トラブル増!利用者が知らない「葬儀一式」のワナ

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すっかり定着した感のある「終活」という言葉。「人生のフィナーレ」を迎えるにあたり備えあれば憂いなしと、誰もが思うところだろう。だが、こんなに「落とし穴」が潜んでいるのだ!

■葬儀にお金をかけたくない消費者が増えた

葬儀の世界はこの10年で大きく変わった。

1980年代には70万人台だった日本の年間死亡者数は、2000年代前半に100万人を突破、14年には127万人となった。葬儀の件数も増えているはずだが、市場規模は逆に減り続けている。経済産業省の実態調査によれば、14年の葬儀関係の売り上げは、前年に比べ28%も減少した。

「家族葬が増えるなど、1件あたりの葬儀の規模が急速に小さくなってきたためです」

葬儀相談員の市川愛氏はこう指摘する。葬儀の規模が小さくなってきた分、トラブルも減ってきたかというとその逆で、国民生活センターに持ち込まれる葬儀関係の相談数は、14年度に723件と、この10年で3倍以上に増えている。

「私の印象では、以前より葬儀社側の問題が増えているようには思えません。むしろ、自分の権利を主張する消費者が増えたことや、『葬儀にお金をかけたくない』と考える人が増えた結果ではないでしょうか」

首都圏では家族葬が一般化し、新聞の折り込みやインターネット上の広告を見ても、「葬儀一式で18万〜30万円弱」程度の低価格プランを前面に出していることが多い。

「ただ、『葬儀一式』といっても、『葬儀の総費用』ではないことに注意が必要です」

葬儀業界でいわれる「葬儀一式」とは、祭壇飾り、棺、人件費など、葬儀社で請け負う作業についての費用を指し、飲食費や会場費、返礼品などは別扱いで、僧侶へのお布施も含まれていない。「一式」といいながら、葬儀に必要な費用すべてをカバーしているわけではないのだ。利用者の側にそうした知識がないと、「最初に聞いた話と違う」といって、公的機関に駆け込むトラブルになる。

「セットプランを申し込む場合は、『葬儀一式』に何が含まれ、何が含まれないのか、きちんと確認しておく必要があります。申し込み前に必ず、『この人数だと全部でいくらかかりますか』と、参列者の人数を告げたうえで、総額の見積もりを取っておきましょう。見積もりは必ず2社以上、できれば3社から取って、比較してみることです」

それさえしておけば、ほとんど問題は起きない、と市川氏はいう。

■なぜ見積もりは3社から取るべきなのか

弔事は突然訪れることが多く、喪主側には「早く葬儀社を決めなければ」というプレッシャーがかかる。そうした状態で、広告などでたまたま目についた葬儀社に決めてしまうと、のちのち後悔することになるかもしれない。可能であれば、気持ちに余裕のあるうち(故人の生前)に、数社から見積もりを取ったうえで1社を選んでおくことが望ましい。

といっても、たくさん見積もりを取ればいいというものでもない。

「なかには6社から見積もりを取り、どう判断したらいいかわからなくなって私のところに相談に来られた方もいます。あまり多すぎると選べなくなるので、3社くらいにしておくべきでしょう。また、私の経験上、知らない街の葬儀社さんと接すると、3社に1社は丁寧で信頼できる会社です。その経験則から、3社に当たればまず大丈夫だと思います」

最近はネット経由で葬儀社を選ぶケースも増えている。ただし「ネットで広告している葬儀社も玉石混淆です」。

公営葬儀場の間取りや交通アクセスなどをこと細かく説明した後で、「葬儀のお申し込みはフリーダイヤル××番へ」と、あたかもその葬儀場専属の葬儀社のような書き方で、利用者を誘い込む業者もいるから要注意だ。実際には公営の葬儀場は、どの葬儀社でも使用できる。

