コマツが生産する「96式装甲車」(写真:Mochio/PIXTA)

世界2位の建機メーカーで、自衛隊向けに砲弾や装甲車輌を生産してきたコマツが、装甲車輌の開発、生産から事実上撤退する。新規開発は行わないが、既存の装甲車輌の保守だけは一定期間行う旨をコマツ広報担当者は説明している。複数の防衛産業関係者、陸上自衛隊(陸自)将官OBらによると、天下りの将官も1名を除いて全員解雇したという。

コマツが撤退に至った理由

筆者は2014年に本サイトの記事「コマツが防衛事業から撤退すべき5つの理由」で、コマツの特機(防衛)部門の問題点を指摘していた。

コマツは防衛省の7番目に大きな装備サプライヤーであり、平成30(2018)年で280億円である。だがコマツの売り上げは約2.5兆円、防衛部門の売り上げはその1.1パーセントに過ぎない。かつてはその3分の2が榴弾や戦車砲弾などの弾薬であり、装甲車の売り上げは3分の1程度であったが、近年は装甲車輌の売り上げが落ち込んでいた。

軽装甲機動車は近年の排ガス規制によって改良が必要となり、防衛省はコマツに対して改良を発注し、平成28年の2016年度予算では改良型6輌が3億円で要求された。単価はそれまでの約3000万〜3500万円から5000万円へと、約1.5倍に高騰した。このため財務省が難色を示して政府予算に計上されなかった。そもそもこの手の小型4輪装甲車の国際相場は1000万円程度である。コマツ、防衛装備庁、陸幕の認識が甘すぎたとしか言いようがない。

その後、エンジンをカミンズ社のエンジンに換装するなどしてコスト削減を図るなどの案も検討されたが、採用されなかった。またコマツは自社ベンチャーで軽装甲機動車6輪型も開発していたが、これまた陸自には採用されなかった。

さらに現用の陸自の96式装甲車の後継となるべき8輪装甲車、「装輪装甲車(改)」の調達も頓挫した。これは三菱重工業との競作となり、コマツが試作を受注したものだった。だが防衛省は昨年7月27日、「装輪装甲車(改)」の開発事業の中止を発表した。コマツが、同省の求める耐弾性能を満たす車輌を造れなかったためとされている。だが関係者によると機動力などを含めてかなり問題があったようだ。コマツの開発関係者OBは、「コマツは独自技術の開発よりも外国からの技術導入に頼ったことによる技術力の低下が一因」と分析する。

「装輪装甲車(改)」および軽装甲機動車の改良型の不採用が重なり、今後コマツは装甲車輌の生産ラインの維持ができなくなった。なお陸自は軽装甲機動車と高機動車を統合した後継車種の調達を計画している。これにコマツは応じる気はなく、三菱重工や自動車メーカーなどが興味を示している。

今後、コマツが唯一生産を続けるのはNBC偵察車のみである。NBC偵察車はこれまで20輌ほどが調達されたが、これも実は防弾性能に問題があり、また高額である。調達されるのは最大でも30輌程度、実際には20輌も調達されないだろう。これまで平均年に2〜3輌が調達されており、このペースであればこれまでの規模のラインは当然維持できず、工芸レベル、町工場レベルの生産となる。これではこれまでの生産ラインを維持できない。

コマツの装甲車の開発能力は高くない。それはひとりコマツのみならず、防衛省、陸上自衛隊の側の当事者意識および能力の欠如が原因である。

例えば軽装甲機動車の防弾能力は紛争地でゲリラなどが多用するライフルで使用される、7.62×39ミリカラシニコフ弾に耐えられればよいとされており、より強力な7.62×51ミリNATO弾および7.62×54ミリロシアン弾には耐えられない。

これはNATO規格のレベル1の防御力すら満たしていないことを意味する。しかも被弾時に装甲内面が剥離して乗員を傷つけるのを防ぐスポールライナーは経費がかかると省略された。当初左右のドアのガラスも防弾ガラスではなく、車内の騒音もひどい。しかも不整地走行能力が低く、軍用装甲車のレベルにない。技術のレベルとしては1970年代の装甲車である。

率直に言って、トルコやUAE(アラブ首長国連邦)など途上国の装甲車よりも技術的に相当遅れている。

そもそも4人乗りの小型装甲車をAPC(主力兵員輸送車)としているような軍隊は世界にはない。8人の分隊が2つに分かれる上に、固有の無線機も機銃も装備していないので分隊長が分隊をまともに把握・指揮できない。下車戦闘の場合は乗員も全員が下車戦闘するので、車輌の機動および、火力支援が得られない。陸幕は発注側としてまともな運用構想も要求仕様も書けなかった。発注の能力が低ければメーカーの能力も相応に低くなるのが当然だろう。

弾薬は発注数が半減する

弾薬ビジネスも安泰ではない。先に発表された来年度からの防衛大綱は現大綱を引き継ぎ、「戦車及び火砲の現状(平成30年度末定数)の規模はそれぞれ約600両、約500両/門であるが、将来の規模はそれぞれ約300両、約300両/門とする」としている。

つまり、コマツの弾薬は将来的に単純計算で売り上げが半減することが予想される。またコマツは榴弾砲などの精密誘導砲弾の研究を行っていたが、これを中止した。

現在、陸上自衛隊は榴弾砲、迫撃砲に精密誘導砲弾を導入していないが、将来これらを導入することになるだろう。人民解放軍や途上国ですら導入しているからだ。そうなれば当然、精密誘導砲弾は輸入品になる。しかもこれらは通常砲弾の数倍の値段なので、国内の通常弾薬の調達予算はさらに減ることになり、当然コマツの弾薬ビジネスの売り上げは減少するだろう。そうなれば弾薬の製造ラインの維持は極めて困難だ。

近年、財務省は国内の弾薬メーカーの数が多すぎることによる調達コストの高さを批判しており、弾薬メーカーの再編を提案している。これらのことからコマツは近い将来、防衛産業から完全に撤退する可能性が高いと筆者は考えている。