「北朝鮮で『NARUTO-ナルト-』が流行っている」金正恩体制が骨抜きに
北京駐在の北朝鮮代表部(大使館に付属した機関)の幹部が、韓流コンテンツを視聴していたことが発覚し摘発されたと韓国の大手紙・中央日報が伝えた。北朝鮮当局は、大使館に対して大々的な検閲(査察)を実施しているという。
女子大生の悲劇
幹部は6月末、韓流ドラマや映画を視聴していたことが発覚。外交官を監視し、取り締まる役目を負った秘密警察、国家保衛省(以下、保衛省)所属の安全領事は、即刻平壌に報告した。7月に入ってから、平壌から朝鮮労働党中央と保衛省の人員からなる検閲団が派遣された。
北朝鮮は、韓流やハリウッド作品など外国映画を見ただけで厳しく罰せられる国だ。10代の未成年といえども容赦はなく、女子高生らが公開裁判にかけられた例もある。一昨年4月には、韓流ファイルを保有していた女子大生が逮捕される事件もあった。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)
それでも、娯楽コンテンツとして魅力のある韓流が北朝鮮国内で拡大することは止められない。ましてや海外勤務であれば、北朝鮮国内よりも韓流やその他の外国文化に触れる機会も多い。
昨年8月に韓国に亡命した元駐英公使の太永浩(テ・ヨンホ)氏の息子のグムヒョクさんは、日本のアニメ「ドラゴンボールGT」が好きだった。また、先日ボーカルが自ら命を絶ったことで話題になった米国のロックバンド・リンキン・パークのファンだったという。
外交官ではないが、「北朝鮮から中国に派遣された旅行業者の息子が、やはり日本のアニメ『NARUTO-ナルト-』が好きで、平壌でも密かに流行っている」との話を、筆者も情報筋から聞いたことがある。
同窓会を襲った血の粛清
摘発された幹部は、北朝鮮代表部の軽工業代表という肩書だった。金正恩党委員長のファミリーや特権階級の生活必需品を要望に応じて調達し、平壌に送るという重責を担ってきたという。だとすると、なおさら韓流コンテンツに触れるのはやむをえないだろう。
北朝鮮の特権階級が韓流コンテンツなどを見ながら、登場人物のファッションやグッズを欲しがり、外交官にリクエストを出すことがあるからだ。
それでも、この幹部と家族、そして大使館、代表部所属のすべての人員に対して厳しい検閲が行われたという。対北朝鮮筋によると、パソコン、記録メディア、携帯電話の厳しいチェックを行った結果、韓流ドラマ、映画や韓国のニュースを見た形跡が数多く発見され、大使館外に住んでいる関係者、大使館内に住んでいる大使館員と家族の多くが摘発された。
保衛省の検閲団はさらに、大使館の運営実態、大使館員の思想検閲も行っている。厳しく対処する背景には、先述の太元駐英公使だけでなく、その他の外交関係者の脱北、亡命が相次いでいることがある。
中央日報は昨年10月5日、 北京に駐在する北朝鮮代表部所属の幹部2人が9月末に、家族とともに脱北し、亡命の手続きを踏んでいると報じた。2人のうち1人は、北朝鮮の内閣保健省の幹部で、金正恩氏やその家族、特権階級が利用する烽火(ポンファ)診療所、南山(ナムサン)病院、赤十字病院を管轄する保健省1局に所属し、金正恩氏が使う医薬品を調達していた人物だという。
金正恩氏は、韓流のみならず海外の文化に触れた外交官などの海外組が、体制不安の種になることを恐れているのかもしれない。
実際、1993年に旧ソ連のフルンゼ軍事大学に留学した同窓生たちが、北朝鮮の独裁体制に疑問をもち、反体制の動きを見せたが、「血の粛清」に遭った事件が起きている。
こうした事例は、グローバル化された今の時代において、北朝鮮当局のプロパガンダによる思想統制に機能不全が生じていることを象徴している。金正恩氏は核・ミサイルで威信を高めることに躍起になっているが、実のところ韓流や日本のアニメが全体主義体制を骨抜きにしている内実があるとも言える。