社葬など規模の大きな葬儀では、斎場選びが問題となる。候補となるのは、東京では築地本願寺、上野の寛永寺といった著名な寺院だ。そうした寺で葬儀を行うというと、「お寺の檀家や、同じ宗派の人でないとできないのではないか」とか「お寺専属の葬儀社があるのでは」と思いがちだが、それは誤解。そうした寺院は葬儀では会場を貸すだけ。宗派がどこであろうと、式場として借りられるし、読経を頼む僧侶にしても、よそから連れてきて構わない。葬儀社もどこを選んでもよい。

先年、地方で会社を経営している市川氏の知人が、東京の大寺院で先代社長である父の社葬を行った。

「お寺に紹介してもらった葬儀社に料金を聞いたら、『社葬なら1000万円』と言われたというのです。驚いて『そんなに出せない』と言ったら、『じゃあ500万円』といきなり半額にディスカウント。それで一気に信用できなくなったと、私に相談してきたのです」

■規模の小さな家族葬ではこんな不満も

葬儀社は通常、まず参列者の人数を確認し、それから喪主の希望を聞いて、それに合わせて見積もりを作成する。何も聞かずに「社葬なら1000万円」と持ちかけるのは、信用できない業者と思っていい。

家族葬の普及で規模が小さくなってきた結果、葬儀1件あたりの葬儀社の利益は少なくなっている。そのため少ないスタッフで多くの葬儀をこなす傾向が強くなっている。

「ある葬儀社では、1人の担当者に月に10件の葬儀をノルマとしています。そうなると常時、2つ以上の式を掛け持ちすることになり、担当者は打ち合わせもできるだけ早くすまそうとしがちになります」

これがトラブルの元になる。

担当者がきちんと遺族の話を聞かず、いくつかのプランの中から選ばせるだけといった対応になってしまうと、遺族の側には「ちゃんと話を聞いてもらえなかった」という不満が残る。後悔しないためにも、「どんな葬儀にしたいのか」という要望を、葬儀社の担当に積極的にぶつけていく必要がある。

最近はほとんどの儀式を省き、「火葬場に直接、遺体を運び、火葬してお骨を持ち帰るだけ」という「直葬」を選ぶ人も増えている。

ただ直葬を行ったあと、親族から「なんでそんなかわいそうなことをするんだ」と非難され、改めて故人の故郷で葬儀をやり直す、といったケースも出ている。

「故人と親しかった人たちの気持ちを大切にしないと、トラブルになります。葬儀が嫌ならレストランを貸し切るなどして、親族や親しかった人たちで故人の思い出話をする機会をつくってはどうでしょう。あるいは火葬場に送る前に一晩、自宅に安置して、家族や親族と別れの場を持つのでもいいでしょう」

▼直葬・家族葬は一般葬とこう違う!

【直葬】
内容・メリット:自宅や病院から直接火葬場へ遺体を搬送し火葬する
デメリット:十分なお別れができなかったと後悔することも
費用の目安:15万〜30万円

【家族葬】
内容・メリット:故人の近親者や、親しかった人だけで営む
デメリット:香典収入が少なく、遺族の持ち出しが多い。葬儀後の弔問客の対応に苦慮することも
費用の目安:80万〜100万円(出席者20名程度)

【一般葬】
内容・メリット:幅広い関係者が参列するので、葬儀後の弔問に煩わされない。香典収入で費用負担が軽減
デメリット:葬儀社からの請求額が大きい。弔問客への対応が忙しい
費用の目安:150万〜200万円(出席者100名程度)

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市川 愛
葬儀相談員、市川愛事務所代表、一般社団法人「終活普及協会」理事。1973年、川崎市生まれ。服飾メーカー、葬儀社紹介企業勤務を経て、2004年、日本初の葬儀相談員として起業。著書に『後悔しないお葬式』など。

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(葬儀相談員 市川 愛 文=小倉宏弥(プレジデント編集部) 撮影=堀 隆弘)