜口和也さん(38)は、国が進める林業の成長産業化への理解を示しつつも、改正案について不安を訴える。「林業経営者の明確な定義が不明で、外資系の企業が参入した場合に木材収入がどこに流れるか分からない。短期間での伐採や皆伐が進む恐れがある」と浜口さん。伐採する民間業者の選定を慎重に行うことを求める。

 島根県津和野町に移住し、林業に携わる田口寿洋さん(40)は、地域の林業者らが国有林を利用できる可能性に期待を寄せる。一方、時間がたつにつれて法案の認識や解釈が変わり、再造林が適切に行われなくなる点が心配という。「民間業者が営利優先で過剰に伐採し、再造林もしなければ、土砂災害防止機能など森林の多面的機能への影響が出るのではないかと不安だ。国有林伐採で木材が供給過剰になれば、価格が低下し、小規模林家には厳しい」とも考える。

 林業政策に詳しい愛媛大学の泉英二名誉教授は「民間業者の選定次第では、独占的、排他的な森林の長期間の利用が懸念される」と指摘。樹木採取権が最長50年とする根拠も乏しく、性急な制度設計だとみる。泉名誉教授は、家族経営など小規模経営体が今後の森林管理や持続的な林業には欠かせないとし、国有林の伐採や管理に家族経営の林業者が参画する重要性を主張。「法案成立を急ぐのではなく、国有林は国民の共有財産であるという認識を広げていく契機にしたい」と呼び掛ける。

 現在、九州など各地で森林の皆伐や過剰伐採などが問題視されている。同法案がこれらを助長させることなどを懸念する声が高まり、200人の林業者や研究者、ジャーナリストらでつくる「同改正案を考える会」が声明を発表し、改正案の問題点を提起している。

悪質な場合取り消しも


 こうした現場からの不安について林野庁は「一部の伐採業者が森林管理を考えないで木を切っていた点は否めない」と明かす。同法案では、管理体制やチェックの強化などで対策していく方針だ。

 同庁は「民間業者を選定する過程も慎重にする。業者が再造林の契約を放棄した際、悪質である場合は樹木採取権を取り消すなどして、適切な造林を継続する」と説明する。

<ことば> 国有林野管理経営法改正案


 林業の成長産業化を目的に、全国の森林の3割を占める国有林(758万ヘクタール)の一部を10〜50年間、伐採、販売する「樹木採取権」を民間業者に与える。現行の国有林伐採は林野庁が最大5ヘクタールを1単位として毎年入札し外部委託する。再造林は別の入札で委託し、確実に実施してきた。改正案では従来の仕組みに加え、まとまった面積の国有林で民間業者に樹木採取権を認める仕組みだ。国は樹木採取権の設定料と樹木料を民間業者から徴収し国庫収入とする。