2月24日に行われた沖縄県民投票で実に7割の有権者が「NO」を突きつけた、米軍普天間飛行場の辺野古地区への移設。先だっては新基地予定地の海底に軟弱地盤が広がっていることも判明、予算も工期も予定を大幅に上回ることがほぼ確定的という状況の中でも、政府は頑なとも言える姿勢で工事を続けています。何が彼らを駆り立てているのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、「その裏にある事実」を追求しています。

辺野古利権”に群がる欲の亡者ども

美しい辺野古の海を埋め立てて米海兵隊の新基地を建設する計画。沖縄県民の投票で反対票が7割を超えたにもかかわらず、政府は3月25日から新たな土砂投入作業を始めた。

「なぜ県民の意思を無視するのか」と国会で問われ、安倍首相は「危険な状況にある普天間の全面返還を一日も早く実現をしなければいけない」と、お決まりの答弁を繰り返す。

その論理が破綻しているのは、誰の目にも明らかだ。辺野古に新基地ができた暁に、米海兵隊が普天間から移ってくるという。それは、一体いつのことなのか。

危険が迫っているどころか、普天間は以前から危険そのものだ。すぐにでも、仮の駐機場を設けるなどして、海兵隊のヘリコプターを移駐させるべきなのに、何ら手を打たない。

現在、埋め立て工事は辺野古南側の浅瀬から着手している。もとの計画では北側と東側に広がる大浦湾の予定地から始めることになっていた。それができないのは、大浦湾側の深い水底にマヨネーズ状と表現される軟弱地盤が見つかり、手がつけられないからだ。

軟弱地盤は深さ40〜70メートルのところまでで、工事は可能だと政府は言う。ところが、大浦湾東側に、水深30メートルの海底面から下方90メートルにわたって軟弱地盤の層があることが判明している。

「水面下70メートルは地盤改良工事を行う作業船の限界深度」という沖縄県の指摘が正しければ、深さ90メートルの地盤改良はできず、辺野古の現計画そのものが根本から見直しを迫られる。

計画が暗礁に乗り上げていると言っていいのではないか。それでも、工事を強引に進めようとする。軟弱地盤への対処法は未解決のままだ。核のゴミの後始末を度外視して推進された原発を思い起こさせる。

政府の試算では、マヨネーズ状の地盤を改良するためには、砂を管に入れて締め固める砂杭を7万6,000本以上も打ち込まねばならない。砂の量は東京ドーム5.25杯分も必要だという。改良工事にかかる期間と費用は想像を絶する。

防衛省の当初計画では埋め立てに5年、施設整備に3年、計8年の工期だった。これに地盤改良工事を加えると13年以上の年月がかかるというのが沖縄県の主張だ。いや、もっと長引くかもしれない。

事業が長期化するだけ、普天間基地周辺の住民は危険にさらされたままとなる。

総事業費について政府は、2009年に3,500億円という数字を出したが、すでにこれまでに約1,270億円が支出されており、地盤改良を含めいくらかかるのか、見通せなくなっている。おそらく「兆」のつく数字となるだろう。もちろんこのコストは日本国民が負担するのだ。

それでも、政府が頑なに工事を進めようとするのはなぜなのか。

もともと、防衛省は辺野古の陸地側に広がる米軍基地「キャンプ・シュワブ」の敷地内に飛行場を建設する「L字案」をまとめていた。これなら辺野古の海を埋め立てる必要もなく、工期もさほどかからない。

事情を米国政府に説明して元の計画に戻そうと思えば、エネルギーを要するが、全くできない話でもない。それをしようとしないのは、工期が長くなっても仕方がないと思える事情があるからだろう。

もともと米軍にとって普天間基地返還は、老朽化した基地から近代的な施設への移転を目的としたものだった。基地周辺住民の「危険除去」とはあくまで、米兵少女暴行事件を契機に高まった反基地感情を和らげるため日本政府が国民向けに強調してきたフレーズだ。

当時の事情をもっともよく知る元国土庁事務次官、下河辺淳氏が2003年、江上能義早大大学院教授にこう語っている。

「普天間は移転しなくっちゃ防衛上の役割は果たせないというのが海兵隊の結論です。軍事技術上の問題、近代化の必要から移転するわけですから」

辺野古という場所に目をつけたのは米国側だった。大田昌秀元沖縄県知事は2015年、国会で次のように証言した。

「米国立公文書館の解禁になった資料をチェックしたら、なんと1965年に沖縄を日本に返す話が始まったときに、(米軍は)アメリカのゼネコンを招いて、西表島から北部の今帰仁港まで(基地移転の候補地)を全部調査させて、その結果、大浦湾が一番いいということに決定し…計画を立てた。ところが、ベトナム戦争のさなかで、金を軍事費に使い過ぎてできなかった」

いったんボツになった米軍のプランを、普天間基地返還と引き換えに、日本の建設費負担と思いやり予算をつけて復活させたのが、辺野古新基地計画である。

そして、その大プロジェクトに群がった利権集団が、事業規模を拡大すべく政治家と防衛官僚、米軍関係者を動かしてきた。

“基地利権村”のメンバーは、辺野古の工事を受注している大成建設、五洋建設をはじめとする大手ゼネコンや、それらと共同企業体(JV)を組む地元の土木建設会社など。いずれも防衛省から天下りを多数受け入れている企業群だ。その資金や票をあてにしている地元政治家らも含めていいだろう。

