広島市の人口は約118万人、県全体でも285万人にすぎない。にもかかわらず、広島カープは昨年、211万人もの観客を動員し、今年はさらにそれを上回る勢い。それも当然、チームが20年ぶりの前半戦首位ターンを決めたからだ。
 このまま好調を維持し、1991年以来四半世紀ぶりのセ・リーグ優勝を果たした上、クライマックスシリーズのファイナルを勝ち抜いて日本選手権に進出すると仮定すれば、県内だけで「経済効果は300億円!」との試算も出ている。何より24年間も優勝から遠のく中で40年にもわたって黒字経営が続き“超優良企業”でいられるのはなぜか--。

 今年は2位以下に10ゲーム差をつけ、8月中のマジックナンバー点灯を確実視されたこともあり、親会社を持たない「広島東洋カープ」の経営手法が今、あらためて見直されている。
 ドームとの一体経営で黒字を計上しているソフトバンクと、大都市に本拠地を構え伝統に裏打ちされた人気を誇る巨人と阪神を除けば、他の球団は年間20億から30億の赤字が続く。その分を親会社から宣伝費の名目で穴埋めしてもらっているのがプロ野球球団経営の実情だ。そんな中で1975年(昭和50年)以降、ずっと黒字を続けているのが、地方球団で弱小球団の代名詞ともなっていた広島。そこには節約術と斬新なアイデアがもたらす黒字追求の方針が見て取れる。

 カープの経営は株式会社広島東洋カープが行っている。筆頭株主はマツダ(自動車メーカー)の創業家でカープのオーナーを務める松田元氏の42.7%。マツダ本社も34.2%保有するが、経営にはタッチしておらず、独立で経営している。これが市民球団と言われるゆえんである。
 今季開幕時点での支配下登録された選手の年俸総額は18億9791万円。これは12球団中9番目で、1位ソフトバンク(41億7577万円)、2位巨人(32億9800万円)よりかなり低い。
 もっともこれには、メジャー復帰の黒田博樹投手の6億円年俸も含まれており、実質的には球界最低水準にある。
 「それでいて打率トップ10に3人の野手(鈴木誠也、新井貴浩、菊池涼介)、防御率トップ10に3人の投手(ジョンソン、野村祐輔、黒田博樹)を抱えながら選手の総年俸を低く抑えることができるのは、独自の選手獲得法を実施しているからです」と解説するのはカープOBの野球解説者。

 毎年、新人選手は即戦力の投手を除けば、将来有望な高卒野手や甲子園未経験の高卒投手に絞って獲る。要は大学や社会人で名が売れた後では、契約金や年俸が高額になるが、その前に獲得することで格安に入団させることができるのだ。
 「大学で野球素人の監督やコーチに指導してもらうより、環境が整い、練習量も豊富なプロ野球で“プロの指導者”が教えた方がはるかに選手は伸びる。そうして育成したのが前田智徳であり、東出輝裕、現在売り出し中の鈴木誠也です。育て上げ、高額年俸になったら放出して総年俸20億円を超えないように努める。コスト面もありますが、新陳代謝を図ることで若手が伸びるからです。年俸が3億円を超えれば黒田であれ、前田健太であれ、引き留めない。FAの申し出があればそれで商売をし、会社の収益を上げる。前田健太のポスティング移籍では2000万ドル(約24億円)を獲得し、過去最高益を記録しました。海外のサッカー界ではごく普通のやり方ですが、広島はプロ野球にそれを取り入れたのです」(同)

 もう一つは外国人選手獲得の独自ルート。広島は1990年、ドミニカ共和国に日本球界初の「カープアカデミー」を設立し、海外の逸材を安価で輩出するシステムを作り上げた。メジャーリーグでドミニカ出身の選手が活躍していることに目を付け、首都サントドミンゴ郊外にファームを作り、外国人選手の発掘に乗り出したのだ。
 「現在ドミニカにはメジャーの30球団中28球団がアカデミーを開校していますが、カープは進出時期が早かったため、今なお最大級の規模を誇っています。これを前田の売却資金で1億円掛けて改修し、さらに充実させた。産地直輸入のため、だから好選手が安定的に、安価で獲得できるのです」(在京スポーツ紙海外担当記者)

 メガホンを使う、トランペットを吹く、オリジナルの応援歌やジェット風船…実はいずれもカープから生まれた風景だ。最近では「カープ女子」がけん引する女性ファンの獲得もしかり。
 ソフトバンクのようにオーナーの一存で大盤振る舞いができない分、市民球団の広島カープは地元に根差した運営を心掛けている。
 ファンを育ててグッズ収入や観戦料収入を増やすことに、絶えず知恵を絞っているのだ。