銃殺・絞首刑に「火あぶり」まで…衛星情報で暴く北朝鮮「公開処刑」の実態
米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)によれば、米国の「全米民主主義基金(NED)」が2018年・民主主義賞の受賞者として、4つの韓国のNGOを選定したと伝えた。いずれの団体も、北朝鮮の人権問題を活動内容としている。
NEDは民主主義を広げるため、世界中のNGOやメディアに資金提供を行ってきたNPOだ。活動資金の大半を米議会から受け取っているとされ、「かつてCIAが秘密裏にやっていたことを、表だってやっている」とも言われる。その真偽のほどはさておくとして、たしかに受賞団体の中には、情報機関も顔負けの仕事をしているものがある。
今回の受賞団体のうちのひとつ、韓国・ソウルに本部を置く「転換期正義ワーキンググループ(Transitional Justice Working Group)」は、北朝鮮国内で銃殺が行われた場所、死亡者の遺体が集団埋葬された推定地、遺体の火葬場所などを示したマップを制作している。
(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認)
北朝鮮の政権が行っている人権侵害を記録することで、そのような行為をやめるよう警告すると同時に、将来的な加害者の法的処罰の可能性を高めることが目的だ。
このグループは、これまでに375人以上の脱北者との対面調査を行い、そこで得たデータを情報技術(IT)により解析し、公開銃殺などが行われた場所を推定。その場所を衛星画像やGPS情報と対比し、地図上の座標に落とし込む作業を続けてきた。
その結果、北朝鮮には少なくとも、公開処刑が行われた現場が333カ所存在し、そうして殺された人々の遺体が秘密裏に埋葬されたり、焼かれたりした場所が少なくとも52カ所、そして死刑は伴わず公開裁判だけが行われた場所が少なくとも8カ所あることがわかったという。
ちなみに、北朝鮮の公開処刑の方法としては銃殺が良く知られているが、かつては絞首刑が一般的だったという。また驚くべきことに、「火刑(火あぶり)」の目撃証言まであるというのだから驚愕せずにはいられない。
ここで「少なくとも」と繰り返しているのには、理由がある。
同グループの調査手法に限界があり、北朝鮮全国の事情をくまなく調べることが出来ないからだ。韓国に在住する脱北者の多くは、北部の中朝国境地帯の出身だ。そのため国境から離れた黄海北道(ファンブクト)や黄海南道(ファンヘナムド)、江原道(カンウォンド)の情報は、どうしても薄くなりがちなのだ。
つまり北朝鮮には、同グループが把握した計393カ所の公開処刑・裁判・埋葬現場よりも、はるかに多くの現場が存在する可能性が高いのだ。
とくに黄海北道には、1990年代に労働者の大量虐殺が行われた黄海製鉄所がある。
また同じ地域では2012年、金正恩党委員長の失政による「人災飢饉」で大量の餓死者が発生。「人肉事件」まで発生する悲劇が起きた。いったいどれほどの犠牲者が出たのかは現在でも謎だが、そのようにして亡くなった人々の集団埋葬場所が、どこかに存在する可能性は否定できない。
なお同グループは、人権侵害が行われた具体的な場所は公表しておらず、今後もその予定はないとしている。現状では、客観的な現地調査が不可能であり、そのような状況で具体的場所を公表すると、北朝鮮当局が証拠隠滅を行う可能性が高いからだ。
このような活動を行う団体がNEDから賞を贈られたことに、金正恩党委員長はどのような感想を抱くのだろうか。