中国は漢字の国。クルマの名前ももちろん漢字表記で、各社それぞれ工夫を凝らしています。2017年の「上海モーターショー」では、日本のクルマ好きにとってあまりに懐かしい車名も見られました。

中国での車名、名づけのセンスが素晴らしい!

 2017年4月19日(水)からスタートした「上海モーターショー」、筆者(加藤久美子:自動車ライター)が取材に訪れたその会場にて、懐かしい車名、すばらしくセンスの良い車名、日本ではほとんど知られていない中国メーカーの誇り高き車名など、由来を知りたくなる車名に次々と遭遇しました。まずは思わずうなってしまうような車名からご紹介してみましょう。


復活のトヨタ「レビン」は「雷凌」と表記。そこに込められた工夫とは(H.Kato撮影)。

 なお、記事中「※」が添えられたものは、本来の中国語の簡体字表記とは異なる、日本語の漢字に当てはめた表記などです。正しい表記は別添の画像にて。また、漢字の解釈は、あくまで日本語での意味をベースとした筆者の解釈です。

「蘭徳酷路沢」(※1)

「蘭徳酷路沢」は「ランドクルーザー」です。とくに、「酷路沢」の部分、カタカナで表記すると「クルザー」といった感じに近い発音をするので、音もほぼあっていますし、日本人でもわかる漢字の意味に静かな感動を覚えます。「ひどい悪路や沢も走れる車」という意味を持たせているのでしょう。「蘭徳」も、なんだかありがたい意味の漢字のようです。

「雨燕」

 こちら、日本でいうところのスズキ「スイフト」です。「スイフト」という車名は、長きにわたって「カルタス」の輸出名でしたので、中国を含む海外ではなじみのある車名です。英語で「軽快、素早い」を意味する「swift」は、中国語では「雨燕」となります。

「雷克薩斯」(※2)

 これはなかなかの難読。中国でも大人気の「レクサス」です。ちなみに、「レクサス」が中国に本格進出する前は「凌志」という中国名が浸透していました。雲をはるかにしのぐほど高い志、を意味する「凌雲壮志」という4字熟語からとられたもので、世界の高級車「レクサス」にふさわしい、素晴らしいブランド名でした。しかし、中国進出以降、商標の関係で「凌志」は使えなくなったようで、現在の「雷克薩斯」となった経緯があります。これも音と意味をうまくミックスさせたブランド名です。発音は「レイクサス」と、「レクサス」に近いものがあります。

「騏達」(※3)

 日産「ティーダ」です。中国語での発音は「シィーダァ」で、「ティーダ」と音が似ていますね。「騏」は伝説上のユニコーンや駿馬という意味があるので、「騏達」という車名は「足が速くとてつもなく優れた馬(=車)」という意味になるようです。ちなみに日本での車名「TIIDA」は「自然の調和や潮流」を意味する「tide」に由来する造語とのこと。日本語の車名のほうが少し控え目ですね。


スズキ「スイフト」は「雨燕」

「上海モーターショー2017」で世界初公開されたレクサス「NX300 F SPORT」の中国仕様車(H.Kato撮影)。

日産「ティーダ」は「足が速くとてつもなく優れた馬(=車)」を意味する「騏達」に(H.Kato撮影)。

「天籟」

 日産「ティアナ」です。普通に日本語で読むと「てんらい」と読めますが、中国語の発音も「ティアンレィ」で、「ティアナ」に近い印象ですね。「天籟」とは、「天の音、絶妙な素晴らしい詩歌」を意味する言葉で、こちらも音と意味がうまくミックスした素晴らしい車名ですね。

「宝来」

 宝が来る……なんと素晴らしい車名でしょう。この車名を持つのは、VW(フォルクスワーゲン)「ボーラ」です。「宝来」は「ボアラァイ」という発音なので、「ボーラ」に近いものがあります。ちなみに、フォルクスワーゲンの中国語表記は、日本語の漢字に当てはめると「大衆」となるのですが、この「衆」の簡体字が「人」の下に「人人」と書くため(※4)、VWのロゴマークに似ており、絶妙なマッチングに震えます。「大衆」とはドイツ語でいうところの「国民(のクルマ)」で、これがそのまま中国名となりました。フォルクスワーゲンは中国での現地生産の歴史が長く、中国で合弁企業を設立した最初の国外メーカーとなります。中国でのタクシーはほとんどがVW「サンタナ」です。

4000年の歴史を感じるBYD「王朝シリーズ」と、懐かしい日本車の復活?

 日本ではあまりというかほとんど知られていないであろう中国のEVメーカーBYDは、充電用バッテリーメーカーからスタートした会社で、2008(平成20)年12月に世界初の量産型プラグインハイブリッドカー、BYD「F3DM」を発売しています。驚くことに、いまや世界有数のEVメーカーでもあります。

 そのBYDの比較的新しいモデルが「王朝シリーズ」で、車名に「秦」「唐」「宋」「元」など、中国におけるかつての王朝の名前がついています。このセンスがなかなかあなどれません。「すごく古い!けど、斬新」なネーミングです。まさに温故知新。日本で例えるならば、トヨタ「鎌倉」、日産「安土桃山」、ホンダ「縄文」といった感じでしょうか。漢字ひと文字だけというシンプルな車名もインパクトありますね。