2016年1月3日付の朝日新聞は、防衛省が直近の2年間に発注した辺野古移設事業の8割にあたる730億円分を、同省・自衛隊の天下り先企業や共同企業体が受注、辺野古受注業者10社が、工事入札前の2014年だけで、6,300万円を自民党に献金していた、と報じた。

沖縄防衛局は、かつての那覇防衛施設局である。基地などの軍事施設をかかえ国交省と並ぶ公共工事の大発注元である防衛施設庁の地方組織だ。工事を各企業に割り振っていく防衛施設庁の官僚は、天下り先にこと欠かない。

それゆえ企業との癒着、腐敗は進み、案の定、談合事件など不祥事が相次いで、防衛施設庁は2007年9月1日に廃止、防衛省に統合された。それにともなって、那覇防衛施設局が沖縄防衛局に改組された。

それでも、いまだに天下り、癒着の構造は変わらない。

辺野古基地の建設が反対運動で長引くほど、地域振興策の名の下にその周辺自治体に落ちる公共事業予算がふくれあがる。

元防衛事務次官、守屋武昌の著書『「普天間』交渉秘録』によると、2005年6月の時点では辺野古の海を埋め立てるのではなく、キャンプ・シュワブ陸上案が有力だった。

これを覆し、同年8月に埋め立て案を示したのは沖縄県北部の建設業者でつくる親睦団体「沖縄県防衛協会北部支部」(名護市)の意向を受けた米国防副次官、ローレス氏だった。

工事の大規模化を望む建設業者と、既存米軍敷地内ではなく、その外側に新基地が広がるのを歓迎する米側の利害が一致したのであろう。

沖縄防衛局は、ゼネコンや地元業者と、米国防省関係者、政治家をつなぐ“基地利権村”の事務局のような役割を果たしてきた。沖縄防衛局の職員が自民党政治家の選挙運動を手伝ってきたフシもある。

アメリカに正当な主張さえできない官僚が、巨大な組織と情報収集力を駆使して、米国の望むようにこの国を支配している。それが米国との間で摩擦を起こさず、自己保身につながるいちばんの方法だと彼らは心得ている。

その心理構造を作り上げているのが、日米地位協定と、日米合同委員会だ。

日米安保条約のもとで米軍の権利を定めた地位協定。それを後生大事に守り、沖縄に対しては「上から目線で粛々」と、辺野古への移設を進めようとする日本政府。この主権国家として不本意きわまりない対米関係をなぜ対等なものに変えようとしないのか。どうしてその負担を沖縄ばかりに押しつけるのか。

多くの沖縄県民が抱いているであろうこの疑問に対し、日本政府はただの一度も、まともに説明責任を果たしたことがない。

日本のエリート官僚たちと在日米軍との協議機関「日米合同委員会」こそ、安保条約を憲法よりも重視して政策を判断する日本官僚機構の謎を解く鍵である。

日本側代表は外務省北米局長で、その下に各省庁の官房長、局長、審議官、課長クラスがずらり。米側は、代表の在日米軍司令部副司令官以下、米大使館の公使や、陸、海、空軍、海兵隊の各司令部の幹部たちで構成される。

つまり、各省庁のエリートたちが、在日米軍の幹部のもとにはせ参じ、何らかの課題について、合意形成をはかっているのである。

月二回といわれる会議に、毎度、全省庁が集まるわけではないが、米軍側は、それだけ頻繁にこの国の政策立案に関わっている。

辺野古の新基地建設については、閣僚級のテーブルに上げられる前に、この実務者会議で合意がはかられてきたと考えられる。

矢部宏治氏は著書『日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないのか』で、アメリカ政府が日本政府より上位、アメリカとの条約群が憲法を含む日本の国内法より上位、という関係が法的に確定してしまっており、官僚が上位の法体系を優先して動くのは当然だ―と主張している。

なぜそんな上下関係が確立されたのか。矢部氏は「砂川裁判」の最高裁判決(1959年)が決め手になったと言う。

当時の最高裁長官、田中耕太郎氏は、安保条約のような高度な政治的問題について最高裁は憲法判断をしなくてよいという判決を出し、それ以来、そういう考えは保守派から「統治行為論」と呼ばれて、あたかも法学上の「公理」のごとく扱われている。

この最高裁判決がアメリカ政府の指示と誘導によってなされたという驚愕の事実が2008年、米公文書で明らかになった。

日米安保にかかわる問題なら、たとえ憲法に反する場合でも、最高裁は違憲判決を下さない。そういうことであれば、日本の官僚は米国の言いなりになることこそ保身の道と考えるだろう。

沖縄県が政府にいくら談判しても埒があかない背景には、米軍による実質的な占領状態の継続と、複雑に絡み合った利権の構造がある。

安倍首相はトランプ大統領の機嫌を損なうことを恐れ、玉城デニー知事への冷たい態度を崩さないだろう。自分の権力維持のためなら憲法や地方自治を無力化することさえ厭わない安倍首相に、玉城知事が対抗していくのは並大抵ではない。

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