カット1万2000円でも客が殺到する理由
■若いからこそ悩みやコンプレックスがある
右肩下がりに縮小を続ける美容業界。その流れをものともせずに、急成長を続けるのが「OCEAN TOKYO」だ。創業わずか4年ながら、現在100名の社員を抱え、2018年度の売り上げ見込みは10億円。同社の店舗数はわずか6。1店舗あたりの売上高は業界平均で623万円といわれるなか、驚異的な売り上げを記録している。
顧客ターゲットは10〜20代の男性。スタッフの平均年齢は23.8歳で、いわゆる“イマドキの若者”だ。一方、代表2人のカット料金は1万2000円(税別)と高額だ。そんな異色のサロン代表を務める著者が、運営を軌道に乗せるプロセスで確立した経営哲学の粋を示したのが本書である。
「美容師とは本来、〈職人対髪〉の仕事ですが、僕たちはあくまで〈人対人〉で、髪形はもちろん心をデザインすることを重視してきました。皆、若いからこその悩みやコンプレックスと向き合いながら生きています。そうした声に日々、耳を傾ける中で、この世代との関わり方に確信が持てました」
その結果、画一的な育成マニュアルに従うのではなく、それぞれの個性に合わせた成功体験や成長の機会を用意するのが、若手を動かす最大のメソッドなのだと気がついた。
「こちらの価値観を一方的に押し付けたところで、若い世代は動かずポテンシャルを発揮できません。でも、自分の夢ややりたいことのためなら誰しも積極的に動くものです。だから僕は、スタッフ一人ひとりの志を常に聞き出し、把握して社内に共有します。その情熱の方向性に合う環境と場さえつくってやれれば、彼らは間違いなく個性を出し、期待以上の力を発揮します」
■上の世代は少し「目線」を変えてみる
実際問題として、思うように若手が動かないことに不満を持つ管理職は少なくない。だからこそ、知るべきなのだ。彼らを能動的に動かすには、上の世代が少し目線を変えてみるのが手っ取り早いということを。それは若手の能力を信用することであり、同時に若手のミスをカバーできるだけの力が自分に備わっていると、自らを信用することでもある。
「また、個々の見せ場をつくってやることも大切。それは必ずしも仕事でなくても構いません。たとえば元サッカー部の奴なら社内のフットサル大会など、スポットがあたる機会が必ずあるはず。そしてそれは、普段は見えない彼らの個性をさらに知る機会でもあるんです」
各々の個性を知れば、彼らの原動力の所在もきっと見えてくるに違いない。
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1984年、栃木県生まれ。2013年9月美容室「OCEAN TOKYO」設立。現在6店舗を展開。業界のレコードを次々塗り替える。
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(友清 哲 撮影=小野田陽一)