 ちなみにこちらのBYD、イメージキャラクターを務めるのはあのレオナルド・ディカプリオです。なんともゴージャス。


BYDの王朝シリーズより「宋」。中国の統一王朝としての「宋」は960年から1279年にかけ存在した(H.Kato撮影)。

BYDの王朝シリーズ「秦」。始皇帝で有名なあの「秦」(H.Kato撮影)。

ホンダ「アヴァンシア」は中国名「冠道」を冠し復活(H.Kato撮影)。

 そして今回の上海取材では、日本国内で販売を終了した「レビン」や「アヴァンシア」をはじめ、「シティ」や「ティーダ」、「ランサー」など、懐かしい名前のクルマたちと再会しました。とくに、「レビン」と「アヴァンシア」。この2台は販売終了から十数年経過していることもあって、再会の喜びもひとしおでした。

トヨタ「レビン」=「雷凌」

 中国語の発音は「レイリィン」。トヨタ「レビン」です。「雷」の文字が入っていますが、「レビン」はもともと古い英語で「稲妻」の意味がありますので、こちらも音と意味を合わせたのでしょう。「レビン」のロゴにも稲妻マークが入っています。ですが、いわゆるAE86「カローラ レビン」のような2ドアクーペではありません。オーソドックスなセダンです。わりと最近、追加された1.2Lターボ(グレード名185T)とハイブリッドの2種ですが、この「レビン ハイブリッド」は、企画から内外装のデザイン、ハイブリッドシステムにいたるまでほぼすべてが中国国内で一貫生産されています。

ホンダ「アヴァンシア」=「冠道」

 こちらはホンダ「アヴァンシア」です。懐かしいですね。1999(平成11)年に発売され、独創的なアーチキャビンフォルムが特徴だったホンダのステーションワゴンです。一度もフルモデルチェンジをすることなく2003(平成15)年に国内販売を終了した1代限りのモデルですが、2016年春、ちょうど1年前に開催された「北京モーターショー」で新型「アヴァンシア」がお披露目されました。「冠道」は中国語読みで「グアンダアォ」と、「アヴァンシア」とはちょっと違う印象ですが、中国で販売されるホンダブランドのSUVのなかでは最大。フラグシップSUVにふさわしい「冠道」という車名がしっくりきますね。

なぜ? 日本で終わった車名が中国で復活している理由

 日本で終わったブランドが海外で復活、というのは、記憶に新しいところでは2013年の「ダットサン」があります。「ダットサン復活!」のニュースを受けて往年の日産ファンは色めき立ったものですが、ダットサンのバッジが付けられるクルマは海外(新興国)向けの比較的安価なモデルであり、理由は「日産やインフィニティのブランドイメージを守るため」とわかると、なかなか複雑な気分にもなったものです。


トヨタの中国におけるプラグインハイブリッドのロゴ。エンジンとモーターで「双撃」(H.Kato撮影)。

 では中国において「レビン」や「アヴァンシア」を車名として復活させている理由はどこにあるのでしょうか。クルマ好きの日本人で、おおよそ40代以上にとってみれば「キャーなつかしー♪」となっても、中国ではニューモデルなわけですから、懐かしさを感じる人もそう多くはなさそうです。とはいえ、単に「カローラ」の兄弟車なら、(商標OKなら)「スプリンター」でもいいわけですが、そこで「レビン」が選ばれたのはやはり、「レビン」のブランド力に込められた期待もあると思うのです。

「レビン復活!」となれば、日本市場は関係なくても、やはりトヨタの本拠地がある日本のメディアに取り上げられることも多いでしょう。それに、これは筆者の憶測にすぎませんが、「雷凌」は雷から電気、そしてパワフルなハイブリッドと連想されるイメージもあるのかなと。「雷凌」はなんといってもトヨタブランド初のオール中国製ハイブリッド車です。

 ちなみに、トヨタのハイブリッド車は中国では「双撃」と記します。エンジンとモーター双方で「撃」とは、カッコよかったです。漢字の持つパワーを感じられるのも日本人だから、かもしれませんが。

絶頂期は過ぎるも、日本のバブル期より何倍もの活気

 今回は18年ぶりの中国で、中国のクルマ事情にも大して興味のなかった筆者ですが、実際に訪れてみてその印象が大きく変わりました。ひと言でいうと「予想以上に面白かった!アツかった!」ということです。街も人々も車たちもみんな輝いているように思えました。中国ですからパクリ系のクルマもたくさんありましたけど、中国ブランドのクルマたちが(SUVが大半ですが)やたらとカッコよく見えました。自信に満ち溢れているとでもいいましょうか。


「上海モーターショー2017」の日産ブース(H.Kato撮影)。

「上海モーターショー2017」の日産ブース(H.Kato撮影)。

「上海モーターショー2017」会場周辺の様子(H.Kato撮影)。

 会場にはプレスデー2日間のほか、一般公開日にも入場料(100元=1600円)を支払って見に行きましたが、来場者のクルマに対する憧れやアツイ思い、情熱を肌で感じることもできました。

 なんだかこの感じ、懐かしい。昔、日本でもありましたよ。30年くらい前の「モーターショー」の雰囲気でしょうか。「絶頂期は過ぎたかもしれないけど、日本のバブル時代をはるかに超える勢いとアツさはまだまだ十分あるから行った方がいいよ!」と、中国車事情通の友人に勧められ、来てみてよかったです。

【図】記事中で代替した文字の正式な簡体字表記


記事中で代替した漢字や文字の、正式な簡体字表記はこちら(乗りものニュース編集部作成)。