ナポリを完封。長友佑都のユニフォームがインテルで一番売れる理由
セリエA第33節。2位ナポリをホームに迎えた4位のインテルは2−0で勝利を収めた。長友佑都は先発フル出場を果たしている。
「おめでとうチャンピオン! 我々のもとに残ってくれてすごくうれしいよ! さあ、これから今シーズンをいい形で終えて、来シーズンはみんなで勝利しよう!」
長友佑都の契約更新の知らせを聞いて、チームメイトのガリー・メデルとファン・ヘススは真っ先にこんなメッセージを送った。
4月8日に発表されたインテルとの契約更新は3年。長友が32歳になる2019年6月までとなる。長友側もインテル側も望んだ円満更新だった。今年の1月にキャプテンだったアンドレア・ラノッキアが移籍したため、長友は現在のチームの中で所属期間が最も長い選手となったが、この更新で彼が名実ともにインテルの顔となっていくに違いない。また、もし彼がこの契約の最後までプレーすれば、中田英寿の記録を抜いてセリエAで最も長くプレーした日本人となる。
インテルは常に長友のプロ精神と、様々なポジションでプレーできる柔軟性を評価してきた。それに加えてチームの経営戦略においても、彼は重要な存在となってきている。インテルは今後アジア市場でのマーケティングやマーチャンダイズをより発展させようと計画しているが、その際、チームの中心にアジア人選手を持つことは有利であると判断したのだ。
インドネシア人のエリック・トヒル会長も長友に他の選手とは一種異なった特別な親しみを感じているようだ。トヒル会長は長友の才能、仕事に対する真摯な態度、日々監督の要求に最大限に応えようと努力していることなどを例にあげて、彼を賞賛している。とにかく長友の契約更新は誰にとっても有益なものとなった。
しかし、ここまでこぎつけるには時間がかり、その道は決して平坦ではなかった。今シーズン初めの長友の状況は今とは180度異なっていた。長友とインテルの契約は2016年の6月までであったため、インテルはそれより前に彼をどこかのチームに売るつもりであった。契約が切れてしまえばインテルに移籍金は全く入らなくなってしまうからだ。
そのためロベルト・マンチーニ監督の構想の中に彼は入っておらず、開幕後も長くベンチを温める日が続いた。しかし長友はそれに不平を漏らすでもなく、いつも通りの、いやいつも以上の熱心さで練習に汗を流していた。彼のもとにはイタリア内外の多くのチームからオファーが寄せられたが、長友はそれもことごとく断った。彼はどうしてもインテルを去る気になれなかったのだ。
そんな長友の姿勢がマンチーニの気持ちを少しずつ変えていった。そして試しに長友を使ってみると、彼は見事にその期待に応える働きを見せた。すべては日々怠ることのなかった練習の成果である。こうして長友はまたピッチに戻り、契約更新の噂も出るようになってきた。
そんな1月。長友とインテルのラブストーリーを一変させてしまうような事件が起こった。マンチェスター・ユナイテッドの役員が、長友を売ってほしいとわざわざミラノにまで出向いてきたのである。彼らが提示してきた金額は200万ユーロ(約2億5000万円)。あと数カ月で契約が切れる選手に対しては破格の値段だ。
この話を受けてインテルは急遽長友と彼の代理人をチーム本部に呼ぶと、状況を説明し、最終的な決断を長友に託した。チームとしては、この金額は拒否しきれないものだったからだ。しかし長友はこの名門レッド・デビルズからのオファーをあっさりと断ってしまった。ルイス・ファン・ハールのもとで、オールド・トラフォードでプレーするチャンスをいとも簡単に切って捨てたのである。
何が彼にそうさせたのか? 長友自身がそれを説明している。
「僕はインテルを愛している。ここに残りたい。マンチーニとの関係は最高だ」
そしてこの発言から2カ月後、ついに契約更新が実現したのである。
頭がよく、仕事熱心で、健康に留意し、実は意外におしゃれでもある。ミラノではよく本田圭佑とともに食事をしているところを見かけるが、テーブルの上にあるのはいつも野菜と赤身の肉、もしくは魚料理。飲みものは必ずミネラルウォーターだ。健全な食事が、彼の健全な体と精神を作っているのだろう。
フロジノーネ戦の前日(この試合、長友は出場停止)、長友はマンチーニと共に記者会見に顔を出し、そこで契約更新の正式発表がなされた。その際マンチーニは親しみを込めて明るいトーンで長友のことをこう語った。
「我々は彼のことを2019年までつなぎとめなければならない」
笑いながらマンチーニは言った。
「彼には心からの賞賛を送るよ。いい選手で、いい青年で、なによりここでプレーするためにビッグクラブからのオファーを断った。この彼のインテル愛は契約更新に値する」
正式発表前にすでにニュースを知っていたチームメイトたちは、ロッカールームで彼に祝福と拍手の嵐を贈った。彼が心から仲間たちに愛されている証拠だ。
「この5年間、応援し続けてくれたサポーターに感謝したい」
長友は会見で言った。
「これからもともにインテルで喜びを分かち合っていきたい。そしてこうしたチャンスを与えてくれたチームにもお礼が言いたい。今後もネラッズーリのユニフォームを着てプレーできることを心からうれしく思う。僕はずっとこのユニフォームに憧れてきたが、それが実現したのはものすごく光栄なことだ。僕はこれまで一度もこのチームを出ていきたいと思ったことはなかった。僕はイタリアが大好きで、インテルで僕は幸せだ」
アッピアーノ・ジェンティーレにあるインテルの練習場前には、長友のサインや写真を求めて待ち続けているサポーターの姿が絶えない。ユウトはインテルを愛し、インテリスタもそんなユウトを愛している。
以前、インテルのマーチャンダイズ担当者にこんな話を聞いたことがある。インテルのユニフォームの中で一番売れているのは、実は長友のものなのだと。日本をはじめとしたアジアだけでない。ここミラノの町でも、インテリスタが一番欲しいのは彼の背番号55のユニフォームなのだ。
マッテオ・ブレーガ●文 text by Matteo Brega
利根川 晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko