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世の中で最も多い離婚理由は「性格の不一致」だ。男女問題研究家として夫婦トラブル相談に応じている露木幸彦氏は、「どうしても妻と離婚したいと、妻が吹っ掛けてきた非常識な“言い値”の離婚条件を飲む男性が最近増えている」と語る。離婚条件がトータルで9000万円超の悲惨なケースをリポートしよう――。

■月26万を元妻へ支払う月収35万の離婚貧乏男の末路

最近、「離婚を金で買う男」が増えています。

行政書士で男女問題研究家の私は、家庭内トラブルの渦中にある夫婦へアドバイスをしています。最近相次いでいるのは、妻から離婚の同意を取り付けたい男性からの相談で、彼らはみな「お金で何とか処理したい」と言うのです。

聞けば、夫が不倫に走ったり、借金を重ねたり、暴力を振るったりしたわけではありません。恋愛していた頃は仲がよくても、結婚すると、妻の性格が一転。いや、本性が出たのでしょうか。ささいなことで逆切れし、ヒステリーをおこし、夫を“束縛”する。我慢に我慢を重ねてきたものの、堪忍袋の緒が切れたというのです。

ひとことで言えば「性格の不一致」ということになるでしょうか。しかし、夫が縁を切りたくても、妻はそれを承諾しない。結局、離婚を成立させたいなら、離婚を金で買うしかなくなります。それも「妻の言い値」を飲まなければならないケースが多いのです。

▼生活費月10万円は、妻が生きている間ずっと

今回登場する、東京都在住の高橋淳二さん(36・仮名、以下同)も、専業主婦の妻(38)の離婚を急ぐあまり、圧倒的に不利な金額を約束してしまい、またたく間に「離婚貧乏」に陥りました。

<家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は現在)>
夫:高橋淳二(36歳)→会社員(年収600万円)☆今回の相談者
妻:高橋千絵(38歳)→専業主婦
長女:高橋優奈(10歳)→高橋夫婦の娘

まずはこの数字をご覧ください。

(1)妻と長女が住むマンションの住宅ローンとして月10万円(完済まで20年)
(2)生活費として月10万円(妻が生きている間ずっと)
(3)養育費として月6万円(長女が社会人になるまで)

これは、淳二さんが離婚時、妻に約束した内容です。

■妻への「総支払い」は52年間で計9360万円也

淳二さんの毎月の負担は最初の10年間は、(1)住宅ローン、(2)生活費、(3)養育費の3点セットで毎月26万円です。10年後、長女が20歳のときに学校を卒業して就職・自立すると(1)と(2)で毎月20万円です。そして20年後、ローン返済が完了すれば、(1)のみで月10万円となります。そのとき、妻はまだ58歳。人生100年時代と言われる中、この月10万円は淳二さんの定年退職後も続くことは明らかです。

計算してみましょう。妻への支払いは最初の10年間(月26万円×12カ月×10年)で計3120万円、最初の20年間(3120万円+月20万円×12カ月×10年)で計5520万円です。21年目からは毎月10万円の支払いになりますが、妻の寿命を90歳としたとき、5520万円+月10万円×12カ月×32年で、総計9360万円ということになります。

淳二さんがもし年収1億円を超える「高給取り」なら、何の問題もありません。しかし、淳二さんは年収600万円(手取り月収35万円)の平均的なサラリーマンです。

「冗談でしょ。そんな人がいるわけがない」

▼年収600万円の夫は払うことができるのか?

そう思う読者も多いでしょう。何しろ、淳二さんらの手取り月収から、妻への支払額を引くと、最初の10年間はたった9万円しか残りませんから。でも、これは笑い話ではありません。実際にあった話であり、本当にこの金額を約束した人が存在するのです。

確かに淳二さんは離婚することに成功しました。長年の苦痛からようやく解放されました。しかし、その代償はあまりにも重く、多く、長いものでした。

離婚と引きかえに淳二さんは最初の10年だけで3100万円超の支払いを約束したのです。しかし現実的に考えてみると、自分の収入だけでは、妻に支払う約束をした住宅ローン(月10万円)を返済することは難しい、とわかります。

そこで、数年前に定年退職した父親の退職金1500万円、さらに祖父から父親が相続した遺産900万円を充てて、離婚時に一括完済できないか、と頭を下げたそうです。しかし、退職金をあてにされた父親はあからさまに嫌な顔をしたそうです。当然の話です。親戚からも後ろ指をさされるようになりました。

結局、住宅ローン2400万円(20年間の返済分)は親から借りることができました。このため当初10年間の支払い額は月16万円に減りました。そのことで淳二さんの手元には月19万円が残ることになり、何とか生活のめどが立ちました。ただし、親から借りた2400万円は、いずれは返済しなければなりません。

■嫌悪感を通り越して恐怖心「10年間、性交渉なし」

はたして淳二さんは本当にそんな大金を払わなければいけないのでしょうか。その金額に見合うほどの「悪さ」をしたのでしょうか。淳二さんは私にこう言いました。

「妻は、結婚当初、猫をかぶっていたのです。付き合い始めた頃は『こんなに好きになった人は他にいない』と彼女のほうが積極的だったんです。しかし、彼女の正体は『トンデモ女』でした。浮気を疑っているのか、僕が2〜3日の出張から帰ると、彼女は必ず念入りに取り調べを始めるのです」

仕事のかばんから、財布を取り出して、レシートやカードの控えを1枚1枚チェック。そこで収穫がないと今度はスマホ。メールの受信、送信、着信履歴はもちろん、メモリーの登録内容まで調べるそうです。淳二さんは、はじめのうちは、妻が育児ノイローゼで神経過敏になっているのかと思って我慢していたのですが、いつまでたっても彼女の習性は変わりませんでした。

淳二さんは自分にやましいところはないといいます。だから、取り調べを拒みたくなることもあったそうですが、そんなことをすると、妻は「ボケ」「バカ」「死ね」など2倍、3倍にして返してくるそうです。だから、淳二さんは黙っているしかありませんでした。

「彼女のヒステリーは年々拍車がかかり、僕は精神的にまいってしまいました。だから、けんかをするたびに『今度こそ離婚したい』という衝動に駆られるのですが、なかなか踏み出せず、ここまで延び延びになっていきました」

▼「彼女への愛情はありません。完全に『仮面夫婦』です」

結婚前と結婚後。「妻の豹変」により淳二さんは妻に対して嫌悪感を通り越して恐怖心さえも抱くようになってしまいました。

「彼女の『化けの皮』がはがれてからというもの、毎日が地獄のようでした。僕は彼女の顔を見るだけで気持ち悪くなってしまう。そんな禁断症状まで現れるようになりました。もちろん彼女との肉体関係はずっとありません。長女を妊娠してから、それっきりです」

長女が10歳なので10年間は夫婦間の性交渉がないということになります。

淳二さんはもう妻と接するのが嫌で嫌で仕方がないそうです。だから、仕事から帰宅するのは、妻と子供が寝静まる深夜まで待っているといいます。

「一緒に暮らしてはいますが、家庭内別居に近い状態です。もう彼女への愛情はありませんし、完全に『仮面夫婦』です。だから、こんな生活はうんざりでした。できるだけ早く妻との生活にピリオドを打って、楽になりたかったのです」

その後、淳二さんは離婚することができましたが、その代償は高くついたのです。

(後編に続く)

(行政書士、ファイナンシャルプランナー、男女問題研究家 露木 幸彦 写真=iStock.com)