ショッピングモールで服が売れない深刻問題
イオンモールをはじめとする郊外型ショッピングセンターには多くのアパレルショップが入っているが、各社とも苦戦が続く(撮影:尾形文繁)
秋風が吹き始めた9月上旬の平日。都内の大型ショッピングモールにある若年女性向けのアパレルショップでは、店先に並ぶ商品も茶色やワインカラーといった秋色に様変わりしていた。
ただ、実際に商品を手に取る客がいたのは店の奥。そこでは定価3000円前後の春夏物のブラウスやカットソーが、7割引きの790円で大量にたたき売りされていた。
代表格のアダストリアが苦戦
イオンモールやららぽーとなど、ニューファミリー層や若いカップルの定番買い物スポットである郊外型ショッピングセンター(SC)。そのSCに出店するアパレルが、軒並み苦戦を強いられている。
代表格は、「グローバルワーク」や「ローリーズファーム」などSC向けのブランドを多数展開するアダストリア。前2018年2月期は主力ブランドの不振で売上高2227億円(前期比9.4%増)、営業利益50億円(同66.4%減)と、増収ながら大幅減益に陥った。今2019年2月期の出足はさらに厳しく、第1四半期は減益決算となった。
「アース ミュージック&エコロジー」や「アメリカン ホリック」を持つストライプインターナショナルも、2017年度の決算は15億円の営業赤字に沈んだ。
業績悪化の最大の要因は、既存店売り上げの減少だ。来店客が減り、売り切れなかった在庫を値引き販売で処分するため、たとえ売り上げを確保できても利益は削られてしまう。
カジュアルブランド「グローバルワーク」を展開するアダストリアは、業績不振を受けて経営体制を刷新した(記者撮影)
現状を深刻視した企業の中には、経営体制の刷新で立て直しを図ろうとする動きも出てきた。アダストリアは今年3月、創業者である福田三千男会長が社長も兼務することに。前期に大幅赤字へと転落したジーンズカジュアル大手のライトオンも4月、経営推進本部長で38歳の川粼純平氏が社長に就任し、営業本部の拠点を茨城・つくばから東京・原宿に移した。
類似商品の比較が容易に
2000年代以降、百貨店アパレルが凋落する傍ら隆盛を誇ったSC系アパレルに何が起きているのか。「いかに低価格化の渦に巻き込まれないようにするか。とにかく今はそこに気をつけている」。SCにも店舗を構える大手アパレルの経営幹部はそう危機感を募らせる。
SC系アパレルの頭を悩ませているのが、価格競争の激化だ。海外生産へのシフトで始まった衣料品の低価格化は、消費者の節約志向の強まりを受け、年々顕著になっている。店舗販売経験のある業界関係者は「今は若い人ほど即決しない。『とりあえずメルカリで似た商品を探そうか』と、さらに安いものを求めていく」と話す。
衣料品のネット通販が急速に広がり、消費者は容易に類似商品を比較できるようになった。「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を筆頭とするECモールでは、クーポンによる値引き合戦も熱を帯びる。アパレル業界では2015年に大ヒットした「ガウチョパンツ」のような幅広パンツ以降、大きなトレンドの変化がないことも、顧客の来店頻度が下がる要因となった。
ただ、低価格志向の強まりやヒット商品の減少は表面的な問題にすぎず、SC系アパレルの不振の原因はさらに根深い。「ここ最近、『このブランドはこういう商品』と言えるような特徴が消えてきたように感じる」(商業施設のデベロッパー幹部)。
三井不動産が展開するショッピングセンターのららぽーとにも、多くのアパレルが店を構える(記者撮影)
2000年の大規模小売店舗立地法の施行以降、デベロッパーはイオンモールやららぽーとなどの大型SCの出店ラッシュを続けた。アパレルも大量出店への準備やそのための人材確保に追われ、物づくりの優先順位は徐々に下がっていった。
ドイツ証券の風早隆弘シニアアナリストは「他社との差別化のカギとなるはずの商品企画や生産を外部委託することで、低価格でも利益を稼ぐ手法が多くのSC向けブランドで定着してしまった」と指摘する。
止まらない商品の”同質化”
物づくりへの投資を抑えながらも、アパレル側は確実に売れる商品をどう投入するかを模索する。特に最近はネット通販の浸透などで各社の売れ行き動向が把握しやすくなり、シーズン途中で他社の売れ筋商品に似たものを追加投入する会社が増えた。
その結果、各ブランドの商品の“同質化”が進み、消費者も価格のみで比較購買する傾向が強まっていった。アパレルに詳しいオチマーケティングオフィスの生地雅之氏は「『みんなで渡れば怖くない』と売れ筋商品のコピー生産を続け、今は各社が”怖い”状況に陥っている。必要以上の仕入れを抑えて、自社の味を出せる商品で差別化する必要がある」と警鐘を鳴らす。
今年に入り、店頭や自社サイトではセールを抑制して新商品を取りそろえ、売れ残った在庫はゾゾタウンなどECモールサイトで集中的に販売するなど、販路の使い分けに知恵を働かせるSC系アパレルも出てきた。
とはいえ他社と同じような商品が並んでいるのでは、消費者はより安いものを求めるだけ。生産体制を抜本的に見直し、価格以外でも商品の訴求力を高めていかないかぎり、SC系アパレルの復活は遠のくばかりだ。